政府が大学の研究力強化のために立ち上げた「10兆円の大学ファンド」の2022年度の運用実績が604億円の赤字だったことが明らかになった。ファンドの運用を行っている国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は2023年7月7日、「2022年度業務概況書」を公表した。
政府創設の「10兆円の大学ファンド」、年間3000億円の運用益から大学への助成目指す
「10兆円の大学ファンド」は2020年12月の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」で閣議決定された。
「10兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益を活用することにより、世界に比肩するレベルの研究開発を行う大学の共用施設やデータ連携基盤の整備、博士課程学生などの若手人材育成等を推進することで、我が国のイノベーション・エコシステムを構築する」ことを目的として、大学ファンドはJSTに設置され、2022年3月から運用を開始した。
政府の総合科学技術・イノベーション会議による「大学ファンドの資金運用の基本的な考え方」では、世界と伍する研究大学の実現には、長期的な視点から年間3000億円程度の支援額を必要とし、同時に、長期的かつ安定的にこの支援を行うために大学ファンドが取り得るリスクを求めるための資産構成割合として、「グローバル株式とグローバル債券の運用比率を65%と35%」とするポートフォリオが示された。
JSTでは2021年3月に「資金運用部」を新設。その後、2021年8月に「資金運用本部」と「運用リスク管理部」に改組し、運用体制を整備した。
JSTは総合科学技術・イノベーション会議で示された運用方針をベースに、資産間の分散効果(投資資産、地域、セクター等の分散、複数の資産に横断的に投資するファンドへの投資等)を利用しつつ、長期的かつ安定的に国内外の経済全体の成長を運用益に結び付けていくため、グローバル投資(世界各国への投資)を積極的に推進している。
さらに、原則としてパッシブ運用(運用目標とするベンチマークに連動する運用成果を目指すもの)と、アクティブ運用(運用目標とするベンチマークに対して超過収益の獲得を目指すもの)を併用する。そのほか、伝統的な運用商品以外の投資対象や投資手法であるオルタナティブ投資についても、リスク分散や中長期的収益確保の観点から、戦略的に推進している。
「当期総利益」では742億円の黒字に 運用のマイナス要因にグローバル株式・グローバル債券の資産価格の下落、プラス要因に為替の寄与
この結果、2022年度末の「運用資産額」は9兆9644億円、実現収益額(簿価ベース)に評価損益額の増減等(時価ベース)を加味した収益額(運用手数料等控除前)の「総合収益額」は604億円のマイナス(元本比0.6%減)となった。
また、損益の「当期総利益」は742億円の増加、保有資産の時価評価による評価差額は1259億円だった。
資産構成割合は、グローバル債券が54.6%(5兆4445億円)、グローバル株式が17.2%(1兆7101億円)、オルタナティブが0.6%(643億円)、短期資産(預金等)が27.6%(2兆7455億円)となっている。(グラフ)
また、運用手法別の資産構成割合は、グローバル債券のパッシブ運用が11.1%(1兆1039億円)、同自家運用が43.6%(4兆3406億円)、グローバル株式(パッシブ運用)が17.2%(1兆7101億円)、オルタナティブ(アクティブ運用)が0.6%(643億円)だった。
運用成績では、資産全体の収益率は2.2%のマイナス、グローバル債券が3.6%のマイナス、グローバル株式が1.7%のプラス、オルタナティブが4.5%のマイナスだった。(表)
収益率および収益額となった主な要因として、マイナス要因はグローバル株式およびグローバル債券の資産価格の下落、プラス要因は為替の寄与としている。
大学ファンドの当面の目標は、2026年度末までの可能な限り早い段階で、3000億円の運用益を達成することだ。
なお、大学ファンドによる助成は、各大学が作成する「国際卓越研究大学研究等体制強化計画」に対して、国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学を「国際卓越研究大学」として、文部科学省が認定して実施される。7月現在、2024年度中の助成開始を目指し、国際卓越研究大学の公募・選定が進んでいる段階だ。
JSTの運用が好結果をあげ、各大学への助成が順調に進み、大学の研究活動が活発化することで、日本の技術革新が進み、経済へ好結果をもたらすことを望むばかりだ。