新しく仕事を始めて期待と不安を抱えている新入社員の中でも、製造業に入社した社員はどんなことを考えているのだろうか?
そんななか、人材育成や教育研修を手掛けるラーニングエージェンシー(東京都千代田区)の研究機関「ラーニングイノベーション総合研究所」は2023年6月27日に「2023年新入社員の意識調査<製造業編>」を発表した。調査によると、製造業の新入社員の心境は「不安」(33.3%)、「期待(21.6%)」、「緊張(17.5%)」という複雑な思いを抱えていることがわかった。
また、自身のキャリアアップにつながる理想の上司像として「間違いを正してくれる上司」からの指導を56.8%が求めているほか、65.9%は「仕事を通じた失敗体験」が必要と認識しているなど、若手社員の成長意欲の高さが垣間見えた。
新入社員の不安「仕事についていけるか(仕事の難易度)」62.7%、「上司との関係性」26.3%
この調査は、同社が提供する研修の受講者5623人を対象に、期間は2023年4月1日から5月25日までの間、自記式またはWEBでのアンケート調査を行ったもの。
対象者の属性としては、製造業の人が874人、製造業以外の全業種が4742人となった。なお、所属企業の規模では50人以下が2.1%、51人から100人規模が6.7%、101人から300人規模が24.3%、301人以上1000人未満は18.0%、1001人以上5000人未満は25.3%、5000人以上は16.7%、不明が6.9%となっている。
同社によると、調査背景として、2023年新卒入社の新入社員は、学生時代には新型コロナウイルス感染症の影響で、コミュニケーションの大部分をオンラインに移行し、集団行動が求められる場面が減った。そのうえ、ロシア・ウクライナ戦争の長期化による経済の縮小・原材料・物流費の高騰など外部環境に大きな影響を受けてきている。
「このような外部環境の大きな変化とともに育ってきた今年の新入社員が、仕事に対してどのような価値観をもっているのかを明らかにすべく、『新入社員の意識調査』を行いました」(ラーニングイノベーション総合研究所)
まず、「入社式を迎え、現在の気持ちを教えてください」と質問した。製造業の新卒社員は1位「不安」(33.3%)、2位「緊張」(21.6%)、3位「期待」(17.5%)、4位「大変」(7.2%)、5位「楽しい」(6.0%)という順位になった。
このように、「不安」「緊張」などどちらかといえばネガティブな感情が多数を占めた。だが、そんななかでも、「期待」について他業種では「15.0%」だったのに対し、製造業の新入社員は「17.5%」と2.5ポイント高くなった。
2つ目の質問では、具体的にどんなことに不安を感じているか聞いてみると、最多が「仕事についていけるか(仕事の難易度)」が「62.7%」となった。
製造業の新入社員の場合、「上司との関係性」が「26.3%」でほかの業種の「22.3%」より4ポイント高い。「職場の関係になじめるか(職場の文化)」が「22.2%」で、ほかの業種の「19.2%」より3ポイント高い。それから、「先輩との関係性」は「14.6%」で、これもほかの業種より高くなった。
このように、製造業の新入社員は、他業種よりも人間関係や職場の文化など、環境に対する不安を強く感じる傾向にあるようだ。
一方で、他業種より「期待」が高いという結果が出た製造業新入社員だが、入社した会社で働き続ける意欲はどのくらいあるのだろうか? これについて聞いたところ、結果は、「できれば今の会社で働き続けたい」と回答した新入社員は「71.9%」となり、ほかの意見を大きく引き離した。
この点について、経年での変化をみてみると、2019年の「できれば今の会社で働き続けたい」は「67.5%」、2020年は「76.3%」、2012年は「71.5%」、2022年は「73.8%」となってきており、他業種よりも安定志向が強いということが言えそうだ。
どんな職場に定着したい?「職場の人間関係がいい」72.3%、「高い給与・賞与がもらえる」53.3%
続いて、どのような状況であれば、今の会社で働き続けたいと思うのかを質問した。最多の回答は「職場の人間関係が良い」が「66.7%」。次いで「高い給与・賞与がもらえる」が「59.5%」、「業績が安定している」が「34.1%」という結果になった。
「高い給与・賞与をもらえる」では昨年より4.1ポイント高い結果となり、今年の新入社員は金銭面を重視する傾向が高まっていると言えそうだ。
次に、自分が成長するために必要なものは何ですかと問いかけた。最多は「仕事を通じた失敗体験」が「65.9%」、「仕事を通じた成功体験」が「63.7%」、「上司や先輩からの事後フォードバック」が「52.0%」という結果になった。「仕事を通じた失敗体験」が必要だという意見は他業種よりも5.8ポイント高かった。
そんな成長意欲の高い製造業の新入社員にとって、理想の上司像はあるのだろうか?
「自分のキャリアアップにつながる理想の上司」について質問すると、「間違いを指摘して正してくれる上司」が「56.8%」と最も高かった。次いで、「具体的に手順を細かく教えてくれる上司」が「41.4%」、「自分のことをよく見てくれ、声をかけてくれる上司」が「40%」と続いた。
同社ではこうした結果に対して「製造業の新人は失敗体験を通じ、間違いを正し、具体的に手順を細かく教えながら正解へ導いてくれるような上司を理想としていることが明らかとなりました」とコメントしている。
最後に、調査結果について、同社は次のようにまとめている。
「慢性的な人手不足の中、消費者の嗜好の多様化・個別化により、ニーズを的確に捉えた商品開発を次々と開発していくことが求められる製造業。そのような業界で前向きに、失敗経験や上司からの厳しい指摘を受けながら成長していこうという意欲のある新入社員は、今後の製造業を牽引する大事な存在です」
「この意欲にあふれる原石とも言える新入社員をどう磨きあげるかは、上司や先輩社員の指導が大きく影響していくでしょう。『失敗経験』と言っても、あまりにも難易度の高すぎる仕事へのアサインは逆効果になりかねません。安定志向を抱く新入社員の成長意欲を高め続けるためには、努力すれば達成可能なレベルの少しストレッチな業務アサインを与え、適切なサポートや振り返りのフォローを行うことが必要です」