常識と考えずに、柔軟に考える
筆者である私が、あるコンサル会社に勤務していたときのエピソードになる。当時、あるプロジェクトを進めていた。簡単に言えば、ピアノの販路開拓プロジェクト。日本のピアノ市場は、ヤマハとカワイで9割のシェアを占めている。しかし、それ以外にも日本には多くのピアノメーカーがあって、その多くが静岡県に集中していた。
その後、県から予算をつけてもらい、販路開拓プロジェクトを進めることとなった。想定された販売チャネルは、ホームセンター、通信販売、音楽大学等での実演販売、百貨店の4種類。しかし、実際に担当者と話をしていくと、当初想定されたチャネルは全滅となった。価格的な問題と、ピアノの大きさがクリアできないのである。
なんとか別のチャネルがないものか検討した結果、1つの可能性が浮かび上がる。それは、ショールーム販売。当時、大きなショールームを所有し、ピアノを置くことができて、価格的な問題をクリアできる場所は日本に1箇所しかなかった。数年前に経営権を巡る父娘の騒動で有名になったあの家具メーカーである。
さっそく電話をしたところ、前社長(当時は経営企画室長)とコンタクトが取れ、幸運にもすぐに社長(父親)と面会することができた。出された条件は、「ショールームを引き立てるデザインのピアノであればOK」というもの。さらに、ヤマハ、カワイといったメジャーよりも、特異なピアノに興味を持っていただいた。
おかげさまで、結果的に、新たなチャネル開拓の成功例として、社内外でも話題になった。マーケティングの理論を踏まえれば、成熟市場において大きくかさばるピアノの販路開拓など不可能に近かった。だが、それを常識と考えずに、柔軟に考えることでヒントが浮かんでくるのである。
本書はこのような実践的なヒントを導き出したい人にとって役立つことだろう。(尾藤克之)