2022年度の国の一般会計税収が初めて70兆円を超えた。22年度予算の「使い残し」も2兆円を大きく上回っている。
国民にとっては喜ばしいニュースのはずだが、安心はできない。政府・与党が税収の伸びや予算の使い残しを別の事業に充てようと、虎視眈々と狙っているからだ。
税収は3年連続で過去最高に 「決算剰余金」は2兆6294億円、過去2番目の多さ
財務省の発表によると、2022年度の税収は前年度比6.1%増の71兆1373億円となり、3年連続で過去最高となった。「基幹3税」と呼ばれる法人税、所得税、消費税の伸びが要因だ。
最多となったのは、3年連続で消費税。5.4%増の23兆792億円だった。世界的な資源高に円安が加わり、輸入コストが急増。物価高で商品やサービスの値段が上がった分、国民が負担する消費税額も膨らんだかっこうだ。
法人税も9.5%増の14兆9397億円に伸びた。新型コロナウイルス禍からの回復による好業績を反映した。
所得税は5.3%増の22兆5216億円。賃上げの拡大などが影響したとみられる。
22年度第3次補正予算を編成した22年11月時点で、岸田政権は22年度税収を68兆円台と見込んでいた。実際には3兆円近く上振れたことになる。
それだけにとどまらない。
22年度は、予算に計上したものの使わなかった「不用額」が11兆3084億円に達した。国債発行を12兆円分減らしたが、それでも予算の使い残しに当たる「決算剰余金」は2兆6294億円と過去2番目の多さになった。
5年間で「43兆円」防衛費拡大、防衛増税も柱だったが...「これで増税が先送りしやすくなる」喜ぶ自民党
この結果を手放しで喜んでいるのが自民党だ。党幹部は「これで増税が先送りしやすくなる」とほくそ笑む。
念頭にあるのは、防衛予算の拡大だ。
岸田政権は22年末、23~27年度の防衛費を総額43兆円規模に拡大する方針を打ち出した。従来水準に比べ、約17兆円もの大幅増額となる。
増額分の財源を確保するため、政府は税外収入や歳出改革に加え、剰余金と防衛増税を財源の柱に据える戦略だ。
もっとも、財政法では、剰余金の半分を国債の返済に回すよう求めている。そのため、使えるのは残り半分だ。国は過去の剰余金の実績を踏まえ、余った年平均7000億円を防衛財源にまわす計画を立てていた。
しかし、蓋を開けてみれば、22年度の剰余金は2.6兆円に膨らんだ。防衛財源にまわせるおカネは想定の倍近い1.3兆円に増えたことになる。
これが、防衛財源のもう一つの柱でもある防衛増税の時期にも大きな影響を与えるというわけだ。
防衛増税以外にも財源確保できることが明らかに? だが、税収や剰余金は「水物」
政府・与党は22年末段階で、防衛増税の開始時期を「24年以降の適切な時期」とすると決めた。
しかし、自民党を中心とする与党内では、国民受けの悪い防衛増税の先送り論が噴出。政府が6月に決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」は与党の声に押されるかたちで「25年以降のしかるべき時期とすることも可能となるよう、柔軟に対応する」と先送りを許す一文が書き込まれた。
「税収増や剰余金の増額で、防衛増税以外にも財源確保の道があることが図らずも証明されてしまった。防衛増税の早期実施はますますやりづらくなった」
ある政府関係者はこう肩を落とす。
ただ、税収や剰余金は年によって大きく規模が増減する。好調な状況が今後も続く保証はない。
税収や剰余金の増額に期待して財政運営をすれば、目論見が外れた場合、さらなる借金の肥大化につながりかねない。税収は見込みから上振れするばかりではない。景気が悪くなれば大きく落ち込むこともあるのだ。
税収増や多額の剰余金の存在は、ただでさえグラギラしっ放しの政府・与党の財政政策のたがを、さらに緩ませる恐れもある。(ジャーナリスト 白井俊郎)