雇用統計を過大評価、過少評価するFRBの危険性
ところで、そもそも米雇用統計は正確に米国経済の実情を反映しているだろうかと、基本的な疑問を投げかけるのが野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「米雇用統計は景気を過大評価しているか?(6月米雇用統計)」(7月10日付)のなかで、ほかの経済指標に弱さがみられるのに、雇用統計だけが予想外の堅調を維持していることに対し、民間エコノミストの間で、「雇用統計の雇用者増加数が過大評価されている」という見方が広がっていると指摘する。
それは、5月雇用統計では「事業所調査」の雇用者数が前月比で約34万人増加する一方、「家計調査」の就業者数が同31万人も減少し、両者の乖離が大きく広がったからだ。この「家計調査」の就業者数のほうが、より実態を表しているのではという疑問だ。
実は、米国の雇用統計は「事業所」に対する調査(何人雇用し、いくら賃金を払っているかなど)と、「家計」に対する調査(就業しているか、失業しているかなど)の両方を合わせて公表される。
ところが、両者は大きく食い違うことが多い。理由の1つに、就業者の対象の違いがある。自営業者は事業所調査に含まれないが、家計調査には含まれる。また、兼業者の場合は、事業所調査では二重計上される可能性がある。
通常はサンプル数が圧倒的に多い「事業所調査」のほうに注目が集まる。しかし、「事業所調査」には新たに生まれた企業による新規雇用や、事業閉鎖に伴う雇用者減少が、納税データが手に入る数か月後の「確定値」にならないと反映されない、という問題点がある。
木内氏はこう危惧する。
「しかし、経済の転換点においては、事業所調査での雇用者数の精度が低下し、家計調査のほうが信頼性は高まる時期がある。現在がそれに当たるかもしれない。
金融引き締めの影響で、経営環境が悪化する現局面では、新規の企業設立による雇用者増加数の推計値は過大評価、事業所閉鎖による雇用喪失数の推計値は、過小評価されている可能性がある。その場合、創廃業に伴う雇用の純増数の推計値で調整した雇用者増加数は、実態よりも上振れることになる」
「家計調査」の雇用者数に注目すれば、米国経済が弱り始めていることになる。木内氏はこう結んでいる。
「FRBは来年(2024年)2月に確定値が発表されるまで、実態よりも強い雇用統計に基づいて金融政策を決定するのだとすれば、景気を過剰に悪化させてしまうオーバーキルのリスクが高まるのではないか」
ここでも、オーバーキルのリスクが懸念されているのだ。7月12日には米国6月消費者物価指数が発表される。その数字にも注目だ。(福田和郎)