急激な円安、為替介入カウントダウン? エコノミストが指摘「火に油注ぐ植田日銀総裁の言動」「介入には2つの制約、市場はとっくに見透かしている」

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   急激な円安が止まらない。2023年6月28日の外国為替市場では、ついに1ドル=144円半ばをつけ、昨年9月、政府・日本銀行が為替介入に踏み切った「1ドル=145円台」の水準にまで円安が進んだ。

   こんななか、鈴木俊一財務大臣は「行き過ぎた動きには、適切な対応を取る」と為替介入に言及したが、翌29日も1ドル=144円台後半と、むしろ円安が進んでいる。

   政府・日本銀行によるドル売り・円買いの為替介入はあるのか。また、その効果があがるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

各国中銀総裁との討論会、植田日銀総裁の言動が円安を加速

   報道をまとめると、鈴木財務大臣の「牽制」にもかかわらず、6月29日朝に円安がさらに加速した背景には、植田和男日本銀行総裁の発言があるようだ。

   植田氏は28日深夜(日本時間)、ポルトガルで開かれているECB(欧州中央銀行)主催のフォーラムに参加。パウエルFRB議長、ラガルドECB総裁、ベイリー英イングランド銀行総裁ら各国・地域中央銀行総裁とともに、パネル討論会に登壇した。

日本銀行の植田和男総裁(日本銀行動画チャンネルより)
日本銀行の植田和男総裁(日本銀行動画チャンネルより)

   他の3人の総裁たちがそろってさらなる利上げの必要性を強調、「タカ派」姿勢を強めたのに対し、植田氏は大規模緩和策の必要性を主張、「ハト派」姿勢を鮮明にした。

   そのうえ、モデレーターから最近の円安の理由について聞かれると、隣席の3人の中銀総裁たちを見やりながら、冗談まじりの回答なのか、植田氏は「たとえば、これら中銀の金融政策とか...」と語ったのだった。

   これが、市場には改めて欧米と日本の金利差の拡大を意識させることとなった。

貿易収支が赤字の日本、為替介入しても円安は止まらない

ドル円相場はどう動く?(写真はイメージ)
ドル円相場はどう動く?(写真はイメージ)

   果たして、政府・日本銀行は為替介入に踏み切るのだろうか。エコノミストはどうみているのか。

   ヤフーニュースコメント欄では、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏が、

「現在のドル円レートは昨年、(2022年)9月に政府が為替介入(円買い・ドル売り)に踏み切った水準である145円に急接近しています。政府・日銀は為替介入に向けて臨戦態勢に入ったとみられ、145円を跨ぐような事態に発展すれば為替介入が実施されても不思議ではありません」

   と指摘。しかしながら、

「一方、昨年とは異なり、現在は原油価格の大幅下落を背景に輸入物価が落ち着いているため、為替介入に踏み切る動意(相場が動き始めそうな気配)が(昨年対比)で乏しいのも事実です。WTI原油価格は2022年央に120ドル近辺で推移していたのに対し、現在は70ドル前半です。これらを踏まえると、政府が為替を静観する可能性も十分に考えられます」

   と、昨年の「悪い円安」と違うと、踏み切らない可能性もあるとした。

日本銀行本店
日本銀行本店

   同欄では、時事通信社解説委員の窪園博俊記者も、

「為替市場で急ピッチに円安が進み、政府の円安けん制が強まっています。昨年秋の介入水準に近いこともあり、為替市場としてはドル売り・円買い介入が警戒されるのは当然とも言えるでしょう」

   と、切迫しているとしながらも、日本経済がかかえる問題点に注目した。

「ただ、介入はもちろん為替市場では重大なイベントながらも、それ自体はあくまでも対症療法に過ぎないことを理解する必要はあるでしょう。そもそも円安が進むのは、内外金利差の拡大観測が根強いこと、日本が巨額の貿易赤字を抱えている、というファンダメンタルズに基づくものです。
つまり、介入は相場に影響があるとしても、一時的であり、内外金利差が開いたままで、貿易収支も赤字状態だと、円安になりやすいことに変わりはありません。もし、円安を止めたいのなら、内外金利差が拡大する要因である日銀の大規模緩和の修正が必要であるとも言えます」

   と、円安ストップには日本銀行の政策修正が欠かせないとの見方を示した。

米が日本を為替操作国から外したため、返って介入に痛手?

日本とアメリカ(両国の国旗のイメージ)
日本とアメリカ(両国の国旗のイメージ)

   現在の円安加速の背景には、政府・日銀の為替介入に「制約」があることを市場に見透かされている――。そう指摘するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。

   熊野氏はリポート「為替150円接近で高まる物価見通し~再びの為替介入に現実味~」(6月28日付)の中で、昨年の為替介入に比べ、今回は2つの点で事情が異なると強調する。

「ひとつは、6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、年末までに2回分プラス0.50%の利上げが予告されていることだ。金融市場はそれを織り込み切れていないが、7月以降の米物価・雇用指標が強ければ、ドル高円安はさらに進むだろう。現在は、そうした追加利上げの蓋然性の高まりによって、じりじりと円安が進んでいる。介入警戒感よりも、ドル高の実勢が強いという背景だ【図表参照】」
(図表)ドル円レートの推移(第一生命経済研究所の作成)
(図表)ドル円レートの推移(第一生命経済研究所の作成)
「もう1つは、米国が日本を為替操作国の監視対象から外したことにある(6月16日)。日本には一見すると嬉しい話に思えるが、実際は逆に為替介入に動きにくくなったのではないか。仮に今の円安に対して、通貨当局が1度くらいは為替介入を実行できたとしても、派手に巨額を投じた介入はできないのではないか。
円安の流れを一時的に足止めできたとしても、何度も為替介入はできないと考えられる。投機筋もそうした通貨当局の制約を試すように、何度か円安方向に仕掛けてくる可能性もあると考えられる」

   昨年の為替介入では、政府・日本銀行は米通貨当局と緊密な連絡を取っていたとされている。

   熊野氏は、監視対象から外れるとなぜ介入しにくくなるのか、詳しく説明していないが、別のエコノミストの中に、「安易な介入は米国からの批判を招きかねず、これまで以上に正当化する理由が必要になる」と指摘する声もある。

   さて、今後の動きはどうなるのか。熊野氏はこう結んでいる。

「もしも、政府が為替介入の効果を見透かされたと自覚するのならば、円安傾向に歯止めをかけるには、日銀の政策修正を許すしかないと考え方を見直すのではないか。
具体的に言えば、長期金利の変動幅を0.50%から0.75%へと引き上げることを認めるということだ。そうすれば、日米長期金利差が縮小し、ドル円レートは円高の方向に修正される。
筆者(=熊野氏)の見通しでは、年内の決定会合のうち、10月30・31日か、12月18・19日の会合で、長期金利の変動幅の見直しが実施されると予想している」

(福田和郎)

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