科学的な評価は問題なくても... 子孫の代を思い、不安感
国内外の反応は、「安心と安全」と言われるように、科学的な議論と、不安感などが絡んでいる。
IAEAは、国際的に原子力を推進する組織。それだけに、反原発派は今回の報告書も、日本政府と一体になって原発を動かしていく動きの一環ととらえ、「IAEAの報告書は、汚染水の海洋放出を正当化するものではなく、放出設備の性能やタンク内処理水中の放射性物質の環境影響などを評価したに過ぎない」(NPO法人原子力資料室)などと、政府がIAEAを「お墨付き」として放出に動くことをけん制している。
ただ、IAEAの報告書が科学的な根拠を示して論じているのは確か。こうした議論では、反対論に疑問符が付くことも多い。
たとえば、トリチウム自体は、実は、世界の原発でも完全除去できず、大量に海洋に放出されている。福島第一原発の場合は、事故前は年間2.2兆ベクレル排出しており、今回の放出計画では年間22兆ベクレルに増える。
ただ、たとえばカナダ・ダーリントン原発は190兆ベクレル、中国広東省・陽江原発は112兆ベクレル、韓国・月城原発も71兆ベクレル(いずれも2021年)など、福島の計画をはるかに上回る量を排出している。
「日本は世界の海洋環境や公衆の健康を顧みない」(中国共産党機関紙「人民日報」)などの批判が、多分に政治的なものだと考えられる由縁だ。
もっとも、廃炉作業の見通しが全く立たないなか、処理水の放出は数十年、あるいはそれ以上かかると見込まれている。「海洋放出が始まってしまえば半永久的に続き、子孫の代が福島で漁を続けていけるのか心配だ」(福島の漁民)といった不安の声が出るのも、また当然だろう。
科学的な視点でも、「海にすむ生物が体内に取り込むことによる『生物濃縮』の可能性は専門家でもわかっていない」(大手紙科学部デスク)。さらに、「過去に何度も隠蔽やデータの改ざんをしてきた東電の提供するデータを安全監視の根拠にするべきではない」(中国外務省の汪副報道局長)との指摘は、日本にとって耳の痛いところだ。