「歴史的な春闘賃上げ効果」はどこに? 5月実質賃金1.2%減、14か月連続マイナス...エコノミストが指摘「実質賃金下落は、あと1年以上続く」

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   あの、「歴史的な春闘の賃上げ効果」はどこへいったのか?

   厚生労働省が2023年7月7日に発表した5月分の毎月勤労統計(速報)で、物価を考慮した働き手1人あたりの「実質賃金」が、前年同月よりも1.2%減った。減少は14か月連続だ。

   今年の春闘では、30年ぶりの高い賃上げ率を誇り、その「成果」が5月の実質賃金上昇に表れると期待したほうが甘かったのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 日本経済の行方は?(写真はイメージ)
    日本経済の行方は?(写真はイメージ)
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厚労省「春闘効果が表れ始めているが、物価上昇に追いついていない」

   厚生労働省が7月7日に公式サイトに公開した「毎月勤労統計調査 令和5年5月分結果速報」(全国の従業員5人以上の事業所3万2713箇所が対象)や報道をまとめると、「名目賃金」にあたる、基本給や残業代などを含めた1人当たりの現金給与総額は、平均で前年同月より2.5%増の28万38686円だった。

   このうち、基本給などの所定内給与は1.8%増の25万2132円、残業代などの所定外給与は0.4%増の1万8371円だった。

   現金給与総額を、就業形態別にみると、フルタイムの一般労働者が3.0%増の36万8417円、パートタイム労働者が3.6%増の10万2803円だった。

   一方、5月は消費者物価指数が3.8%増と、前月の4.1%増より下がったとはいえ、高い水準を維持しており、名目賃金の伸びを上回った。このため、実質賃金指数は2020年を「100」とすると、「84.2」(1.2%減)となった【図表1】。

   これは、14か月連続のマイナスだ。ただし、前月の3.0%減よりはマイナス幅を圧縮している。

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(図表1)名目賃金と実質賃金の動き(厚生労働省公式サイトより)

   いったいどういうことか。今年の春闘賃上げ率は3.58%増(連合集計、7月5日時点)と、「30年ぶりの高水準」になったはずではなかったのか。

   報道各社は、厚生労働省担当者の「春闘の結果が表れ始めているが、5月の時点では物価の上昇に追いついていない。一方で、実質賃金のマイナス幅は小さくなっており、今後に注視したい」とのコメントを伝えている。

「物価上昇圧力が続き、個人消費が息切れする」

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春闘の賃上げ効果のほどは?(写真はイメージ)

   こうした結果をエコノミストとはどう見ているのだろうか。

   ヤフーニュースコメント欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏が、

「現金給与総額(1人当たり賃金)は、4月の前年比0.8%増に対し同2.5%増に伸び率が高まりました。このうちベースアップに連動する一般労働者の所定内給与の伸び率も、4月の同1.4%増から2.2%増に拡大しました。春闘の結果が反映されることで注目された賃金上昇率ですが、4月時点では十分に反映されず、時間差をおいてようやく反映されてきました」

   と説明。先行きの見通しについては、

「6、7月には夏のボーナスが支給されますが、企業業績の改善を反映して堅調な増加が見込まれており、賃金上昇率はさらに高まる可能性があり、個人消費へのプラス効果が期待されます。
しかし、実質では同1.2%減と依然マイナスの状態です。食料品等の値上がりが続いていること、最近の円安で輸入物価が再び上昇する可能性が高いことから、物価上昇圧力の強い状態が続くと予想されます。このため年内に実質賃金がプラスに転じることは厳しく、いずれ個人消費が息切れするリスクがあります」

   と、年内いっぱい実質賃金のマイナスが続くとした。

   同欄では、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が、

「ヘッドラインの数字ほど賃金は弱くないと言えるでしょう。というのも、今回の平均賃金は、賃金水準の低いパートタイム労働者比率の上昇がかなりの押し下げ要因となっているからです。一般労働者とパートタイム労働者に分けて名目賃金を見れば、それぞれ前年比3.0%、3.6%と久方ぶりに3%を超えており、実質賃金も依然としてマイナスとはいえ、それぞれ前年比マイナス0.7%、マイナス0.2%とヘッドラインより下げ幅は縮小します」

   と指摘。その一方で、

「ただ、特に一般労働者の賃金押上げ要因がボーナスなどの特別給与によるところが大きいので、来年度以降もこの賃上げが続くかは、まだ慎重に見る必要があるかもしれません」

   と、賃上げ効果に楽観は禁物との見方を示した。

「労働生産性を高めないと、実質賃金下落はいつまでも続く」

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家計のやりくりが大変だ(写真はイメージ)

   「実質賃銀の下落は、今後1年以上続くのではないか」と見るのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「実質賃金が上昇に転じるのはまだ1年以上先か」(7月7日付)のなかで、消費者物価上昇率の今後の見通しを示したグラフ【図表2】を示しながら、まず、連合が公表した春闘最終集計の数字に疑問を呈した。

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(図表2)消費者物価上昇率の見通し(野村総合研究所の作成)

   連合が公表したのは「定昇込みの平均賃上げ率はプラス3.58%、賃金の内訳を明示している組合でのベースアップ率の平均はプラス2.12%」だが、近年は賃金の内訳を明示しない組合が増えているため、ベア率の平均値の信頼性が低下しているという。木内氏はこう指摘する。

   「ベア率、そして春闘の結果を十分に反映した所定内賃金の上昇率は、ともに5月分のプラス1.8%程度と考えられるのではないか。その場合、消費者物価上昇率が前年比プラス2%を割り込まないと、実質賃金の下落は終わらない」

   【図表2】を見ると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率がプラス2%を下回るのは2024年8月ごろだ。

   一方、今後、消費者物価上昇率が低下していくことで、来年の春闘での賃上げ率は、30年ぶりの高水準となった今年を下回る可能性が高い。来年の春闘で参照される消費者物価の最新値は、今年の半分程度になるからだ。

   そこで木内氏は、来年春闘でのベア率はプラス1%強程度と予想する。それが所定内賃金に反映され、実質賃金がマイナスを脱するためには、さらに消費者物価上昇率が低下してプラス1%を下回る必要が出てくる。そのタイミングは2024年10月ごろになるという。あと、1年3か月も先だ。

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財布が軽くなる...(写真はイメージ)

   木内氏はこう結んでいる。

「持続的に賃金、物価上昇率が高まるためには、実質賃金上昇率と深く関わる労働生産性の向上が必要だ。消費者物価上昇率が2%程度で安定していた1990年代初めには、労働生産性のトレンドはプラス3%超であったのに対して、現在はプラス0%台であることを踏まえると、現状は、賃金上昇を伴う形での持続的な2%の物価上昇が実現する経済環境とはかけ離れている。
リスキリング、労働市場改革、インバウンド需要のさらなる喚起、少子化対策などを通じて、経済の潜在力を高める努力を続けない限り、持続的な賃金、物価の好循環は見えてこない」

(福田和郎)

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