「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
ChatGPTに残る法的は問題とは
7月3日発売の「週刊東洋経済」(2023年7月8日号)の特集は、「生き残るための法律術」。法的トラブルに、職場や日常生活でどう備えるか、対処すべきか、アドバイスをまとめている。
話題の生成AI、ChatGPTは仕事の飛躍的な効率化に役立ちそうだが、法的な問題が数多くある、と指摘している。ポイントは主に3つあり、個人情報、著作権、セキュリティーの観点から解説している。
個人情報は、プライバシーポリシーなどで通知・公表している利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならない。
著作権については、意図せず既存の著作物と類似の表現が出てきてしまった場合、著作権侵害が成立するかが問題となる。誰が見ても同一または類似している生成物を世の中に出せば、企業のモラルが問われるだろう。
セキュリティーに関しては、他社から預かっている機密情報をChatGPTに入力する場合は、それが他社との間で負っている秘密保持義務や不正競争防止法上の営業秘密開示行為に該当しないか検討が必要になる。
倫理面での配慮も必要だ。ChatGPTのアウトプットは必ずしも正確性、妥当性を有するとは限らないため、誤った情報を流したり、個人の名誉や人権を侵害したりしないよう、アウトプットの検証が必要だ。
ChatGPTの利用には、このような検討課題が多いことを知った上で利用することが求められる。
予期しない法的問題に直面したとき、どうするか。弁護士がアドバイスしている。たとえば、パワハラ、セクハラ加害者にならないためには、どうしたらいいのか。
明確な線引きは難しいが、上司や家族に正当性・妥当性を説明できるかどうかを基準に考えるべきだという。家族に同じことを行えるか? つねに記録されているとの緊張感を持つなどの対策が求められる。
◆「働き方改革関連法」の重要ポイント
「働き方改革関連法」の重要ポイントの解説も役に立ちそうだ。
時間外労働の上限規制について5年間の猶予期間が設けられていた輸送関連の業務でも、24年4月以降は時間外労働が年間960時間に制限される。これによりトラック運転手が不足し、荷物の配送に影響が出ることが懸念されており、物流業界で「2024年問題」と呼ばれている。
働き方改革関連法の施行後も、労働法の分野では毎年のように重要な法改正があったという。
その1つが労働条件明示のルール変更だ。異動範囲(就業場所・業務の変更の範囲)の明示方法や、有期契約社員の更新上限や無期転換後の労働条件の明示など、検討すべき点は多い。24年4月施行なので、早めに準備する必要がある。
一般的に、コンプライアンス違反を防止するための5つの対応策を示している。
1 1人で完結できない業務プロセスとする
2 人の入れ替えを行い、風通しをよくする
3 チェック・監視体制を整備する
4 懲罰・発表の仕方を決め、問題が起こったときは順守する
5 出世に関わる人事はフェアにする
パート2の「生活防衛のための法知識」では、不動産、資産運用、遺言、空き家対策、墓じまいなど身近な問題への対応をまとめており、参考になりそうだ。
保険料見直しを3つのステップで
「週刊ダイヤモンド」(2023年7月8日号)の特集は、「最強保険見直し術」。生活コストが上昇する中で、生命保険や損害保険などの保険料の見直しで節約する方法を探っている。
見直しを3つのステップで整理している。
大事なのはステップ1で、原則となる考え方だ。
備えておくべき必要な保障額は、「万が一のときの支出の見込み額-その後の収入の見込み額」ということだ。必要保障額を試算する際に、特に重要なのが遺族年金。死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が、子どもがいれば18歳になるまで支給される。
たとえば、会社員(35歳)で月給35万円、家族構成は妻と子2人の場合、遺族年金は月額14万円になる。これを知っておくと、過剰な契約を避けられるかもしれない。
また、医療保険に入る前に、誰でも利用できる高額療養費制度があることを知っておいてほしい、と指摘している。
年収約370万~約770万円の69歳以下の人に、100万円の医療費がかかった場合、病院窓口での負担額は3割の30万円。そのうち、自己負担額の上限額は8万7430円となり、残り21万2570円は高額療養費として後に支給される。
さらに、加入している健康保険組合で「限度額適用認定証」を事前に申請しておけば、病院の窓口で30万円を立て替える必要もない。
とはいえ、入院した場合、何かとお金がかかるため、医療保険がまったく必要ないわけではないという。何にでも使えるまとまった一時金がもらえるタイプの医療保険が多く販売されている。
なお、ステップ2は、生保商品の「販売チャネル」だ。急速に拡大している保険ショップなどの代理店。生保各社はチャネルごとに卸す商品を変えている。ステップ3で、どのような商品があるのか、紹介している。
パート2では、保険のプロ27人が選んだ保険五大商品のベスト&ワーストランキングを掲載している。
医療保険で1位になったのは、メディケア生命保険の「新メディフィットA(エース)」だ。他社商品のいいとこ取りをして、かつ保障内容も上回りながら割安な保険料を実現した点が評価された。2位はチューリッヒ生命の「終身医療保険プレミアムZ」、3位はなないろ生命の「なないろメディカル礎」となった。
「高コスト・インフレ時代」に
「週刊エコノミスト」(2023年7月11日号)の特集は、「円安インフレ襲来」。
40年ぶりのインフレ。円安も止まらず、家計へのダメージが懸念される一方で、「慢性デフレ」脱却への期待もかかる。日本経済は大きな岐路に立っている、と指摘している。
インフレは一時的なものか、構造的なものなのか。
日本総合研究所客員研究員で、法政大学大学院の山田久教授は、戦略的グローバリゼーションの進展、脱炭酸の流れを受けたエネルギー制約、国内外の労働力不足の3つの側面が資源供給を制約するため、これまでのデフレ時代は終わり、「高コスト・インフレ時代」が到来すると見ている。
止まらないのが、食品の値上げだ。
帝国データバンク情報統括部の飯島大介氏によると、全国の主要な飲食料品メーカー195社を対象にした2023年の値上げ品目数は、5月末の時点で2万5106品目に上り、昨年を大幅に上回るペースだという。
なぜ値上げが続くのか。昨年の値上げ要因は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した小麦、食用油や原油価格の急騰のほか、円安が主な要因だった。23年は、ほとんどすべての食品が原材料高、電気・ガス代などエネルギー価格の上昇を挙げている。その一方で、価格転嫁の方針を修正する動きも出始めたという。
円安はどこまで進むのか? みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、これまでは「日本人の円売り」を抜きにした円安だったが、今後、「家計の円売り」が加われば、そのインパクトは半端ではない、と指摘する。
円高に悩んだことはあっても円安に悩んだことがなかった日本人。「日本人の円売り」がたきつけられた場合、円相場は相当にまとまった幅で下落するのでは、と懸念している。
インフレ下では物価に対して貨幣価値が目減りするため、年金生活者には不利になるとされる。インフレが進めば受給額はどう変わるのか。日本総合研究所主席研究員の西沢和彦氏が試算している。
マクロ経済スライドが続いた場合、2047年度に基礎年金の月額受給額は6.5万円から4.7万円となる見込みだ。デフレの時代、マクロ経済スライドがほとんど機能しなかったため、給付水準が高止まりしていた。年金制度について本格的な議論が必要だ、と問題提起している。(渡辺淳悦)