いま、急がれている企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)。ただし、課題はそれを担う人材だ。日本企業のDXを推進する人材は、質、量ともに不足しているといわれる。
そうしたなか、企業向けクラウドサービスを行うドリーム・アーツ(東京都渋谷区)は2023年6月27日、従業員数1000人以上の企業に所属する従業員730人を対象に「『DX人材の流動性』に関する調査」を発表した。DX人材採用の現状と課題を把握するためにおこなわれたものだ。
調査によると、「3年以内にDX人材を社外から採用した」のは81.9%。その一方で、41.6%が「DX人材の社外からの採用についてミスマッチ」を感じているという。そのうえ、「3年以内に社外から採用されたDX人材」の60.6%は転職意向を示すなど、課題が浮き彫りになった。
「DX人材を十分確保できていない」は83.5%
この調査は、従業員数1000人以上の大企業に勤めている従業員および経営層で、DXやDX人材の採用に携わる人を対象に、インターネット調査を実施した。効回答数は730人。調査期間は2023年3月9日から13日まで。
対象の属性は、(1)「DX推進部署に所属する人」では「外部から3年以内に転職してきた人」が132人、「もともと内部にいた人」が200人。(2)「DX推進部署の人材を採用する人」では「経営陣」が100人、「人事」が198人、「DX推進部署」が100人。
調査でははじめに、「現在DX人材を確保できているか」質問した。その結果、「十分確保できている」は「16.4%」に留まった。
そして、「一部確保できている」は「46.3%」、「あまり確保できていない」は「30.1%」、「全く確保できていない」は「7.1%」となった。これらを合計した「83.5%」について「DX人材を十分確保できていない」と、同社は見ている。
続いて、DX人材の確保について、「DX人材を3年以内に社外から採用したか?」(n=565)と聞いた結果が、「はい」が「81.9%」だった。
つぎに、DX人材を採用しにくい理由について、採用担当者とDX推進部署の両方に質問した。すると、「自社のDX人材の要件を満たす人材が少ない」との回答が「36.0%」で最多だった。
次いで、「自社のDX戦略とDX人材の要件が明確でないから」が「28.8%」、「DX人材の報酬が高すぎるから(自社の給与水準と乖離がある)」が「27.8%」続いた。
そして、社外からはどのようなDX人材を採用しているか聞いた(n=157)。それによると、「プロジェクトマネージャー」が58人、「ビジネスアーキテクト/エンタープライズアーキテクト」が55人となり、「この2職種だけで全体の7割強を占めた」(ドリーム・アーツ)という。
どちらも、ビジネス全体を俯瞰して、プロジェクトを推進するリーダーの役割を担う職種。同社は「DXには欠かせない職種」と説明する。
「ミスマッチがある」は41.6%
では、社内では誰がDXを推進しているのだろうか。「DX推進に最も影響を与えている人物」について質問すると、「社外から採用された人材」(257人)と「当初から社内にいる人材」(245人)の二つの回答に分かれた。
それぞれの評価についての、自由記述を見てみると、以下のような意見があった。
●社外人材の影響が高い
・社内にはない問題意識を持っている
・意識が高くプロフェッショナルに感じる
・生え抜きにはない知識・経験・スキルを持っている
・前職でDX推進を経験し、プロセスを熟知している
●もともと社内人材の影響が大きい
・社内人材の教育が進んでいる
・社内事情に精通している
・企業風土を理解している
・既得権を手放さないので危険
DXを担う人は、社外から採用されるケースも少なくないようだが、では「企業と転職者間のミスマッチ」はないのだろうか。
それについて、「DX人材採用について、企業と転職者間でミスマッチが起きているか」の調査結果では、「はい(ミスマッチが起きている)」は41.6%だった。「いいえ(ミスマッチが起きていない)」は「24.9%」と少なく、そして「わからない」は「23.6%」。
職場でのミスマッチはつらいものだ。そこで、「転職の意向」について、DX部署の所属者に聞くと(n=538)、「はい(意向がある)」が「47.2%」。3年以内に社外から採用された人材に絞ると(n=132)、「はい(意向がある)」は「60.6%」に上った。かたや、当初から社内にいる人材に絞ると(n=200)、「はい(意向がある)」は「31.5%」という結果になった。
転職の意向に関して、その理由を同社は「転職の意向を持つ理由も、外部からの人材と内部にいた人材では大きく異なる。外部から転職してきた人材は、管掌範囲や給与などのステップアップを目指す一方で、元々内部にいた人は、『このまま勤め続けても先が思いやられる』などの後ろ向きの理由が多かった」と指摘している。
最後に、「社外採用のDX人材を中心にDXが進展している理由」を聞くと、「変革を受け入れる企業文化や危機感がある」(96人)、「社内の重要プロジェクトとして経営陣がコミットし全面的に支援している」(75人)、「DX推進の方針やDX人材の要件が明確」(73人)、「全社的にDX・デジタルリテラシーが高い」(51人)という結果があがった。
今回の調査を受けてドリーム・アーツは、
「DX人材は、社内で確保・育成するよりも、『社外』に求める傾向が強い。DXの本質である『トランスフォーメーション』(変化・変革)を実現するためには、内部人材の活用だけでは難しいと考える企業が多いようだ。
どんな企業でも、外部人材の受け入れには摩擦が付き物だ。特にDX人材は、既存の組織に『変革』を起こすための人なので、受け入れ側の抵抗感、不信感、不安感などの拒否反応は容易に想像できる」
と指摘。そして、社外人材が活躍できる会社は「企業文化や社内風土が、DX人材が力を発揮できるかどうかを左右するといえそうだ」とコメントしている。