競争から共創へ...人を巻き込み、みんなでつくる「パーパスモデル」とは?

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   最近、ブランディングの手法やマーケティングの用語として、「パーパス」という言葉が注目されている。本書「パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた」(学芸出版社)は、多様なステークホルダーと新たな価値をつくる考え方と具体的な事例を紹介した本である。

「パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた」(吉備友理恵・近藤哲朗)学芸出版社

   著者の吉備友理恵さんは、日建設計イノベーションセンタープロジェクトデザイナー。一般社団法人「Future Center Alliance Japan」への出向を経て現職。パーパスモデルを考案。もう1人の著者、近藤哲朗さんはビジュアルシンクタンク「図解総研」代表理事。図解総研の力を借りて可視化したのが、パーパスモデルである。

「設計図」でプロジェクトを可視化...誰がどの役割を担い、目的を明確にする

   パーパスモデルとは何か――。本書では「より良い社会を実現するための行動原理」を「パーパス」と定義している。多様なステークホルダーが一緒に活動するための「パーパスを中心とした共創プロジェクトの設計図」をパーパスモデルと呼んでいる。

   従来のように、利益追求のみを中心としたプロジェクトでは関わることのなかった多様なステークホルダーが、どんな役割を担い、どんな目的で関わっているのかを明確にするものだ。

   最初に、パーパスモデルの見方、つくり方を解説している。中央に「タイトル=共通目的」があり、上段には「共創に関与するステークホルダー」、下段には「主体的な共創パートナー」が円形に配置される。

   上段の「共創に関与するステークホルダー」には、利用者、アプリやサービスのユーザー、顧客企業などが該当する。下段の「主体的な共創パートナー」には、「共通目的への賛同・リソースの提供・主体性の発揮」の3条件が必須となる。

   1つのブロックを切り取ってみると、ステークホルダー(共創パートナー)の名前・役割・目的が、真ん中の「共通目的」に向かっているように見える。

   さらに、企業は緑、行政は黄、市民はオレンジ、大学・研究機関・専門家は紫と属性別に4色で塗り分ける。

   図を使うメリットは考えを可視化できることだ。壁にぶつかったとき、図をもとに情報を整理し、お互いの考えを正確に理解することができるという。そのうえで、具体的に、共創でできる8つのタイプを挙げている。

1 事業をつくる 新たな事業をつくる上で、ユーザーや市民、専門家を巻き込む
2 基準をつくる 複数の組織で、新たな基準や規則を専門家、ステークホルダーとつくる
3 共通認識をつくる 立場や領域を横断した共通認識をつくり、社会に提言する
4 関係をつくる セクターを横断して組織や人をマッチングし、関係をつくる
5 場をつくる これまでになかったコミュニケーションや実験的な活動の環境をつくる
6 共同体をつくる 活動に賛同する個人や組織を増やし、活動に貢献する共同体をつくる
7 人を育てる これからの時代を生きる人が身につけるべき知識や力を得る機会を増やす
8 公共を開く これまで公的な機関が行ってきたことを民間や市民と共に取り組む

「宗像国際環境会議」「瀬戸内国際芸術祭」など共創プロジェクトの事例は?

   うまくいった19の事例を取り上げている。いくつか紹介しよう。

   学校と保護者の連絡手段をデジタル化するサービス「スクリレ」は、横浜市共創推進課が企業と学校のつなぎ手となり、実証実験を行ったことで、ユーザー起点の新事業が生まれた。

   理想科学工業は一般社団法人を立ち上げ、広告の審査とポイント付与を中立的に行っている。一方通行だった学校→保護者の便りが、保護者が広告を閲覧すると教員が備品と交換できるポイントが貯まる双方向の関係になった。

   世界遺産を舞台に海洋環境の保全と発信に取り組むコンソーシアム「宗像国際環境会議」は、宗像大社という地域の歴史の関わりの深い存在が中心となり、行政、大学、地元企業、漁協・観光協会など、多様な関係者をつないでいる。

   美しい島々を拠点に、アートによる交流で地域の活力を取り戻すイベント「瀬戸内国際芸術祭」は、香川県、福武財団が同時期に瀬戸内全体での取り組みを構想した。アーティスト、地域住民、行政、島同士をボランティアサポーターたちがつないでいる。

   小田急線地下化で生まれた空地を活用した新しい商店街「BONUS TRACK」は、小田急電鉄1社でやるのではなく、出店者や沿線住民も企画段階から一緒に場をつくっていったので「主体的な共創パートナー」に位置づけられる。次の個性的なお店の店主を育てている。

社会の課題に対して、自社はどんな役割を担えるか?

   共創プロジェクトのポイントをいくつか挙げている。「自組織の利益を増やせるか?」という発想ではなく、「社会の課題に対して、自社はどんな役割を担えるか?」という視点に立つことが重要だという。

   そのためには、目的を階層化することを勧めている。「持続可能な社会」「SDGs」などの大目的をプロジェクトの目的にすると、自分ごとになりにくい。

   一方、「私が私のためにこれをしたい」という独りよがりの小目的だと、他者の協力が得られない。その中間の「自分たちごろ」にできる目的、ミッションが必要なのだ。また、共通目的の前に、共通課題を深掘りできているかと問うている。

   巻き込む相手へのインセンティブは、金銭という有形の報酬に限らない。関係報酬、名誉報酬、情報報酬、権利報酬など無形の報酬があるという指摘も新鮮だ。

   著者は同じ属性だけで新しい事業をつくるのは、よくある「協業」だとし、多様な属性で新しい価値をつくることが、これからの「共創」だと説明している。

   よりよい社会をつくろうとする個人、企業、機関、行政に有益な「概念」を提案した本である。パーパスモデルをウェブサイト上で簡単に操作できるツールも、本の中で公開している。(渡辺淳悦)

「パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた」
吉備友理恵・近藤哲朗著
学芸出版社
2530円(税込)

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