日本の半導体産業はなぜ凋落...復活の芽はあるのか?

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   コロナ禍で迎えた2021年の年明け以降、車載用の半導体が不足したため、クルマの納車が大幅に遅れている。いま、世界中で、半導体の製造能力をめぐる激烈な競争が起きているという。

   本書「半導体有事」(文春新書)は、米国による対中輸出規制は、「台湾有事」を誘発する危険性を秘めていると警告する。また、日本の半導体産業の復活についても厳しい見方をしている。一読すれば、暗然たる思いがするかもしれない。

「半導体有事」(湯之上隆著)文春新書

   著者の湯之上隆さんは、微細加工研究所所長。半導体産業と電機産業のコンサルタントとジャーナリスト活動を行っている。京都大学大学院を修了後、日立製作所入社。半導体の微細加工技術開発に従事してきた。

米国による対中半導体規制...2つのターニングポイント

   半導体をめぐり、日本でも新しい動きがある。たとえば、世界最大の半導体メーカー、台湾のTSMCの工場が、熊本県に建設中だ。一方の日本勢は、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTTなど8社が出資する半導体の新会社「ラピダス」が設立され、工場は北海道に建設予定。この工場では、2027年までに、2ナノメートルの先端ロジック半導体を量産する、と報じられている。

   ダメになったといわれる日本の半導体産業は復活するのか。期待する人もいるだろうが、そんな単純な話ではないようだ。その理由は後述するとして、著者の湯之上さんはまず、米国による対中規制の意味から書き出している。

   1つ目のターニングポイントが、2020年5月14日だったという。TSMCが中国ではなく、米国側についた日として、歴史的な意味を持つと指摘している。

   この日、TSMCは米国政府から誘致を受け、多額の補助金を出すとの約束を取り付け、米アリゾナに進出すること、および中国のファーウェイに対して半導体の輸出を停止することを決定したからだ。

   その結果、米国はTSMCの5ナノメートルの先端半導体製造技術を手に入れるとともに、5G通信基地局で世界を制覇しかけていたファーウェイの野望を「叩き潰す」ことに成功したのだ。

   さらに、2022年8月9日、米バイデン大統領が半導体の国内製造を促進する法律「CHIPS法」に署名し、同法が成立した。

   韓国のサムスンとSKグループは同法にもとづいて補助金を受け取った場合、向こう10年間、中国への投資を禁じられることになった。すでに、中国の優遇措置のもとでメモリを生産している両社は難しい選択を迫られることになった。

   そこへ追い討ちをかけたのが、2つ目のターニングポイントとなる2022年の「10・7」規制である。その骨子は以下の内容だ。

・中国のスパコンやAIに使われる高性能半導体の輸出を禁止する
・米国製の半導体製造装置の輸出を禁止し、米国人が関わることを禁止する
・半導体成膜装置を輸出する場合、米政府の許可を得なくてはならない
・中国にある外資系半導体メーカー(TSMC、サムスン、SKハイニックス)にも規制を適用する

   湯之上さんは、成膜装置に規制をかけたことを重大視する。これは、半導体製造の最も上流の部分、急所中の急所を押えたことを意味し、稼働中の中国の半導体工場を停止させてしまう可能性がある、と指摘する。

   このような厳しい「10・7」規制に反発して、中国が米国に対して、何らかの報復措置を取る可能性があり、その最悪のケースが、中国が台湾に軍事侵攻してTSMCを占領する、いわゆる「台湾有事」の勃発だ、と考えている。

   TSMCは、米アリゾナ、日本の熊本、ドイツ、シンガポールに工場を建設(検討中も含む)する方針を明らかにした。「台湾有事」への保険の意味を込めて、生産拠点の分散を図る意図があるのでないか、と見ている。

   TSMCは半導体の微細化の最先端を独走しているという。2022年12月には、3ナノメートルの量産を宣言。その開発ぶりを「田んぼのあぜ道を時速100キロでぶっ飛ばす」ようなもの、という知人の言葉を紹介している。

   そして、それを強いているのが、米アップルだという。

   iPhoneのために「一見不可能とも思えるような微細化」をアップルから要求されて、必死になってそれに応えている、と表現している。アップルはTSMCの売上高の25%を超える最大のカスタマーだそうだ。

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