「今さら昭和おじさんに学ぶことなんて、あるんですか?」と公言する若手部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE33(後編)】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE33」では、「今さら昭和おじさんに学ぶことなんて、あるんですか?」と公言する若手部下の育成に悩むケースを取り上げます。

「相手を好きになること、リスペクトすることが大事」と教える

   <「今さら昭和おじさんに学ぶことなんて、あるんですか?」と公言する若手部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE33(前編)】(前川孝雄)>の続きです。

   社内外のさまざまな人に学ぶには、相手について下調べをすることが有効です。

   著名人のロングインタビューなどを手掛けるプロのライターや編集者は、インタビュー対象者に会う前に、対象者の人柄、人生、仕事、関心事項、趣味などについて徹底的に調べます。私も編集者時代には意識していました。自分との共通項を見つけると同時に、相手を好きになることも心掛けたものです。

   それは、相手の中に自分が関心を持てる部分、共感できる部分を見つけて、相手をリスペクトするため。そのことで、相手も自分に好感と共感を持ちやすくなり、対話が進むからです。

   そして、相手から多くの有益な情報を引き出し、多くを学ぶこともできるのです。これは職場や取引先で相手に対面し、学ぶ時にも有効な方法だと伝えましょう。

人からの学び方を意識させ、多様な機会をつくる

   上司は、前号CASE32の「経験からの学び」での仕掛けと同様に、週次ミーティングなどで若手部下の当面の仕事を確認するなかで、そこで会う予定の人から何を学ぶのか、そのためには何を準備しどう体面するのが良いか、意識して問いかけるとよいでしょう。

   部下自身に「この人に、こう問いかけ、この学びを得よう」と心の中に留め置くことを意識させることで、人からの学びへの心構えができるのです。そして、次の定例ミーティングで出会いの結果を振り返り、学んだことを確認していくのです。

   また、上司は社内での打ち合わせや、お客様との商談の場などに、可能な範囲で若手部下を同席させるとよいでしょう。多様な人と直に接し、その人ならではの経験談や持論を聞く機会を持たせることで、さまざまな相手から学ぶことの面白さを実感させるのです。

自分の「軸」を定めたうえで、情報収集が大切と伝える

   直接の経験や見聞が一次情報だとすれば、二次情報、三次情報などによる学びはどうしても浅いものになりがちです。しかし、一方で、私たちはインターネットの普及による膨大な情報化から逃れることはできません。

   そこで「情報から学ぶ」にあたっては、まず日々流れてくる大量な情報をよく見極めることです。そうでないとフェィク・ニュースに騙されたり、SNSコミュニティーの中に閉じ込められたりしてしまうフィルターバブルの状態に陥ってしまうのです。

   そうならないためには、連載前号(CASE32)本号前編から見てきた「経験からの学び」や「人からの学び」などを通して、自分自身の思考や価値観の「軸」をしっかりと作っておくことです。

   そのうえで、大量に流れてくる情報の中から、自分が本当に必要なものを選択するために真贋を見極める訓練をすることが大切なのです。

担う仕事のプロフェショナルとしての見方を鍛える

   上司は若手部下に対し、折々の機会に仕事に関わるニュースやトピックスを取り上げて、こう投げかけましょう。

「自社の社員であるあなたとしては、この情報をどう解釈すればいいと思う?」
「お客様へのサービスの観点から、この情報はどう活用や展開ができると思う?」

   情報をめぐる対話によって学習を深めさせるのです。

   若手社員はネット情報の収集に長けている分、意見を求められた際に、無意識のうちに二次情報や三次情報をただ請け売りしているだけの場合も考えられます。

   そこで、自社の社員としての「軸」づくりの一環として、情報をもとに自分で考える力を鍛えるのです。それから、世の中のトレンドや、社会・経済をどう見るかという相場観を養いましょう。自社のプロフェッショナルとしての自分なりの見方を鍛えるサポートをしていくのです。

   自分自身のしっかりとした軸ができてくると、今日の情報化社会はとても便利です。さまざまな情報に簡単にアクセスできるだけでなく、必要な情報だけを集中して集めることもできます。

   探究心さえあれば、必要な情報をどんどん得て、経験や人からの学びにも活用し、さらに成長していくことができるでしょう。

「知識より知恵。情報を活用できる力が大事」と説く

   今日、明確な目的のもとに必要な知識や情報を調べたければ、インターネットで瞬時に検索できます。逆に言うと、単に知識や情報をより多く集めたり、必要な時に引き出すだけの力の価値は薄れてきています。

   すなわち、知識を蓄積する力以上に、どこにどのような情報リソースが在るのかを知っていることが重要です。その情報ネットワークを臨機応変に活用しながら、仕事の仮説を立て、新しい仕事や役割を創り出していく知恵こそが求められているのです。

   これはいわば、仕事のデザイン力、プロデュース力と言い換えてもいいでしょう。また、このことは、自分一人で孤軍奮闘することなく、周囲を巻き込む力でもあり、人や組織を動かす力にもつながるものです。既存の業界情報などを熟知するだけに留まらず、より創造的な知に変換していく能力が求められる時代と言えるのです。

   生成AIの登場によって、こと若手は人知にも勝る「超知性」と共存する社会やビジネスを作っていくことになります。まさに「人ならでは」の共感力や創造力による知恵が問われることに留意が必要でしょう。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。

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