ハワイに恋して、現地ツアー会社を経営 夢を実現した女性社長のアフターコロナに向けた奮闘記/パイナップルツアーズ・宮崎さえ子社長

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   コロナ禍による行動制限が緩和され、街に外国人旅行者の姿が溢れてきた。国内のインバウンド需要は、今後まだまだ増えそうだ。

   ところが、日本人の海外旅行需要の回復は遅れている。

   法務省の出入国在留管理庁によると、2023年3月の日本人出国者数は69万4293人。前年同月の7万678人と比べて882.3%の増加となったが、コロナ禍前の19年3月の193万人と比べると36%にとどまっている(2023年5月17日速報値)。「今こそ海外!」――。観光庁もそう呼びかけて、海外旅行の需要回復に取り組みはじめた。

   日本人の「行きたい海外旅行」で人気の米ハワイで、現地ツアー会社の「パイナップルツアーズ」を経営する宮崎さえ子社長も日本人旅行者を、首を長くして待っている一人だ。

   コロナ禍を乗り越え、ようやく活況を取り戻しつつあるハワイの「現時点」と観光業復活への道のりを聞いた。

  • ハワイ島・マカハの海「西海岸はいま、観光スポットとして発掘している熱い場所」と話すパイナップルツアーズの宮崎さえ子社長
    ハワイ島・マカハの海「西海岸はいま、観光スポットとして発掘している熱い場所」と話すパイナップルツアーズの宮崎さえ子社長
  • ハワイ島・マカハの海「西海岸はいま、観光スポットとして発掘している熱い場所」と話すパイナップルツアーズの宮崎さえ子社長

夢だったハワイでのツアー会社

   「パイナップルツアーズ」を営む宮崎さえ子さんにとって、ハワイ・オアフ島はあこがれの地だ。

「小さい頃から両親にいろいろと海外旅行に連れられて、ハワイには一番よく来てたんですよね。それでもう、中学2年のときに『ハワイで旅行業をして一生過ごしたいな』と思ったんです」

   なぜか――。

「英語もできず、何も知らないところにパッと旅行に来て、そこで雄大でおおらかな米国人の優しさとか、フレンドリーな雰囲気にふれて、現地の人に優しくされて、友だちになってもらったりするとすごくうれしくて。それで私も現地の人になってね、日本から来た人をサポートしたり、困った人を助けるっていうか、お手伝いしたりしたいな、と。本当に心から、ずうっと思ってたんですよね」

   宮崎さんは夢へのきっかけを、そう振り返る。

   23歳でオレゴン州へ語学留学。英語の勉強と旅行業の資格取得を果たし、卒業後も6年間、オレゴン州の旅行代理店でアルバイトを続けた。

「たまたま、アルバイト先のオーナーが、『ハワイ島にレストランを出店するから、ちょっと手伝ってくれないか』っていうので、『ハワイだったら行く行く』みたいな感じで行ったんですけど。なんかこう、遊び半分な気分で。もう毎晩パーティーみたいな......。
3か月ぐらいして、これはちょっとあまりにもマズい。『大丈夫か、わたし』みたいな感じになってしまって。それで、もう一回メインランド(米国本土)に戻ろうと決意。一度、ハワイを離れました」

   ロサンゼルスで暮らし、夢への軌道を修正。そして2010年、ついに念願のハワイ・オアフ島での生活をはじめた。それから間もなくして、現地の旅行会社「パイナップルツアーズ」のオーナーから、「会社の経営権を買い取らないか」という話が舞い込む。

   悩んだ末に、夢だった旅行会社のオーナーになった。

   旅行会社の経営者となった宮崎さんは、その時のことをこう話す。

「自分がハワイに旅行するとき、すごく楽しみだったんですよ。お客様からメールをもらって、『明後日からハワイだから、すごく楽しみです』なんて言われると、私もね。本当に自分が旅行するような気分でうれしくなるんですよ。そんなとき、『私、本当にこの仕事が好きだな』って思う。それだけで、ラッキーだなと思うんです」

「コロナ禍だけは、本当にヤバいと思った」

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ホノルルビーチ

   宮崎さんのアイデアは豊富だ。

   なんとパイロットの資格を取得して、それを生かしたセスナ遊覧ツアーを企画した。ほかにも、「エホマイ」というハワイの伝統的な海への祈りの儀式とイルカといっしょに泳ぐドルフィンスイムの体験ツアーも組んだ。

   まだある。ウミガメや熱帯魚のスノーケリングスポットでのマリンアクティビティ体験。1000フィートの上空から一気に飛ぶパラセイルに、リムジンを仕立てたオーダーメイドツアーやウェディング・プラン。

   あるいは、通訳や空港送迎から視察や商用でのツアーの手配、ホテルやレストランの予約などのさまざまなサービスを用意して、日本人旅行者をもてなすのだ。

「旅行業でみなさまのバケーションをサポートするにあたり、私の基本的な考えは『毎日バケーションのように生きる』ことです。自分が幸せでなければ、周りを幸せにすることはできない。だから、私は自分が幸せに生きて、その溢れる幸せをみなさまのバケーションに届けられるように、ツアーやハワイでの生活を考えています。みなさまのリクエストに、できる限りお応えさせていただきます。
さらに、ホノルルでの手配という利を活かした『きめ細やかなサービス』をモットーに、生まれ育った日本の心を忘れず、日本人としてのコミュニケーションや礼儀、慣習を第一に考えています。日本からのお客様に、とにかくハワイを満喫してもらいたい」

   宮崎さんは、そう話す。

   ところが、順風満帆に思った矢先の2010年11月、不慮の事故で2歳になる最愛の息子を失った。

   ブログには、「事故から3週間、集中治療室で頑張ったのですが、天使になってしまいました。本当につらくて、苦しいですが、子供のためにも一生懸命、家族力を合わせて生きていくことにしました。どうぞ、今後ともわたしをよろしくお願いいたします。仕事も、もっともっとがんばります」と、綴られている。

   そして、再びの試練が新型コロナウイルスの感染拡大だ。

「はじめは、どこにでもあるニュースだと思いました。でも、本当に深刻だと感じたのは、2020年3月にお客様がだんだん減ってきて、最後のお客様が帰ったあとでした。ハワイに人がいなくなり、お客様がいない。電話もならない。そんな状況が続いて、『これは、ただごとじゃない』と。たとえばテロや災害のあとは、一時的にお客様が減りますが、それでも私のような小さな旅行業者はいつでも忙しかったんです。それが......。このコロナ禍だけは『本当にヤバい』って思いましたね」(宮崎さん)

パイナップルTV「ハワイの現状をできるだけ詳しく伝えたい」

   コロナ禍は、ほぼ失業状態だった。そこで宮崎さんが苦境を乗り越えようと、また、アフターコロナに向けた一歩を踏み出そうと始めたのが、YouTubeでの動画サイト「パイナップルTVハワイ」。2020年4月のことだ。

   宮崎さんは、

「それ(コロナ禍前)までは仕事や、細かなことに追われる毎日でしたので、いろいろとゆっくりできないことがたくさんありましたが、スローダウンしたのは『これも運命』と思い、今までできなかったことを、みなさんが戻るまでエンジョイしようと。不安はありましたが、そう思うようにしました。
それに以前から、動画を撮影して会社のことやハワイの現状をお知らせしたいと思っていたので、動画はたくさんつくりました。頑張りましたよ。動画配信も、幸せを分ける活動の一つ。大切な伝達手段なので、もっと勉強して、追いかけてくる時代に抜かされないように努めたいですね」

   と、前を向く。

「おかれた場所で咲きなさい。もし、咲けないときは、根を深く深く張って、次の咲く準備をしなさい」

   コロナ禍では、高校時代の恩師の言葉をよく思い出したそうだ。

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オアフ島のラニカイビーチ

   その動画の一つが、「ノースショアの旅(前編)」(2022年2月6日付)。「少しでも『生のハワイを届ける』を目標に、あまりに長いロングバケーションに。そろそろ開始の願いを込めて」(宮崎さん)撮影。ハワイの物価高のようすを、街を食べ歩きしながら伝えている。

   宮崎さんが、ハワイ観光の現状(2023年6月時点)を説明する。

「病院や国の機関を除けば、ハワイでマスクをつけている人はほとんど見られません。しかし、お客様(観光客)はまだまだ戻ってきていません。その原因が、いきなりの物価高。以前からハワイの物価は高いと思っていましたが、このところ、あまりにバカらしいほどの物価の上昇を感じます。
たとえば、コーラ12本入りが1500円、トイレットペーパー12ロール1300円、卵1パック1000円、二人でうどんを食べて4000円と、ちょっと異常。スーパーなどは日本の2倍。それ以上のモノもたくさんあります。円安の影響で、戻りそうだったお客様がグッと来なくなってしまい、それがコロナ禍のときよりも衝撃です」

   さらに、こう続ける。

「そうなると、やはりツアー代金も滞在するだけでお金がかかるというほど、一気に高くなっているので、学生やハワイを楽しみたいという方には、なかなか(コロナ禍前の状況には)戻りにくくなっているように思います。
それでも、私はそんなお客様のためにもいろいろとリーズナブルなアクティビティをお探しいたします。もう少し(時間が)かかるかもしれませんが、本当にハワイに日本のお客様が戻ってきてくれることを願ってます」

   オアフ島に住み始めて13年目。ハワイに恋して、ハワイで活動を続ける日本人として、「ハワイが少しでも身近になってほしい。みなさんを、お待ちしています!」と呼びかける。

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