2015年のパリ協定以来、世界各国は2050年までの「カーボンニュートラル」(=CO2排出量の実質ゼロ)をめざすなかで、とりわけ大きな転換点を迎えているのが自動車業界だろう。
自動車業界は、電気自動車(EV)をはじめとするガソリン車に代わるモビリティーの開発、あるいは、生産においてもサプライチェーン全体で関係企業と協働した「脱炭素」が進んでいる。
一方では、さらに大きな視点で、「脱炭素社会」の実現を目指して、「脱炭素」を通じた地域振興・地域貢献にも貢献したいと考えている自動車メーカーがある。
それは、アウディ ジャパンだ。
アウディ ジャパン(東京都品川区)では2023年7月10日・11日、鹿児島県屋久島町で持続可能な取り組みを進める人・会社をつなぐ「Audi Sustainable Future Tour」と銘打つイベントを開催した。
11日には、アウディ ジャパンと屋久島町、アウディの正規ディーラー「ファーレン九州」の3者による包括連携協定を調印した。包括連携協定によって「持続可能な島づくり」を進めていくといい、屋久島は「脱炭素に一番近い島」として、ますます存在感を発揮していきそうだ。
「脱炭素に一番近い島」とアウディが連携 再生可能エネルギーの活用と教育支援で協力
アウディではかねてから、ブランドビジョンである「Future is an attitude(その進化が、未来を創る。)」を掲げ、CO2の排出や地球温暖化対策など、「持続可能な社会」の実現に向けて力を注いでいる。今回のイベント「Audi Sustainable Future Tour」は、それらの重要性について、一人ひとりが考えるきっかけを作りたいとの思いから企画された。
今回のイベントの舞台となったのが屋久島町だった。屋久島町は1993年には樹齢数千年の屋久杉をはじめ、貴重な自然環境や自然資源が世界的な評価を得て、世界自然遺産に登録され30年を迎える。
さらに、屋久島町の電力事情としては、年降水量8000ミリという膨大な雨量と平均標高が600メートルという地域資源の豊富さを活用した、水力発電所を有している。島民の使用する電力のほぼ100%を再生エネルギーで賄っており、「脱炭素に一番近い島」とも呼ばれている。
7月11日には、アウディ ジャパンのブランドディレクターのマティアス・シェーパース氏と、ファーレン九州代表取締役社長の金氣重隆氏、屋久島町長の荒木耕治氏ら、屋久島観光協会ガイド部会長などが参加し、持続可能な未来の実現をディスカッションする「未来共創ミーティング」が実施された。そのなかでは、包括連携協定の取り組みの発表があった。
協定に基づく具体的な取り組みとして、
(1)電気自動車などに利用できる8kWの普通充電器を、役場をはじめ7基を島内に設置「バッテリー式電動自動車の普及に貢献するインフラストラクチャー整備のサポート」
(2)ファーレン九州から、電気自動車を使ったレンタカー事業の開始(23年10月から)と、公用車として電気自動車を2台貸し出す「アウディの電気自動車『e-tron』を活用した地域活性化」
(3)高校生への特別授業や自動生産施設への招待など「屋久島の生徒に対する学習機会の提供」
を実施するという。
今回の協定に関して、シェーパース氏は「持続可能な未来をつくるための連携協定」であることを強調し、包括連携協定の取り組み内容について「自動車メーカーとして何ができるのかを考え、さまざまな分野で連携していきたいと考えています」とあいさつした。
これに対して荒木町長は
「屋久島は台風常襲地域で停電が起きることがよくあるという事情があり、EV車導入拡大による車載型蓄電池として活用することや、大型蓄電池を内蔵する電気自動車と充電ステーションを整備し、非常事態時には避難所等に電力を供給するシステムの構築を目指したい。
世界的にも『脱炭素に一番近い島・屋久島』として、島内エネルギーの適正管理と再エネの有効活用に生かしていきたい」
と述べていた。
なお、これまでに、アウディ ジャパンではバイオマス発電を行う岡山県真庭市、地熱発電を行う岩手県八幡平市、太陽光発電をAudi浜松に設置する静岡県浜松市の3か所を訪問し、屋久島町で4か所目となる。