クルマ用の半導体不足はいつまで続くのか
後半では、「クルマ用の半導体不足はいつまで続くのか」を論じている。
クルマの生産台数と不足した半導体の種類を時系列で分析し、2021年の第1四半期と第2四半期の半導体不足は、自動車メーカーのジャスト・イン・タイムの生産方式の弊害によって生じた、としている。
2020年2月以降、コロナ禍でクルマが売れなくなり、減産となったメーカーは車載半導体の注文をキャンセルし続けた。
一方、コロナ禍で各種電子電機製品の需要が爆発的に増え、それに使われる28ナノメートルのロジック半導体の発注が殺到。どちらも世界シェアの過半を占めるTSMCは、車載半導体のキャンセルで空いた穴を別の半導体で埋めたのだ。
2020年9月にクルマの生産は回復したが、TSMCにそれに応じる余裕はなかった。「一言でいえば、クルマメーカーの自業自得」と手厳しい。
ところが、2021年後半以降の半導体不足は事情が異なるという。
不足しているのはパワー半導体やアナログ半導体で、EV(電気自動車)化と自動運転化の普及がその原因だという。絶望的な車載半導体不足は続き、クルマメーカーにとって受難の時代が到来した。
こうした半導体製造能力の構築競争に日本も巻き込まれ、ふたたび無謀な競争に突き進んでいる、と懸念する。
湯之上さんは日立を辞めた後、同志社大学の経営学研究センターの特任教授(当時は専任フェロー)のポストに就き、「なぜ、日本の半導体メモリDRAM産業が凋落したのか?」を5年間研究した。
それによると、日本メーカーは、メインフレーム用に25年保証の過剰技術で過剰品質を維持。PC用に安いDRAMをつくった韓国のサムスンに追い抜かれたと見ている。日本の高品質病は、DRAMから撤退し、ロジック半導体になっても変わらず、失敗が続いた。
TSMC熊本工場に国が4760億円の補助金を出しても、「日本の半導体産業のシェア向上は微々たるものであり、経済安全保障も担保されず、馬鹿げている」と強く異議を唱えている。
さらに、半導体新会社ラピダスの2ナノメートルの先端ロジック半導体の量産は「ミッション・インポッシブル」と断じている。
ラピダスには微細化の「土台」がなく、9世代も微細化をスキップすることはほとんど不可能だからだ。1000人規模の生産技術者も不足すると予想する。ほかにもいくつもの壁があるという。
日本にも強みはある。半導体製造装置と材料のシェアが高いことだ。しかし、「日本の総地産業は強い」という思い込みが最大の問題であり、経産省や政府は、見当はずれな政策に奔走している、と批判している。
これ以外にも、半導体に関して世界的な問題がさまざまあることを問題提起している。半導体なしに、我々の生活は成り立たない。半導体は、すぐれてグローバルな存在であることを本書は教えてくれる。(渡辺淳悦)
「半導体有事」
湯之上隆著
文春新書
1045円(税込)