労働災害認定が増加している。厚生労働省が2023年6月30日に発表した令和4年度(2022年度)「過労死等の労災補償状況」によると、過労死等に関する労災請求件数は前年度比387件(12.5%)増加した。
過労死等の労災補償に対する請求件数は、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、企業活動が減少した2020年度には、前年度比161件(5.4%)減少した。しかし、徐々に企業活動が再開すると、2021年度には同264件(9.3%)の増加に転じた。そして、企業活動がほぼ新型コロナ前の状況に戻った2022年度には大幅な増加となった。
業種別では「運輸業、郵便業」が、請求・支給件数ともに最多
請求件数の増加とともに、支払い決定件数も増加し、2021年度は前年度比1件(0.1%)の減少だったが、2022年度は同103件(12.9%)の大幅増加となった。(グラフ1)
脳・心臓疾患に関する労災補償状況は、請求件数は803件で前年度比50件(6.6%)の増加。このうち死亡件数は同45件(26.0%)増の218件だった。支給決定件数は194件で同22件(12.8%)の増加、このうち死亡件数は同3件減(5.3%)の54件となっている。死亡での支払い決定件数のみが前年度比で減少したが、そのほかの請求件数、うち死亡での請求件数、支給決定件数はいずれも、前年度を上回っている。(グラフ2)
業種別では、労災の請求件数は「運輸業、郵便業」が172件、「卸売業、小売業」が116件と多くなっており、「運輸業,郵便業」の業務内容では、「道路貨物運送業」が133件ともっとも多い。
支給決定件数でも「運輸業、郵便業」の56件が最多で、このうち「道路貨物運送業」が50件を占めている。また、2位は「建設業」の30件、3位は「卸売業,小売業」26件の順。
年齢階層別では、請求件数は「50~59歳」が303件、「60歳以上」が283件、「40~49歳」が164件の順で、支給決定件数は「50~59歳」が67件、「40~49歳」が58件、「60歳以上」が49件の順となっている。
どれぐらいの時間外労働になっていたのか(1か月または2~6か月における1か月平均)では、支給決定件数は「評価期間1か月」で「100時間以上~120時間未満」25件が最多、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「60時間以上~80時間未満」45件が最も多い。
精神疾患は、時間外労働の時間の長さよりも、精神的な苦痛が原因に
労災請求の圧倒的な多数を占めるのが、精神疾患によるものだ。
2022年度の請求件数は2683件で前年度比337件(14.4%)の増加、このうち未遂を含む自殺の件数は同12件(7.0%)増の183件となっている。支給決定件数は710件で前年度比81件(12.9%)の増加し、このうち未遂を含む自殺の件数は同12件(15.2%)減の67件だった。
脳・心臓疾患では、2021年度は請求件数、死亡での請求件数、支払い決定件数、死亡での支払い決定件数のいずれもが減少したが、精神疾患では2021年度から自殺での支払い決定件数以外は2020年度から増加に転じており、2021年度も同様の傾向となっている。(グラフ3)
業種別では、労災の請求件数は「医療、福祉」が624件と圧倒的に多く、このうち「社会保険・社会福祉・介護事業」が327件を占める。次いで、「製造業」392件、「卸売業、小売業」383件の順となっている。支給決定件数は「医療、福祉」が164件で、このうち「社会保険・社会福祉・介護事業」で85件を占めている。「製造業」は104件、「卸売業、小売業」は100件で、ここまでが100件を上回っている。
年齢階層別では、請求件数は「40~49歳」が779件、「30~39歳」が600件、「50~59歳」が584件の順で、支給決定件数は「40~49歳」が213件、「20~29歳」が183件、「30~39歳」が169件の順となっている。精神疾患では脳・心臓疾患よりも若い年齢層が多いことが特徴的だ。
時間外労働(1か月平均)では、支給決定件数は「20時間未満」が87件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」が45件となっている。支給決定では、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が147件ともっとも多く、精神疾患では時間外労働の時間の長さよりも、精神的な苦痛が原因となっていることが明らかだ。
支払い決定となる認定率では、脳・心臓疾患での認定、脳・心臓疾患で死亡での認定、精神疾患での認定は前年度を上回っているものの、精神疾患での自殺による認定は前年度から4.1ポイント低下している。(グラフ4)
労災の認定の状況をみると、日本では時間外労働に代表される肉体的な過労死よりも、精神的な苦痛による精神疾患が原因となっていることは明確だ。健康的に仕事ができる環境を作っていくことが労災を減少させるための重要なカギとなっている。(鷲尾香一)