これがロシア版「アメリカンドリーム」!? ホットドック屋台からプーチンを「パパ」と呼ぶまでに上り詰め...海外メディアの「プリゴジン評」(井津川倫子)

貧困から億万長者に ロシア版「アメリカンドリーム」の行方は?

   海外メディアがこぞってプリゴジン氏の半生を特集している背景には、これまで同氏が表舞台に出ることがほとんどなく、「謎の存在」だったことが関係している様子。

   各国メディアが「Who is Wagner Group chief Yevgeny Prigozhin?」(ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンとは何者か?)というタイトルで、窃盗に手を染めていた貧しい若者がロシア有数の億万長者に上り詰めるまでを紹介しています。

   驚いたことに、プリゴジン氏は2014年にワグネルを創設してから、その関与を否定してきました。2022年ウクライナ侵攻後に、初めてワグネルの創設者であることを認めたそうですから、ロシア国民にとっても「謎の存在」であったようです。

   それもそのはず。ワグネルと言えば、正規軍が行えないような「汚れ仕事」を世界各地で請け負ってきた、と報じられています。ウクライナ侵攻という、ロシアにとっての「大義名分」ができたことで、ようやく存在を公にできたのではないかと推測します。

   さらに驚くことに、こうしたプリゴジン氏の暗躍ぶりを「Russian dream」(ロシアンドリーム)と称する動きがあることです。たしかに、貧困から億万長者に上り詰めた半生は、お金と権力は十分に得たと思いますが、それを「ロシア版『アメリカンドリーム』」とするには、ちょっと抵抗を感じます。

   閉塞感漂うロシア国内では、若者を中心にプリゴジン氏を英雄視する人々が増えているとか。たしかに、モスクワ進軍を中止してベラルーシに向かおうとするプリゴジン氏に、住民が殺到して握手を求めたり、記念撮影をしたりする映像が世界中に流されました。

   ガーディアン紙は、「プリゴジンが追いかけているのは、お金や権力だけではない。彼は、貧しい一般人の代表として、腐敗した権力者を倒すことができると信じている」という、長年の知人のコメントを紹介しています。

   「Papa」と呼ぶプーチン氏との蜜月が終わったと報じられる中、「Papa」を腐敗した権力者とみなして戦いを挑むのでしょうか。「ロシアンドリーム」の着地点がどこに向かうのか、歴史の転換をしっかりとウオッチしていきたいものです。

   それでは、「今週のニュースな英語」は、「American dream」を使った表現を紹介します。

He experienced the American dream
(彼は、アメリカンドリームを実現した)

Pursue the American Dream!
(アメリカンドリームをあきらめるな!)

A big house with a beautiful garden is the American dream
(美しい庭のある大きな家は、アメリカンドリームの象徴だ)

   「アメリカンドリーム」は、自由と平等の国アメリカで、出身や階級に関係なく、誰もが自らの努力次第で成功者になれるという理想です。

   不自由と不平等が広がる世界で、「汚れ仕事」をして財を成してきたとされる人物がどのような「ドリーム」を求めているのか。「腐敗する権力者」を倒すのか、それとも自らが「腐敗した権力者」となるのか。プリゴジン氏の本性は、まだ「謎」に包まれているようです。(井津川倫子)

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井津川倫子(いつかわりんこ)
津田塾大学卒。日本企業に勤める現役サラリーウーマン。TOEIC(R)L&Rの最高スコア975点。海外駐在員として赴任したロンドンでは、イギリス式の英語学習法を体験。モットーは、「いくつになっても英語は上達できる」。英国BBC放送などの海外メディアから「使える英語」を拾うのが得意。教科書では学べないリアルな英語のおもしろさを伝えている。
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