インボイス完全マニュアル
「週刊東洋経済」(2023年7月1日号)の特集は、「インボイス完全マニュアル」。10月1日の導入まで90日に迫ったインボイス制度の仕組みと問題点を総まとめしている。
インボイス制度の仕組みを図解して解説している。免税事業者に仕事を発注し、できた商品を仕入れて販売している「買い手企業」からインボイスの影響を見てみよう。
これまでは、販売先から受け取った消費税30万円から免税事業者に支払った消費税10万円を差し引いた20万円の消費税を納税していた。仕入税額控除が認められていたからだ。
これであれば、企業も仕入消費税を差し引くことができたし、免税事業者も税益を懐に入れることができたため、「ウィンウィン」の関係だった。
ところがインボイスが始まると、免税事業者に支払った経費については、仕入税額控除が認められなくなる。つまり、本来は免税事業者が支払うべき消費税を、企業側が肩代わりしなければならなくなる。この場合、企業の負担は10万円も増えてしまう。
◆インボイス導入で、企業がとるであろう対応は?
今後、企業が取るであろう対応を検討している。
まず多いのは、免税事業者に対し、課税事業者になってインボイスを発行するよう求めることだ。そうすることにより、企業の負担は変わらずこれまでどおりの条件で取引することができるからだ。
しかし、免税事業者にとってみれば、適格事業者になった場合、消費税を納税しなければならなくなり、その分の負担が増す。
これまで通りの取引を、企業に依頼したとしよう。すると、企業は負担を嫌がり、消費税を肩代わりしなくても済むよう適格事業者に仕事を依頼する可能性が高い。そうすれば免税事業者は、仕事を失いかねない。
国も仕入税額控除を認める「経過措置」を設けている。
インボイスのスタートから3年間(23年10月から26年9月まで)は、80%、その後の3年間は50%の控除と「時間的猶予」を与えるので、時間をかけて取引条件の変更を交渉することになりそうだ。
◆個人事業主の3つの対処法は?
個人事業主の対処法もまとめている。大きく分けて3つある。まず、インボイス制度を無視して、これまで通り免税事業者として取引を行うことだ。
課税売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の申告・納税の義務がない。そのため免税事業者のままでいても何ら問題がない。
このほか、インボイスを無視していい人として、以下の条件を挙げている。
・顧客がインボイス不要の人 美容室、塾、スポーツジム、個人向け飲食店など、一般消費者が顧客の人。取引先が免税事業者または簡易課税事業者だけの人。
・業種的にインボイス不要の人 もともとの売り上げが非課税の人 居住用物件の大家、保険診療のみの診療所など。
・インボイス不要の特例を受けている業種の人 古物商や質屋、農協、漁協、森林組合などに生産物を卸している農家など。
・個人的にインボイス不要の人 提供するサービスが唯一無二の人、地位を確立しているアーティスト、芸術家など。
一方、インボイスを無視してはいけないのは以下の人たちだ。
・顧客がインボイスを必要としている人 顧客に売上高1000万円超の課税所得者(一般課税)がいる人。ビジネス利用の顧客がいる人(商店、経費利用されている飲食店、個人タクシー運転手、漫画家、俳優、声優など)。
・企業から業務委託契約で仕事をしている人 システムエンジニア、一人親方、トラックドライバー、デザイナー、フードデリバリーなど。
2つ目は「簡易課税」だ。3つ目の「一般課税」よりも負担が少なければ、選択すべきだという。
税率ごとの消費税の算出や帳簿への記載といった面倒な作業から解放される。売り上げが少なく、益税を多く得てきた免税事業者ほど、適格事業者の登録をしたうえで、簡易課税を選択するのが最適だという。
ちなみに、サラリーマンも他人事ではない。
出張旅費などについてインボイスは不要だが、出張旅費ではない旅費、交通費には注意が必要だという。公共交通機関(鉄道、バス、船舶)に支払った交通費が税込3万円未満であればインボイスの保存は不要という「3万円ルール」がある。
だが、含まれていないタクシーや航空機は認められないので、インボイスは必要となる。3万円未満の判定は、「切符1枚ごとの金額」ではなく、「1回の取引」で判定されるので、会社から指示があるかもしれない。
また、会社に内緒で副業をしていた人もインボイスをきっかけにバレる可能性もあるという。「面倒な」制度が始まり、しばらく経理担当者は苦労するだろう。(渡辺淳悦)