旅館・ホテル業界の業績回復に強い追い風が吹いている。
企業リサーチを行う帝国データバンク(東京都港区)が2023年7月3日に発表した「旅館・ホテル業界」動向調査(2022年度)によると、過去1年間に同社が調査した全国の旅館・ホテル業界のうち、直近の業況が判明した約800社を集計したところ、増収基調の企業は61%(23年4月時点、予定含む)に上ることがわかった。
これは、国内旅行客の回復に加えて、インバウンド(訪日外国人)需要の増加による急回復が背景にある。また、回復基調となり始めた「全国旅行支援」中だった22年10月時点の増収基調が45%だったことと比べても、さらに上り調子といえるだろう。
なお、同社の調査によると、4月時点までの各社業績推移をもとにした2022年度通期の旅館・ホテル市場(事業者売上高ベース)規模は前年度から18.8%増の3.4兆円に達するなど、「引き続き現状の回復ペースが続けば、23年度の旅館・ホテル市場はコロナ禍前並みの4~5兆円前後に到達する可能性がある」(帝国データバンク)という。
一方で、カギとなるのは業界の人手不足解消だ。同社によると、他業種に移ってしまった人材の戻りは鈍いという。それだけに、同社では「インバウンドの受け入れ態勢が整わず、需要の取りこぼしなどで業績回復ペースが想定より伸び悩む可能性がある」と指摘している。
約800社のうち増収の「旅館・ホテル」61% 2021年度の5%を底に急上昇!
この調査は、同社が持つ企業信用調査報告書ファイル「CCR」から、「旅館・ホテル」業界の企業約800社における業況(売上高)について調査・分析を行った。集計対象期間は各調査時点から過去1年間とした。
はじめに、過去1年間に帝国データバンクが調査した全国の旅館・ホテル業界のうち、直近の業況が判明した旅館・ホテル約800社の過去1年間のデータを分析した結果、「61%」の企業が増収(予定含む)と回答していることがわかった。
この割合は、コロナ禍で旅行需要が消失した2020年(増収:13%、前期並み:77%、減収:10%)や、2021年(増収:5%、前期並み:19%、減収:76%)などと比較すると、急激な回復となった。
また、回復基調となり始めた「全国旅行支援」中だった2022年10月時点の「増収:45%」と比べても、16ポイントの上昇となった。
このうち、ホテル業態での増収割合は「62%」、旅館業態の増収割合は「55%」と、ホテル業態の業績回復が目立った。
一方で、「前期並み」(横ばい)は37%となり、2022年10月時点から大きく減少。「減収」の割合は3%と1割を下回り、コロナ禍前の19年度と同等の水準にまで低下した。
コロナ感染症に業績が大きく左右され、各企業で非常に厳しい見通しを強いられてきた旅館・ホテル業界。しかしながら、とくに22年以降は、県民割やブロック割、全国規模の「旅行支援」の開始で徐々に業績が回復し、「増収」など先行き好転を見込む企業が急増した。
こうしたなか、23年以降は水際対策の大幅緩和のほか、コロナの5類移行など各種制限が撤廃されている。こうしたことを受け、国内旅行客に加えて、インバウンド需要も急回復したかたちだ。
同社では、「旅館・ホテル業界の業況はコロナ禍の悪化局面から脱し、インバウンド増加を追い風に急回復の局面を迎えた」とコメントしている。
市場回復のキーポイントは「人手不足解消」 需要の取りこぼしで、業績回復ペースの伸び悩みには懸念
4月時点までの各社業績推移をもとにした2022年度通期の旅館・ホテル市場(事業者売上高ベース)は、前年度から18.8%増の3.4兆円に達した。
21年度の2兆8509億円(前年比0.5%増)に続き、2年連続で前年度を上回ったという。 過去最高だった2018年の約5.2兆円から約6割程度の水準にとどまっているが、前年度比40%超減という例のない落ち込みを記録した2020年度(2兆8360億円)を底に回復基調で推移している。
同社では、「引き続き現状の回復ペースが続けば、23年度の旅館・ホテル市場はコロナ禍前並みの4~5兆円前後に到達する可能性がある」と予測している。
また、今後の懸案事項としてあるのが、「人手不足」による稼働率低下だ。同社の別の調査(2023年5月2日発表)では、旅館・ホテル業界の人手不足割合は正社員で「75.5%」、非正規社員で「78.0%」となっている。
そのため同社は「フロントスタッフや配膳、清掃など各業務で人手不足が深刻化している一方、コロナ禍で他業種へ移った従業員は『賃金など条件が折り合わず、宿泊業への戻りは鈍い』(人材派遣会社)など、フル稼働に必要な人材の確保が難航している」と指摘している。
今後の見通しについて、同社では、
「足元では人手不足で予約の制限や客室稼働の抑制といった措置を迫られた企業も一部で出始めるなか、インバウンドの受け入れ態勢が整わず、需要の取りこぼしなどで業績回復ペースが想定より伸び悩む可能性がある」
としている。