企業のLGBTQ+当事者の従業員への取り組みの実情とは――。
求人検索エンジンのIndeed Japan(東京都港区)は2023年6月22日に、ダイバーシティのある働き方を推進するプロジェクト「Indeed Rainbow Voice 2023」の一環として、企業がLGBTQ+当事者の従業員を支援する取り組みを推進するうえでの現状や課題を明らかにするためにおこなわれた「企業のLGBTQ+当事者の従業員への取り組みに関する調査」の結果を発表した。
調査によると、社内のLGBTQ+の従業員に対する取り組みを行う企業は24.2%だったが、取り組んでいる企業では、「SOGI(性自認・性的指向)ハラスメントの減少」、「職場環境への満足度上がる」といった項目の割合が高く、取り組み後の変化を実感しているようだ。
LGBTQ+当事者の従業員に対して取り組みある企業24.2%...大企業39.0%、中小企業18.0%
この調査は、2023年4月28日から5月12日までインターネットアンケートでおこなわれたものだ。全国の20代から50代までの会社・団体の経営者・役員、会社員6万2325人のうち、人事に関わる500人を対象として抽出した。なお、大企業は従業員規模1000人以上、中小企業は従業員規模1000人未満、従業員が1人の場合を除いた。都市圏は1都3県、大阪、愛知、福岡とし、地方企業はそれ以外の都道府県エリアとして調査結果を集計した。
はじめに、現在の勤め先で、従業員に対する制度や福利厚生・職場環境づくりに関する取り組みをおこなっているか聞いた。すると結果は、上の図表のように、たとえば「障害のある人」への取り組みは「49.9%」、「外国籍の人」に対する取り組みは「40.4%」となった。LGBTQ+の人に対する取り組みでは「24.2%」に留まった。企業規模別では、大企業は「39.0%」、中小企業では「18.0%」という結果になった。
続いて、採用段階で具体的に実施していることを質問した(対象は、直近1年間でいずれかの雇用形態で人材採用を行い、かつLGBTQ+当事者の従業員に対して取り組みを行っていると回答した265人)。
それによると、「面接や応募者とのやりとりにおいて、LGBTQ+への差別的な発言をしないようにしている」が「40.8%」で最多に。次いで、「応募者のカミングアウトする権利・しない権利を尊重している」が「36.2%」、「髪型・化粧・服装など、応募者の性のあり方に合わせた装いを認めている」が「32.5%」と続いた。
なお、対外的な取り組みでは、「企業サイトにLGBTQ+当事者の従業員への取り組みの有無を掲載している」は「23.0%」、「求人票にLGBTQ+当事者の従業員に関する制度や福利厚生の内容を記載している」は「20.4%」となった。
同社では「取り組みを行っている企業のなかでも、企業サイトや求人票に情報を記載している割合は少なく、そのことが当事者にとって、仕事探しをより難しくしている可能性が考えられます」と分析している。
つぎに、企業における取り組み内容について聞いてみると、「更衣室やトイレなど、トランスジェンダーの従業員への配慮を行っている(本人の望むトイレや更衣室の使用、健康診断における個別対応など)」は「22.1%」となった。「トランスジェンダーの性別意向をサポートする制度がある(長期休暇や有給休暇がとれるなど)」は「21.0%」という結果になった。
また、アライ(当事者ではないが、当事者のことを理解・共感し支援する人)が参加できる取り組みはさらに少なく、「アライであることを表明する制度がある」(17.8%)、「LGBTQ+当事者やアライの社員が交流できるコミュニティグループがある」は「15.3%」となった。
同社では、
「職場における取り組みについては、職場の設備や制度の導入が求められるトランスジェンダーの従業員に対する取り組みや、LGBTQ+当事者が働きやすい環境において重要な、従業員のアライが参加できる取り組みについては、まだそれほど進んでいない現状が明らかになった」
としている。
ダイバーシティのある企業文化が醸成され、「平均勤続年数が長い」「お互いを認め合う」「心理的安全性高い」
さらに、こうした取り組みに積極的な企業には特徴があるのだろうか。調査では、上の図表のような項目について、あてはまるかどうかを聞いた。その結果、最多は「平均勤続年数が長い/伸びている」で、「70.1%」だった。次いで、「働きやすい環境である」が「66.9%」、「お互いを認め合う/尊重し合う風土がある」は「66.9%」、「上司に相談しやすい/風通しが良い」が「66.5%」という結果が得られた。
同社は、「LGBTQ+当事者の従業員への取り組みを行う企業は、ダイバーシティのある企業文化が醸成され、当事者のみならず誰もが働きやすい環境につながっていると考えられます」としている。
他方で、取り組むことによってどのような変化が生じたかについて質問した。その結果、全体では、「SOGI(性自認・性的指向)ハラスメントが減少した」(27.4%)、「LGBTQ+など多様な性のあり方が尊重されるようになった」(27.0%)、「誰もが働きやすい環境になった」(22.4%)、「あらゆるハラスメントが減少した」(19.6%)という結果が得られた。
最後に、勤め先で、LGBTQ+の従業員に対する制度や福利厚生、職場環境づくりに関する取り組みをしていくにあたって、どのような支援があればよいと思うか――。そんな質問を問いかけた。その結果、全体で最多になったのは「LGBTQ+について知り、理解するための研修がある」(28.2%)。次いで「何から始めたら良いか具体的な方法が分かる教材などがある」(24.8%)、「LGBTQ+の従業員がどういった悩み・困りごとを抱えているか参照できる事例集がある」(24.6%)という順番になった。
同社では「取り組み実施にあたって、LGBTQ+当事者への理解を深めたいという意志や、取り組みに向けた事例やノウハウがまだ少なく、研修や教材、データなどが求められていることがわかりました」と分析している。
調査の総括として、同社では以下のようにまとめている。
「取り組みを実施する企業割合はまだ少ない状況が明らかとなりましたが、取り組んでいる企業においては、企業全体の従業員満足度が高い傾向にあることが明らかとなりました」
「取り組みを実施する企業の70.1%が自社の特徴に『平均勤続年数が長い/伸びている』を挙げました。これは取り組みを行っていない企業の約1.5倍にあたります。また、取り組みを実施することによる具体的な変化として、全体では『SOGI(性自認・性的指向)ハラスメントが減少した』(27.4%)が最多となりました。地域による差もみられ、都市圏外の地方企業においては25.0%が『従業員の職場環境に対する満足度が上がった』と回答し、都市圏の企業(8.8%)の2.8倍となりました」
「特に地方企業においてその変化は顕著であると考えられます。企業において人材不足が課題となる中、従業員の働きやすさや職場への満足度を向上させることは非常に重要です。LGBTQ+当事者の従業員への支援が企業の成長にもつながるという中長期的な視点で取り組むことが大切であると言えます」