今回紹介したいのは、最上級クレジットカードのNo.1コンシェルジュの「期待以上に応えるためのコミュニケーションの極意」を説き明かした一冊である。
クレジットカードのコンシェルジュは、電話口で声と耳だけで接客しなければならないそうだ。そのため、言われたことだけでなく、付加価値をつけた「期待以上」に応えるサービスが求められる。それは何なのだろうか?
『期待以上に応える技術』(網野麻理著)フォレスト出版
「究極のサービス」とは何か?
著者の網野さんは、究極のサービスを「お客様に気づかれないサービス」だと指摘する。それは、お客様に対し、常に期待を超える「プラスαの応対ができること」だと言う。
「私がよく使うラウンジのスタッフは、過去に注文したお茶の種類を覚えています。紅茶の種類だけでもものすごい数があるのですが、その中でも私の好みを覚え、毎それを出してくれるので、ティーカップにお茶がなくなりそうになると、こちらからお願いしなくても注いでくれます。常に充たされている状態でくつろぐことができます」(網野さん)
「このホテルがすばらしいのは、お客様のお茶の飲み方を見ている点です。カップいっぱいに注がれているお茶と、残り少ないお茶を飲み干そうとしているのとでは、それぞれ飲み方が違います。それを遠くから観察し、お客様のお茶がなくなった絶妙なタイミングで注ぎに来てくれるのです」(同)
お客様がくつろげるよう、最大の気配りをしながらサービスを提供する――。これこそが「期待を超えるサービス」と言える。
「期待していないサービス」を提供するには?
また、網野さんは、お客様のお誕生日に「おめでとうございます」とお祝いを伝えるのは、「期待どおりのサービス」だと言う。しかし、お孫様のお誕生日にも「おめでとうございます」と言えたとしたら、それは「期待を超えるサービス」になると指摘する。
「お客様からお孫様のプレゼントのご相談を承り、その履歴を控えておけば、1年後に『お孫様のお誕生日、もうそろそろですね』とお伝えすることができます。自分が大切にしている人や物を一緒に大切にしてもらったと実感したとき、人はとてもうれしくなるものです」(網野さん)
「さらに、自分が伝えたことを長い間ずっと覚えていてくれたということも、期待を超える心遣いにつながります。『期待していないサービスの提供』は、お客様との心の距離をぐっと近づけてくれます」(同)
お客様の記憶に残るサービスとは、お客様のことをよく知り、それをさりげなく提供する――。そうした積み重ねによるものでもあるのだ。
TDLの会員制レストラン「クラブ33」での出来事
クレジットカードの最高峰ブラックカード。筆者である私も、かつては数枚のブラックカードを所持していた。だが、リーマン・ショック以降、不況の波がカード業界にも押し寄せてきた。結果的に、現在も所持しているのは、JCB「ザ・クラス」のみである。
当時は「オフレコ情報」だったが、この「ザ・クラス」を所持していると、東京ディズニーランド(TDL)の「クラブ33」が予約できた。「クラブ33」はTDL内の会員制レストランで、一般には公表されていない場所だった(が、ネットなどを通じて広く知られるようになってしまった)。本人を含めて8名まで予約可能だったので、私はよく接待に活用していた。
予約の際は、「ザ・クラス」のデスクからTDLに連絡が入る仕組みだった。ある大型連休の際、到着すると、入場制限が掛けられていた。しかし、スタッフに説明すると、「モーゼの十戒」のごとく道が出現する。さらにゲートをくぐると、目の前が駐車場に早変わりする。
こうなると、ちょっとした優越感を感じる。取引先の部長の奥様や子供は、まるで魔法でも見るかのように私を見つめている。しかし、こんな状況を演出できるかどうかも、コンシュルジュの対応次第である。
それから、食事を堪能して、お土産を買って、いよいよホテルにチェックインすることになった。ホテルは当時(も今も)人気の「シェラトン・グランデ・トーキョーベイ」。しかし、フロントはごった返していた。チェックインまで1時間は掛かりそうなくらいに混んでいた。すると、「クラブ33」の緑の袋を見つけたホテルスタッフが駆け寄ってくる。奥の個室でチェックインの手続きをしてくれたのだった。
取引先の部長の奥様や子供はおろか、部長本人までが羨望の眼差しで私を見つめている。翌年の継続受注をこの時に確信した。現在、「ザ・クラス」を所持していても、「クラブ33」に入店できない。現在ではこの特典は取り扱われていないからだ。しかし思い出すにつけて、毎回、スペシャルな対応をしていただいた。そんなこともあり、「ザ・クラス」は大切な一枚としていまだに愛用している。
本書は、世界でNo.1コンシェルジュとして、14年間、16万人に接客して培ってきたサービス&コミュニケーション術を完全公開した作品である。2014年発刊だが、色あせない読み応えのある内容である。営業のみならず、接客、クレーム対応といったビジネスシーンにも役立つのではないかと思う。(尾藤克之)