米が日本を為替操作国から外したため、返って介入に痛手?
現在の円安加速の背景には、政府・日銀の為替介入に「制約」があることを市場に見透かされている――。そう指摘するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏はリポート「為替150円接近で高まる物価見通し~再びの為替介入に現実味~」(6月28日付)の中で、昨年の為替介入に比べ、今回は2つの点で事情が異なると強調する。
「ひとつは、6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、年末までに2回分プラス0.50%の利上げが予告されていることだ。金融市場はそれを織り込み切れていないが、7月以降の米物価・雇用指標が強ければ、ドル高円安はさらに進むだろう。現在は、そうした追加利上げの蓋然性の高まりによって、じりじりと円安が進んでいる。介入警戒感よりも、ドル高の実勢が強いという背景だ【図表参照】」
「もう1つは、米国が日本を為替操作国の監視対象から外したことにある(6月16日)。日本には一見すると嬉しい話に思えるが、実際は逆に為替介入に動きにくくなったのではないか。仮に今の円安に対して、通貨当局が1度くらいは為替介入を実行できたとしても、派手に巨額を投じた介入はできないのではないか。
円安の流れを一時的に足止めできたとしても、何度も為替介入はできないと考えられる。投機筋もそうした通貨当局の制約を試すように、何度か円安方向に仕掛けてくる可能性もあると考えられる」
昨年の為替介入では、政府・日本銀行は米通貨当局と緊密な連絡を取っていたとされている。
熊野氏は、監視対象から外れるとなぜ介入しにくくなるのか、詳しく説明していないが、別のエコノミストの中に、「安易な介入は米国からの批判を招きかねず、これまで以上に正当化する理由が必要になる」と指摘する声もある。
さて、今後の動きはどうなるのか。熊野氏はこう結んでいる。
「もしも、政府が為替介入の効果を見透かされたと自覚するのならば、円安傾向に歯止めをかけるには、日銀の政策修正を許すしかないと考え方を見直すのではないか。
具体的に言えば、長期金利の変動幅を0.50%から0.75%へと引き上げることを認めるということだ。そうすれば、日米長期金利差が縮小し、ドル円レートは円高の方向に修正される。
筆者(=熊野氏)の見通しでは、年内の決定会合のうち、10月30・31日か、12月18・19日の会合で、長期金利の変動幅の見直しが実施されると予想している」
(福田和郎)