製薬大手、第一三共の株価が2023年7月4日の東京株式市場で一時、制限値幅の下限(ストップ安)となる前日終値比700円(15.3%)安の3878円まで下げ、約9か月ぶりの安値をつけた。
前日3日、英アストラゼネカと開発中の抗がん剤「Dato-DXd」(ダトポタマブ・デルクステカン)の臨床試験の一部で、当局の承認に向けた前進を期待できる結果を示せず、失望売りが集まった。
足元の業績はすでに発売している別の抗がん剤「エンハーツ」の販売が好調で、株価も堅調だった。だが、将来の業績けん引が期待された新薬のつまずきにより、ネガティブサプライズをもたらしたかっこうだ。
臨床試験の中間解析結果、一定の効果は見られたが... 証券会社リポート「ネガティブな印象」
今回、臨床試験の中間解析結果が出たのは、「Dato-DXd」によって非小細胞肺がん患者を対象とした治験だ。このうち、「全生存期間(OS、原因を問わず死亡するまでの期間)」で有意な改善を示せなかった。ただ、「無増悪生存期間(PFS、治療中や治療後に病状が進まず安定した状態の期間)」は有意な改善があったという。
SMBC日興証券は今回の臨床試験結果について、「PFS、OSともに明確な効果を示すと予想しており、ネガティブな印象」としたうえで、「競合薬が2024年5月に中間データを取得予定であり、競合薬が先に承認されて市場を奪われる可能性がある」と指摘した。
もっとも、効果が見える部分もあるわけで、開発が止まることもない。アストラゼネカとともに進める最終解析次第では、再び市場の期待が高まることもありそうだ。
24年3月期連結決算の業績予...想最終利益5.3%増の1150億円見込む 抗がん剤「エンハーツ」の売上高は5割以上の伸び予想
第一三共の足元の業績は好調だ。2023年3月期連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益が前期比22.4%増の1兆2784億円、営業利益が65.1%増の1205億円、最終利益が63.0%増の1091億円だった。
抗がん剤「エンハーツ」は2020年に米国で販売を始めた新薬で、乳がんや胃がんなどの治療に用いられている。従来の薬より副作用を抑えつつ効果をあげていることで、投与が広がっている。23年3月期のエンハーツの売上高は2075億円で全体の16%程度を占め、全体の収益も押し上げた。
24年3月期連結決算の業績予想は売上収益が前期比13.4%増の1兆4500億円、最終利益は5.3%増の1150億円。エンハーツの売上高は5割以上伸びる3200億円を見込む。
こうした状況から4月下旬の決算発表直後の時価総額は国内製薬2位の武田薬品工業に2兆円近い差をつけて9兆円を超えていた。現状でも首位をキープしているが、7兆8000億円程度で、7兆円程度の武田との差は縮まっている。
今後は、他にも進めているがん治療薬など新薬の開発の動向が株価のカギを握りそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)