トラブル続出のマイナンバー制度とともに、信用ががた落ちしている御仁がいる。一時は「次の首相」とまで言われた河野太郎デジタル相だ。
マイナンバーに不安を募らせる国民の心配をあざ笑うかのような「余計な一言」が目立ち、岸田政権の足を引っ張っている。
連日の河野発言に「マイナンバーに対する国民の不信を深めるだけ」
「返納が増えていると言うが、微々たる数だ」。河野氏は2023年7月8日、静岡市内で記者団にこう言い切った。
一連のトラブルを受け、全国では一度交付されたマイナンバーカードを自主返納する動きが広がっている。
2016年1月以降の返納数は47万件。デジタル庁はその多くは「引っ越しが重なった結果、追記欄がいっぱいになった」など事務的なものだとしている。一方で、トラブルを受けた返納数は「把握していない」という。
河野氏は7月7日の閣議後会見でも「(自主返納が)数件から十数件になったとの報道は承知している」としたうえで「全体の件数は把握していないが、その程度の数だと思っている」と明言した。
さらに、現在、相次いでいるトラブルは、すでにマイナンバーに紐付けられた各種情報の誤記が原因だとして「カードを返納して、誤りが解消するわけではない」と強調した。
まるで自主返納をした人の認識不足をあざ笑うかのような発言を連日のように繰り返し、メディアやSNSで大炎上した。
これに頭を抱えているのは首相官邸だ。
ある政府関係者は「あれでは、マイナンバーに対する国民の不信を深めるだけだ。利用者との対立をあおるような河野氏の言動が、かえって世論の反発を呼んでしまっている」とため息をつく。
7月10日発表のNHKの世論調査では、岸田内閣を「支持する」は、前月から5ポイント下がって38%、「支持しない」は4ポイント上がって41%となり、2か月続けて支持率が下落。
また、マイナンバーに関する政府の対応が適切だと思うかの問いには、「適切だと思う」33%、「適切だと思わない」49%、「わからない、無回答」が18%で、マイナンバーを巡る混乱が支持率を押し下げていることがうかがえる。
秋までに最終報告まとめるマイナンバーの「総点検」、実務を担う自治体から「不満の声」が
政府のシナリオにも狂いが生じ始めた。
政府は現在、マイナンバーの「総点検」に着手しており、8月上旬に中間報告、秋までに最終報告をまとめる予定だ。
マイナンバーに紐付けた情報に誤りがないかを確認することで、国民の不安を取り除く狙いだ。ところが、その中心となる河野氏の存在が混乱を引き起こしている。
総点検の実務を担うのは地方自治体。しかし、当の自治体関係者からは「デジタル庁から何も指示が降りてこない」と不満の声があがる。
8月早々に中間報告をまとめる政府の方針にも「夏休み返上で取り組めというのか」と批判が殺到しており、一筋縄ではいきそうにない。
個人情報保護委員会、デジタル庁を立ち入り検査へ 「正念場」河野氏は、信頼回復にどう対応?
政府内からも追及の声があがる。
政府の個人情報保護委員会は7月5日、「マイナンバーに関する委員会の対応状況」と題した資料を発表した。それによると、同委員会は6月30日にデジタル庁からマイナンバーに関する報告を受けたが内容が不十分だったとして、マイナンバー法に基づき、同庁の立ち入り検査を実施すると表明した。
個人情報保護委は独立性の高い組織だが、河野氏が担当大臣としてデジタル庁と兼務している。河野氏は自らが所管する委員会から、立ち入り検査を受けることになる。まさに四面楚歌といえる状況だ。
さらに、悪戦苦闘する河野氏を支えようという声が、霞が関からは盛り上がらない。
「河野大臣もデジタル庁も当初、多少のトラブルはあっても『新制度導入時にはよくあるミスだ』と軽く考えていた。そのボタンの掛け違いが現在まで響いている」。ある省庁幹部は冷ややかだ。
マイナンバーのトラブルは拡大を続け、いまや岸田政権の屋台骨を揺るがす大問題に発展している。河野氏が仕切る総点検で大きなミスが明らかなれば、致命傷にもなりかねない。
最近では世論や野党に加え、与党以内からも河野氏の責任を問う声が上がり始めた。
自民党関係者は現状をこう説明する。「河野氏にとって、まさに正念場。ここを乗り越えられなければ、首相候補の一角からすべり落ちることになるだろう」。(ジャーナリスト 白井俊郎)