仕事は「組織型」から「プロジェクト型」に
第1章は「働き方」だ。
仕事は「組織型」から「プロジェクト型」に変わるという。その主体はDAO(分散型自律組織)だ。プロジェクトごとに立ち上げられるので、いわば映画制作の現場のようになる。
伊藤さんも「Henkaku」というコミュニティを主宰し、換金性のない独自のトークンを発行しているそうだ。感覚的には「Facebookグループをつくる」くらいの手軽さでつくれるが、DAOが発行するトークンはブロックチェーンに記録されるので、透明性が高い。
DAOには「株主、経営者、社員、契約社員、アルバイト」という構図がないので、働き方は勤め先に縛られなくなる。
ただし、現状の日本ではトークンを発行・上場するだけで重い税を課せられるので、DAOを立ち上げるのはかなり難しいそうだ。
第2章は「文化」。
NFTによって「アーティストが自分の力で稼げる仕組み」が生まれた。アーティストが事業者になれることを高く評価している。そして、文化の本質は「消費するもの」から「コミュニティに参加するもの」へと変化する、と指摘している。
何をNFT化したら面白いか、いくつかアイデアを披露している。たとえば、以下のように。
・映画制作のスタッフジャンパーのように、コミュニティメンバーにだけ付与される、転売不可なデジタルファッション。これを自分のアバターが身につければ、そのコミュニティのメンバーであることを示すことができる
・コミュニティに貢献した人だけに付与される、転売不可の「ありがとうNFT」。このNFTを持っていると、コミュニティのイベントに参加できたり、コミュニティのデジタルプロダクトなどが贈られてきたりする
・レストランで「よい振る舞い」をしたお客に付与される、転売不可の「上客NFT」。このNFTを持っていると、「一見さんお断り」のレストランでも予約がとれる
非金銭的で長期的な価値であるという点において、宗教的行為や学位をNFT化することも提案している。伊藤さんが所長を務める千葉工業大学変革センターでも、学位を発行する準備をしているそうだ。学歴詐称や卒業証書の偽造といった問題はなくなる。
Web3で形成される「クリプトエコノミー」は、アメリカの若者の間で、「BANKLESS(銀行なし)」という社会的な動きになっているという。
稼いだ仮想通貨を仮想通貨ATMで現金に替えて、モノを買う。したがって現金を預けておく銀行は必要ないというワケだ。世界中で当たり前のようにして暗号通貨が使われる日もある、と予測している。
第3章の「アイデンティティ」では、人類は「身体性」から解放され、「場ごとの文脈に沿った自己として存在する」という大胆な予測をしている。メタバースがそうした多様性を生むからだ。「本当は何者なのか」が関係ない世界の到来という予測は興味深い。
さらに、第4章「教育」では、学歴の意味は薄くなり、学校内外でどんな活動をしたのか。社会に出てからはどういうコミュニティで、いかに貢献し、何を達成してきたか。――こうした履歴すべてがブロックチェーンに記録されるので、個人の能力・資質があからさまになると考えている。逆に、いまの学歴社会よりも厳しい社会かもしれないが、「学びと仕事が一本化する」という。
新たな直接民主主義が実現する未来。だが、日本では、Web3時代に求められる優秀なエンジニアやスタートアップが続々と海外に拠点を移している。
トークンを発行・上場して投資家に買ってもらう資金調達法が、事実上不可能だからだ。そのため、クリプトエコノミーに関する法整備を求めている。
「最先端テクノロジーが、日本再生の突破口を開く」という著者の心意気に賛同する人は多いだろう。(渡辺淳悦)
「テクノロジーが予測する未来」
伊藤穣一著
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