新型コロナウイルスの感染が拡大した2020~23年に、本社および本社機能を移転した企業は10万5367社にのぼり、コロナ禍前の17~20年と比べて60.5%も増えたことが、東京商工リサーチの調べでわかった。23年6月28日の発表。
とくに東京はコロナ禍前の2017~20年は79社の転入超過だったが、コロナ禍以降の2020~23年はマイナス3568社の大幅な転出超過となり、東京圏へのオフィス一極集中に変化が現れた。
背景として2020~23年は、コロナ禍による外出自粛の要請や在宅勤務、リモート会議の普及など、働き方の大きな変化があった。そのほか、人流抑制で都市部の空洞化など職場環境が変化したことで、賃料の安いオフィスへの移転やオフィス面積の縮小が加速。企業の本社および本社機能の移転が活発化した。
「大都市→大都市」「大都市→郊外」の移転が上昇
東京商工リサーチの「2020~2023年 大都市の『本社機能移転』状況」調査によると、大都市の転入出は、転入が1万4103社、転出は1万8427社となり、転出超過となった。コロナ禍で「新たな生活様式」が定着し、大都市優先のビジネスモデルに変化が生じていることを裏付けた。
企業の本社移転(市区郡)を「大都市」と「郊外」に分けてみると、大都市から郊外への転出が増えたが、「今後は再び大都市への回帰が進むか注目される」(東京商工リサーチ)としている。
企業の移転は「大都市→大都市」が5万1237社で、2017~2020年(前の調査期間)と比べて70.9%増となった。構成比で48.6%を占め、最多だった。次いで、「大都市→郊外」が前の調査期間との比較で76.8%増の1万8427社(構成比17.4%)で続き、大都市に本社を置く企業の移転割合が高かった。
大都市と郊外間の移転では、「大都市→郊外」が1万8427社(構成比17.4%)で、「郊外→大都市」の1万4103社(同13.3%)を上回った。【円グラフ1参照】
コロナ禍前の2017~20年も、「大都市→郊外」(1万460社)が「郊外→大都市」(9362社)を上回っていたが、コロナ禍以降は、大都市からの転出がさらに増加したことが明らかになった。
従業員数別、従業員数が少ないほど転入超過率が高い?
従業員数でみると、「300人以上」と「50人以上300人未満」が転入超過で、従業員数が少ない企業ほど転出超過率が高かった。
コロナ禍で在宅勤務など「ニューノーマル」な働き方が定着。顧客との対面サービスが減少するなど、企業の郊外転出やオフィス面積の縮小などの動きが強まった。
ただ、「コロナ禍が沈静化した2023年以降、経済活動が再開するに伴い、対面サービスも復活してきた」(東京商工リサーチ)としている。
従業員別での転出入率は、「300人以上」が38.0%、「50人以上300人未満」が14.0%で転入超過となった。
一方、「20人以上50人未満」がマイナス12.5%、「10人以上20人未満」がマイナス13.0%、「5人以上10人未満」がマイナス19.1%、「5人未満」がマイナス25.9%で転出超過となり、従業員数が少ないほど転出超過率が高い結果となった。【図1参照】
「大都市」と「郊外」間で本社を移転した企業数は、「300人以上」だけが2017~20年と比べて5.5%減と減少したが、そのほかは増加。特に「5人未満」は、2017~20年と比べて85.9%増と大幅に増加した。中小・零細企業の本社移転が活発に行われたことを示しているという。
コロナ禍前と比べて、すべてのレンジ(期間・範囲)で転出割合が高まったが、従業員数50人以上は転入超過を維持している。
郊外には大型オフィスビルが少なく、収容人数・立地などの条件が合致する物件が見つけにくい。大都市への転入企業数は減ったが、郊外への転出企業数も大きく増加せず、転入超過を維持した。
産業別では、情報通信業を含む3産業が転入超過から転出超過へ
産業別で「大都市」の2020~23年企業移転をみると、10産業すべて転出超過だった。
コロナ禍前の2017~20年は、建設業(転出入率2.2%)、不動産業(同1.1%)、情報通信業(同4.3%)の3産業は転入超過だったが、コロナ禍以降は一転して転出超過となった。
大都市の転入出は、すべての産業で転出超過だった。特にコロナ禍で在宅勤務など、働き方がドラスティックに変わり、親和性の高い情報通信業は4.3%の転入超過からマイナス24.5%と、大幅な転出超過となった。
在宅勤務が定着しやすい産業の代表格である情報通信業は、4.3%の転入超過からマイナス24.5%の大幅な転出超過に転じた。また、小売業はコロナ禍前からマイナス4.1%の転出超過だったが、大都市の人流が抑制され、モノの動きが停滞したことで、転出超過率がマイナス22.1%に拡大した。
一方、農・林・漁・鉱業と運輸業は転出超過だったが、転出超過率は農・林・漁・鉱業が2017~20年のマイナス28.20%から、20~23年はマイナス11.65%になった。
運輸業は、マイナス13.81%からマイナス11.86%と縮小。ともに在宅勤務などのコロナ禍で浸透した働き方が定着しにくい産業のため、大都市圏からの転出が抑えられ、転出超過率が縮小したと考えられるという。【図2参照】
資本金「1億円以上」と「5000万円以上1億円未満」は、大幅な転出超過に転じる
本社の移転を資本金別でみると、7区分のすべての規模で転出超過となった。転出入率は、「1百万円未満」(マイナス18.6%)を除く区分で、マイナス20.0%未満となった。
コロナ禍以前の転出入率をみると、資本金「1億円以上」が40.2%、「5000万円以上1億円未満」が13.9%で転入超過だったが、コロナ禍以降は「1億円以上」がマイナス26.4%、「5000万円以上1億円未満」がマイナス21.8%で大幅に転出超過に転じた。
東京商工リサーチは、
「コロナ禍前は、資本金が多い企業が転入超過、資本金が少ない企業が転出超過という傾向が見られたが、コロナ禍以降はそういった傾向はみられず、資本金の規模にかかわらず大都市から郊外へ移転する動きが強かった」
と指摘する。
さらに、本社移転前と移転後の売上高が判明した企業(2017~20年2964社、20~23年3225社)の売上高の推移を調べたところ、コロナ禍前、コロナ禍以降ともに、転入企業の増収企業率が転出した企業を上回ったことがわかった。
コロナ禍(20~23年)以降は転入・転出どちらも増収企業率は低下。特に転出した企業の58.03%が減収となった。コロナ禍で事業環境が大きく変化したことで業績が低迷した企業が多く、賃料などのランニングコスト抑制が郊外への転出要因になったとみられる。
本格的に経済活動が再開。「アフターコロナ」の段階に入り、低下していた出社が戻りつつある。コロナ禍の「ニューノーマル」な働き方が定着し、社員の流出を防ぐ企業もあれば、対面を重視し原則出社の働き方に戻す企業も増えてきた。
大都市では再開発などで高機能オフィスの供給が相次いでいる。対面重視の企業は交通アクセスなどの利便性が圧倒的に高い大都市への転入が増えるだろう。
「今後、多様な働き方で郊外に移転し人材獲得を重視する企業と、対面重視で原則出社に回帰する企業もあり、業績や生産性向上をどこまで実現できるかで大都市の転出入状況も変わりそうだ」(東京商工リサーチ)。
なお、調査は2017年3月時点、20年3月時点、23年3月時点を、東京商工リサーチの企業データベース(約400万社)で比較。市郡をまたいだ本社および本社機能を移転(東京都区部のみ区をまたいだ移転)した企業を集計、分析した。
東京23区・政令指定都市・人口50万以上の市を「大都市」、その他の市郡を「郊外」と定義している。また、転入超過率は、転入者数から転出者数を差し引いた数の百分比。転入超過率がマイナス0.0%未満の場合は転出超過率を示す。