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職場のハラスメント、どこから? 管理職ほど「もっと気にすべきだ」と意識高いのに、社長は「細かいこと言うな」...どうする、一般社員?

   パワハラ、セクハラ、マタハラ、モラハラ...。企業に防止義務が課せられてから職場でのハラスメントに厳しい目が向けられるようになった。

   しかし、実際のところグレーゾーンが多く、どこから?と迷う時もある。マーケティングリサーチの「アスマーク」(東京都渋谷区)が2023年5月19日に発表した「自主調査『ハラスメントだ』と思う行動、どこから?」によると、職場の上司と部下の間の「善意のすれ違い」が、けっこう、ハラスメントを生んでいるという。

   いったいどういうことか。お互いの誤解と悲劇を避けるため参考にしていはいかが。

  • ストップ、ハラスメント!(写真はイメージ)
    ストップ、ハラスメント!(写真はイメージ)
  • ストップ、ハラスメント!(写真はイメージ)

ハラスメント、気を遣う管理職6割、経営層は4割だけ

   アスマークの調査は、全国の15歳から60歳代以上の働いている男女1万人(男性6297人、女性3703人)が対象だ。

   まず、職場でのハラスメントについて、「気にすべきだと思うか」「気にしすぎだと思うか」を聞くと、「もっと気にすべきだと思う」が半数以上の53.6%に達した【図表1】。

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(図表1)職場でのハラスメント、もっと気にすべきだと思うか、気にしすぎだと思うか(アスマークの作成)

   注目されるのは、役職別でみると、マネージャー層・リーダー層で特に「もっと気にすべきだ」という意識が高く、6割前後となっていることだ。部下をはじめ同じ社内の他部署、経営層、それに他社の人々などと広く関わる機会があることが影響しているようだ。

   ところが、さらに興味深いのは、役職としては最上位となる経営者・役員層では、逆に「もっと気にすべきだと思う」(41.5%)という割合が一番少ないのだ。「気にしすぎだと思う」(14.3%)という割合がほかの層の2倍以上に達しており、最も多かった【再び図表1】。

   この経営層と中間管理職層のはなはだしい落差を、どう理解したらよいのか――。会社を取りまとめるトップの経営層には、「まあ、あんまり細かいこと言うな」とばかりに、コミュニケーションや指示をする際に、ハラスメントに過敏になりすぎるとやりにくい、と感じる人が少なくないようだ。

レッドカード1位は「女性社員にお酌&男性社員に力仕事」

   さて、ハラスメントになるかどうか、判断が分かれそうな行動や文化について、人々はどう思っているのか。

   「女性社員にお酌をさせる」から「会社のデスクに家族写真を飾る」まで10項目について「良くないと思うかどうか」を聞くと、「女性社員にお酌をさせたり、力仕事は男性がやったりする慣例」(32.1%)が3割強でトップになった【図表2】。

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(図表2)職場での良くないと思う行動・文化(アスマークの作成)

   次いで「定例飲み会への参加を求める」(29.6%)、「1対1で異性の部下を食事や飲み会に誘う」(27.9%)といった飲み会関連が続いた。特に、「女性社員にお酌をさせたり、力仕事は男性がやったりする慣例」が、マネージャー層・経営者・役員層ではほかの層より突出して多く、4割弱に上ったことが目を引く【再び図表2】。

   昭和以来の「伝統」として、自然と染み渡っている社内慣例に懸念を感じている人が上層部に多い様子がうかがえる。これは、古い世代の常として、新しい時代の考え方に、やや敏感に反応している面があるようだ。

   それは、「レディースデー・メンズ割など性別による割引」でも、マネージャー層・経営者・役員層で「良くないと思う」(2割台半ば)人が、若い世代より突出して多いことにも表れているようだ。「レディースデーの割引」について、「良くない」と思っている女性は、59歳以下では10%台前半しかいない【再び図表2】。

   【図表3】は、実際に社内で「行われているもの」と、人々が「良くないと思うもの」の相関を示した散布グラフだ。上に行くほど「行われている」割合が高くなり、右に行くほど「良くないと思う」割合が高くなる。

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(図表3)「行われているもの」と「良くないと思うもの」の相関分布図(アスマークの作成)

   これを見ると、「定例飲み会への参加を求める」「女性社員にお酌をさせ、力仕事は男性社員がやる慣例」「職種による男女指定」などは良くないと思う人・行われている割合ともに平均以上であり、要注意な文化・行動といえる。

   良くないと思う人が多いなかでも行われている背景には、マネージャー層などの無理解や、固定化されてしまった慣例や考え方が頑なに存在している可能性が考えられる。

   また、実施率が高い「時短の社員に責任の重い仕事は振らない」は気にしない人が多い反面、2割程度の人が「良くない」と考えている点は気を付けたい。たとえ善意であっても、人によっては不平等や不快と感じる点を考慮しておく必要がありそうだ【図表3】。

「休みの日に何をしているか聞いてきて、有給がとりづらい」

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厳しく叱責する上司(写真はイメージ)

   実際に職場で起きているハラスメントをフリーコメントで聞くと、こんな声が寄せられた。

   まず上司や先輩からは――。

「先輩に気に入られるか、気に入られないかで露骨な嫌がらせを受ける」(女性40代)
「複数いる部下に対して、言葉を使い分けている」(男性50代)
「昔はこうだったなどと、後輩にやらせたがる」(女性20代)
「上司がみんなの聞こえる前で、特定の人の悪口を言う」(女性50代)
「失敗をした時に、みんなの前で厳しく指摘される」(男性50代)
「仕事でミスをしたときに、上司が威圧的、感情的に怒る」(男性20代)
「サービス残業。家に持ち帰る業務に誘導する節がある」(男性40代)
「定時が過ぎてから仕事の話を振ってくる。パッと帰らせてくれない」(男性30代)
「時短をとったら会社が回らないから、時短勤務はするなと言われた」(女性30代)
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その注意、アウトです!(写真はイメージ)

   また、プライベートへの干渉も後を絶たない。

「普段休みの日に何をしているか聞いてくる。なぜこの日休みかと聞いてくる。有給がとりづらい」(男性30代)
「個人のプライベートな情報を勝手に共有される」(女性30代)
「若手に対してプライベートの話をするなかで、結婚や恋愛の話をして過度に突っ込みすぎる」(女性30代)
「性別や年齢、外見いじりがあります」(女性30代)
「LGBTを毛嫌いする日常会話」(男性20代以下)

上の役職者ほど「自分は部下思い」と勝手に思い込み...

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経営トップほど部下とのコミュニケーションに自信を持っているが...(写真はイメージ)

   さて、最後に興味深い調査結果を紹介しよう。【図表4】は、職場でのコミュニケーションについて、「うまくとれているかどうか」聞いた結果だ。一番下のグラフが「パート・アルバイト層」で、それ以外が正社員である。

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(図表4)職場でのコミュニケーション、うまくとれているか?(アスマークの作成)

   これを見ると、正社員では「役職なし」に近づくほど「コミュニケーションをうまくとれていない」という回答が増えていくのがわかる。逆に、「マネージャー層」「経営者・役員層」と上位に行くほど、「コミュニケーションをうまくとれている」と自負する割合が増えていく。

   この【図表4】からは、役職者は「部下とうまくコミュニケーションを取っている」と思っているが、一般社員はそうは思っていないという構図が見て取れる。こういった認識の相違から、親しみを込めたつもりが「ハラスメントだ」と言われてしまう悲しいすれ違いが生じることもあるようだ。

   くれぐれも、コミュニケーションの促進と同時に、ハラスメント配慮の向上にも気を配っていただきたいところだ。

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パワハラ、許しません!(写真はイメージ)

   調査を行なったアスマークの担当者はこうコメントしている。

「お酌や力仕事などの性別による役割の慣例は『良くない』と思われている反面、未だに多く行われている実態は印象的でした。『ハラスメントについてもっと気にするべき』の声に応えるためにも、慣例として無意識的に行っているようなことも、慣例自体が差別・ハラスメントにつながっていないか気にするなど、意識的に対策していくことが求められます。
一方で、気にしすぎて何もできない・コミュニケーション不足に陥るなども避けたいところです。いろいろな階層・性別・人種の社員の声に耳を傾け、多様な視点を理解・配慮しながら各企業にとっての『より良い組織環境』を模索し続けていく必要があると言えます」

   調査は2023年3月10日~15日、全国の15歳から60歳以上の会社員男女(パート・アルバイト含む)1万人(男性6297人、女性3703人)にインターネットを通じてアンケートを行なった。(福田和郎)