「今の仕事経験で成長できる気がしません」と訴える部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE32(前編)】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE32」では、「今の仕事経験で成長できる気がしません」と訴える部下への対応に悩むケースを取り上げます。

「経験は量が大事? 質が大事?」

【A課長】この間の管理職会議。「部下に経験から学ばせよ」との宿題が出たが...難題だよな~。
【B課長(同期の同僚)】経験学習モデルとかいうやつだろ。なんだが小難しいけど、悩んでも仕方がないし、もうトライしてみたよ!
【A課長】早いな~。君はいつも「当たって砕けろ」で、たいしたもんだ! それで、どうだった?
【B課長】ミーティングで、さっそくメンバーに話した。「研修受講や自己啓発も大いに結構。しかし、日常の仕事の経験から学ぶことが何より大事だ。日々念頭において励んでほしい」ってね。
【A課長】おっ、単刀直入に切り込んだな!
【B課長】ところがね、若手部下が訴えた。「課長。経験から学べと仰いますが、日々、目標達成のことで頭が一杯。成長できる気もしません!」ってさ。そうしたら、ベテラン部下が応じた。「甘い甘い! もっともっと経験を積むことだ。百戦錬磨って言うだろう」と。すると、やり手の中堅部下が反論した。「いやいや。経験は量じゃなく、質が大事なんですよ。質が!」
【A課長】ずいぶんと盛り上がって、いい感じじゃないか! それでどうなったんだ?
【B課長】「課長はどんな経験から学んだんですか?!」って、とっさに聞かれて困ってさ...。「そりゃあ『ひと夏の経験』に決まってるだろ! あれ、よかったよな~」と返したら結構受けてさ!
【A課長】君んとこのミーティングは、いつもジョークで締めてるのか? 平和なチームだな...(しかし、経験学習...うちではどう進めるかな~)

「経験から学ぶ力」とは

   こと入社1~2年目の若手社員は、日々が新しい経験の連続だったり、次第に任される仕事の量が増えたりと、対応に精一杯。そこで「経験から学べ」と言われても、その余裕も持てず、「ただふられた仕事をこなし続けるのみ」と思うかもしれません。

   新たな環境や仕事に慣れない間は無理もありません。でも、ある程度余裕がでてきたなら、仕事を通して経験から、よりよく学ぶ方法を習慣づけることが大事です。その可否が、その後の本人の成長度合いを分けることになります。「経験から学ぶ力」を身に着け、磨いていくことが大切なのです。

   同じ経験をしても、成長する人としない人がいます。その違いは、単に能力の差によるだけではありません。人は、ただ日々の仕事を惰性で行い、行動を積み重ねても、それらは単なる経験の羅列に過ぎず、深い学びや成長は得られません。

   自分はこの仕事の経験から何を学びたいのか、明確な意図と自覚をもって行うことが大事なのです。冒頭のCASEで一人の部下が指摘した「経験の質が大事」は、的を射た意見だと言えるでしょう。そして、経験の質は自らつくり出すもの。質の良い経験の量を、できるだけ積み上げていくことです。

   そこで、上司は部下の「経験に学ぶ力」の習得と向上をめざし、本人が仕事を通して自ら進んで学び、成長する意欲と力を促していきましょう。

「何を学ぶための経験か」を意図することを教える

   トーマス・エジソンの有名な格言として知られているものに、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの上手くいかない方法を見つけただけだ」があります。この言葉には、失敗を決して恐れない強いチャレンジ精神を感じさせられますが、もう一つ、重要な意味があります。

   それは、しっかりした意図と仮説をもって実験を繰り返すなかで、1万通りの捨てるべき方法を見つけたことで、歴史的発見を成し遂げたということです。

   すなわち、仕事の経験をする際には、その目的や具体的成果をはっきりとイメージした意図的行動をする習慣が大切だということ。あわせて、その成果を達成するためのより効果的な方法を考えて工夫し、何度も試行しようとする効果的行動の仮説建てをすることです。

   この意図的で効果的な行動の試みこそが、後に検証可能な「質の良い経験」をつくるのです。

「アンカリング効果」を意識する

   そこで上司は、週次ミーティングで、部下の1週間の仕事の確認と段取りの計画を決める際などに働きかけましょう。当面する仕事の経験から何を学ぶのか。そのためには、どう行動するのがよいか、問いかけるとよいでしょう。部下自身が「この仕事からは、こうした方法で、この学びを得てみよう」と自分の心の中に留め置くことで、仕事の経験から自覚的に学ぶ構えができるのです。

   これは、印象的な情報を意識させることで行動に影響を与える「アンカリング」という心理学の概念にあたります。アンカーとは「錨(いかり)」の意味。錨を海底に下ろし、その範囲で動く船になぞらえて、一定の印象的な情報や数値などを基準や目標として認知することで、その後の行動に影響を与える効果のことです。

   ぜひ、部下育成の方法として、活用してみてください。

   では、経験から学ぶ習慣を身に着けさせるための留意点には、さらにどのようなものがあるか。<「今の仕事経験で成長できる気がしません」と訴える部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE32後編)】(前川孝雄)>で解説していきましょう。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。

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