「物価高」を起因とする企業の倒産が止まらない。
2023年上半期(1~6月)の物価高倒産は300件で、前年同期(90件)の3.3倍(233.3%増)に急増したことが、東京商工リサーチの調べでわかった。2023年7月10日の発表。
上半期を終えた時点で、すでに2022年の年間件数285件を超えた。エネルギー価格や原材料の高騰、穀物高などを背景に、物価が急騰。それに伴うコストの上昇が、企業の資金繰りを圧迫している。
物価高に伴うコスト上昇で資金繰りが深刻に...
東京商工リサーチによると、2023年上半期の「物価高倒産」は、2023年上半期の「物価高倒産」は300件(前年同期比233.3%増)だった。前年上半期の90件から、3.3倍に急増した。
四半期ごとの物価高倒産の平均件数は、22年4~6月期は18件だったが、同年10~12月期に43件、23年1~3月期が47件、同4~6月期が52件と、時間の経過とともに増勢を強めている。【図1参照】
この動きを裏付けるように、2023年上半期(1~6月)の物価高倒産は、前年の年間件数の285件を半年で超えた。
企業が苦しむ背景には、コロナ禍に企業の資金繰りを支援してきた、いわゆる「ゼロ・ゼロ融資」(実質無利子・無担保融資)の終了がある。しかも、その返済が始まったタイミングに合わせるように、物価高に伴うコスト上昇が企業を襲っているのだ。
また、アフターコロナに向けて経済活動が動き出しているものの、売り上げの伸びに伴い企業は仕入が増えるが、物価高で仕入コストが嵩んでいる。そのため、価格転嫁できない企業は収益悪化を招き、資金繰りを圧迫。さらに、5月の実質賃金は14か月連続で前年同月を下回り、今後は個人消費の鈍化の影響も危惧される。
ロシアのウクライナ侵攻や円安を背景に、原材料や資材、エネルギー価格の上昇が続いており、価格転嫁の実現が難しい中小・零細企業ほど物価高が直撃している。
東京商工リサーチは、
「物価高倒産は引き続き増勢をたどる可能性が高い」
とみている。
製造業の「物価高倒産」前年から5倍増
物価高倒産を産業別でみると、10産業のうち、金融・保険業を除く9産業で前年同期を上回った。倒産件数が最も多かったのは「製造業」の75件(前年同期比400.0%増)で、前年の15件から5倍も増えた。
次いで、「建設業」が59件(前年は17件。前年同期比247.0%増)、「運輸業」が50件(同32件、56.2%増)、「卸売業」が40件(同10件、同300.0%増)、「サービス業ほか」が35件(同4件、同775.0%増)だった。【図2参照】
再び円安傾向が強まり、今後も物価高が幅広い産業に影響を及ぼすことが懸念される。
業種別でみると、最も多かったのは「道路貨物運送業」の46件(前年同期29件)。次いで、「総合工事業」の31件(同12件)、「食料品製造業」25件(同9件)が続いた。
燃料価格の高止まりに加えて、資材や原材料、食材など幅広い分野で値上がりが進んだ。さらに、水道やガス、電気代などのインフラ料金、人件費も上昇している。
その一方で、価格転嫁の遅れから企業収益が悪化。資金繰りに深刻な影響を及ぼしていることがうかがえる。
また、物価高倒産を形態別(件数)にみると、「破産」が263件(前年同期比216.8%増)で、全体の87.6%を占めて圧倒的。「特別清算」が5件(同400.0%増)で、消滅型の倒産が全体の9割(89.3%)を占めた。
東京商工リサーチは、
「業績回復の遅れと物価高によるコストアップで先行きの見通しが立たず、事業継続を諦める企業の多さを示す」
とみている。
一方、再建型の「民事再生法」は11件(同450.0%増)、「会社更生法」が前年同期と同じ1件だった。
この夏、「ゼロ・ゼロ融資」の返済がピークを迎える。
東京商工リサーチは、
「過剰債務を抱え、コロナ禍からの業績回復が遅れ、新たな資金調達も難しい企業が破産を選択している状況を示している」
と指摘する。
1億円以上の負債が6割占める
物価高倒産を負債額別でみると、最も多かったのが「1億円以上5億円未満」の134件(前年同期比226.8%増)で、全体の44.6%を占めた。また、「5億円以上10億円未満」が19件(同111.1%増)、「10億円以上が24件」(同140.0%増)で、合わせて「1億円以上」が177件で約6割(59.0%)を占めた。【図3参照】
資本金別でみると、「1000万円以上」が165件(前年同期比243.7%増)で、全体の55.0%を占める。中堅クラスにも影響が及んでおり、事業規模を問わず、物価高が企業経営に大きな影響を及ぼしていることがうかがえる。
地区別の倒産件数は、9地区のすべてで前年同期を上回った。増加率が最も大きかったのは、「北陸」の前年同期比1300.0%増(1→14件)だった。
次いで、「関東」が456.2%増(16→89件)、「中部」の300.0%増(9→36件)、「近畿」207.1%増(14→43件)、「東北」190.9%増(11→32件)と続いた。前年同期がゼロだった「四国」で10件発生した。
都道府県別でみると、最も多かったのは、「北海道」の29件(前年同期比123.0%増)。次いで、「東京都」の28件(前年同期ゼロ)、「大阪府」が21件(同110%増)、「埼玉県」と「神奈川県」がそれぞれ17件、「兵庫県」が13件、「三重県」12件、「宮城県」と「福岡県」が各11件、「愛知県」が10件で続いた。
7月に入り、再び円安基調で推移するなか、原材料や資材価格だけでなく、光熱費の上昇などの物価上昇が続いている。価格転嫁が追い付かず、コロナ禍の支援策の副作用ともいえる過剰債務を抱え、金融機関から新たな資金調達が難しい企業は少なくない。
経営の体力が脆弱な企業を中心に、物価高が倒産を押し上げる構図がさらに強まっている。
なお、調査は2023年上半期(1~6月)の企業倒産(負債1000万円以上)のうち、(1)仕入コストや資源・原材料の上昇(2)価格上昇分を価格転嫁できなかった――ことにより倒産(私的・法的)した企業を集計、分析した。