ユーロ圏の悪いシナリオ...不動産が引き金の「金融危機」
今後のユーロ圏のリスク要因として、米の銀行破綻が欧州に飛び火し、依然燻(くす)り続ける「金融不安」を挙げるのは、三井物産戦略研究所国際情報部の平石隆司氏だ。
平石氏のリポート「燻(くすぶ)る金融不安とユーロ圏経済の行方~リスクは貸し渋りと実体経済悪化の悪循環~」(6月20日付)は、10ページにわたる詳細な報告だが、そのなかで金融不安が実体経済に与える影響を示した【図表2】を紹介。
そして、今後ユーロ圏がたどる「メインシナリオ」と「リスクシナリオ」の2つの道を説明している。順を追って整理すると、以下のようになる。
(1)メインシナリオ=金融不安は燻り続けるが、金融危機は回避。インフレ圧力が根強く、ECBが利下げに転じるのは消費者物価上昇率が目標である2%程度に落ち着いてから。2024年半ば以降にずれ込む。
一方景気は、利上げ効果の浸透によって、内需の低迷が続き、成長率は年率ゼロ%台の底ばいが続く。ECBの金融引き締めと銀行の収益環境の悪化が続くため、金融不安は燻り続ける。
しかし、金融機関個社の問題が表面化しても、金融当局の迅速かつ柔軟な対応が維持される限り、「金融危機」へ発展する蓋然性は小さい。
(2)ここで、シナリオを左右するファクターが登場する。特に注意すべきは、バランスシート改善のための銀行の貸し渋りを通じた実体経済の悪化だ【再び図表2】。足下で急速に銀行の貸し出し基準が厳格化しており、今後の動向次第では以下のリスクシナリオが実現する恐れもある。
(3)リスクシナリオ=貸し渋りと実体経済悪化の悪循環が激化して、金融危機発生。貸し渋りの深刻化から実体経済がさらに悪化し、不良債権増加、そして金融不安の悪化を招き、それが一層の貸し渋りを招くという悪循環が激しくなると、金融危機が引き起こされる。
現状程度で貸し出し基準の厳格化に歯止めがかかれば、危機は回避されるが、リーマンショック時の水準に厳格化が続くと、リスクシナリオが実現する恐れがある。
銀行による貸し渋りの悪影響を受けやすい「弱い環」として、金融緩和期に大量の資金が流入した不動産セクターに注意が必要だ【図表3】。
特に商業用不動産は、パンデミックで盛んとなった在宅勤務によってオフィス需要が減る構造的変化に直面している。現状では価格下落は限定的だが、この動向を注視しておく必要がある。
たしかに【図表3】を見ると、商業用不動産価格は2021年以降、下落を続けている。これが、大量の不良債権増加につながると、一気に「金融危機」が広がるというわけだ。(福田和郎)