ユーロ圏経済のけん引役ドイツが、衝撃的な落ち込み
しかし、ユーロ圏はまだ「小幅な景気後退」であるため、ECB(欧州中央銀行)は、目標である「2%」を大幅に上回る物価上昇率の抑制を優先、6月の理事会で0.25%の利上げを決めた。さらに、ラガルド総裁は「(利上げの)旅は終わっていない」として7月の利上げも示唆している。
こうしたECBの「タカ派」姿勢が、景気後退を加速させるのではないかと懸念を示すのは、住友商事グローバルリサーチのシニアエコノミスト鈴木将之氏だ。
鈴木氏はリポート「景気後退でも利上げを継続するユーロ圏経済」(6月23日付)のなかで、ユーロ圏の景況感指数の悪化を示すグラフ【図表1】を紹介しながら、こう述べている。
「ユーロ圏経済のけん引役であるドイツは2023年Q1(第1四半期)まで2四半期連続でマイナス成長になっており、先行きの回復に期待を持ちにくい状況が続いている。
例えば、ドイツのIfo経済研究所の企業景況感指数(2015年=100)は4月の93.4から5月の91.7へと低下した。また、シンクタンクbrugelによると、ドイツはエネルギー対策として2021年9月以降、2650億ユーロの資金を投じてきた(3月23日時点)。
それでも、2023年Q1にかけてドイツ経済が景気後退局面入りした、という事実は重い。エネルギー価格が落ち着かなければ、景気の足取りは重いものになるだろう」
一方、ECBの経済見通し(2023年6月)によると、ユーロ圏の消費者物価指数は、2025年にようやくプラス2.2%を示し、2年後にならないと、目標である2%が視野に入らない。その間、実質GDP成長率は2023年のプラス0.9%から2025年にプラス1.6%と、潜在成長率並みに回復する姿が想定されている。
ただし、このように回復する前提条件がかなり「甘い期待」なのだ。
2023年第2四半期Q2以降に、エネルギー価格が緩和し海外需要が力強く発展、さらに企業が受注残をこなすことができること。また、堅調な労働市場を背景に、実質所得が改善することなどが挙げられている。
鈴木氏はこう懸念を示している。
「米中の景気減速や、物価上昇の高止まりに伴う購買力の回復の遅れなどを踏まえると、すでに上記の前提条件の一部が崩れているようにも見える。ユーロ圏経済は、ECBの想定に比べて厳しい道のりを歩むのかもしれない」