コンサルタントが実践する5つの「仕事の段取り」

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   就活生人気の高いコンサルティング業界だが、コンサルタントはどんなふうに仕事をしているのだろうか。そのスキルが、あますことなく明かされているのが、本書「コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル」(文藝春秋)だ。

「コンサルティング会社完全サバイバルマニュアル」(メン獄著)文藝春秋

   著者のメン獄さんは、1986年生まれのコンサルタント。上智大学法学部卒業後、2009年に外資系大手コンサルティング会社に入社。システム開発の管理支援からグローバル企業の新規事業案件まで幅広く手掛けた。

   2021年に退職後、医療業界のDX推進をめざすスタートアップ企業にDXコンサルタントとして転職した。コンサルティング業界の内情を紹介した、Twitter、noteが人気を博している。

スピードが勝負

   コンサルティング会社のクライアントは、小売・資源・情報通信・医療・行政・運輸など多岐にわたる。ひとくちにコンサルタント業と言っても、プロジェクトごとで業務内容が大きく異なり、定型的な「マニュアル」化は難しいとされる。

   そんな環境下で、トライ&エラーを繰り返す新人コンサルタントのために、著者が会得したサバイバル術を公開したものだ。どんな業界でも使える「秘儀」が惜しみなく公開されている。

   学生時代はバンド活動とアルバイトに明け暮れていた著者が、入社してから少しずつステップアップしていく様子をドキュメンタリーのようなタッチで描いている。

   個性豊かな上司や同僚も数多く登場するので、小説のように面白く読みながら、仕事術を理解できる仕組みになっている。

   昇格するにつれ、第1部アナリスト編、第2部ジュニアコンサルタント編、第3部シニアコンサルタント・マネージャー編という構成。章タイトルがどれも秀逸だ。いくつか紹介しながら、エッセンスを伝えたい。

〇「『速い』はそれ自体が重要な価値だ」-スピードを生む仕事の基礎力」

   初日にクライアントとの会議があり、議事録の作成を命じられた。仕事が終わり、歓迎会の後、家に帰ろうとした著者は、上司に呼び止められる。「議事録、何時にできる?」。みんなが会社に戻り、仕事をしていた。

   コンサルタントのコンサルタントであるゆえんは、「速度」にあるという。クライアントから特定の検討テーマについて、圧倒的なスピードで議論をリードしてくれることが期待値に含まれているからだ。

   その第一歩として、1日8時間の作業ロットを2時間単位に分割することを勧めている。朝一で指示があれば、遅くとも午後一に、何かしらの作業進捗を上司に見せられることが望ましいという。

   仕事の段取りを5つのチェック項目に沿ってイメージする。

1 その仕事の目的はなんなのか? 作ろうとしている資料の用途を考える
2 仕事のインプットとアウトプットは明確か?
3 作業手順は明確か? Excelだけで完結する作業なのか、どんな関数を使うのか
4 提出前に誰の確認が必要な仕事なのか?
5 タイムラインと優先順位は明確か?

   議事録作成のスピードスキルを披露している。「会議前に議事録は書き終えておけ」という上司の言葉の真意を知ると、納得するだろう。

   さらに、Excelは業務上の必須ツールだ。マウスを使わず、ショートカットを覚えること。基本的な関数とピボットテーブルをマスターすること。セル結合をしないなど共有を前提としたマナーも身に付けなければならない。

〇「ピカソの絵を買う人は値段を見て買わない」-品質に説得力をもたせる

   品質は資料の体裁にも表われる。ミスをなくし、品質を担保するための手順を紹介している。また本質は、その内容にある。すべての資料には目的がある。その資料によって誰に何を言ってもらいたいのか、というストーリー性が必要だと強調している。

〇「3カ月後に何を言えば成功なのか?」-コンサルタントの型=「論点思考」「仮説思考」

   コンサルタントの仕事は「正解はこの辺にあるんじゃないか」という仮説を事前に立てて仕事をするのが一般的だという。

   そのため、ボストンコンサルティンググループ出身の内田和成氏の著書「仮説思考」は、すべてのコンサルタントの教科書だと、必読を勧めている。仮説となるストーリー作り、証拠集めという仕事の要点を説いた本だ。

プロジェクト勝利のために

   著者は2年目の冬にジュニアコンサルタントに昇格した。自信を持ち始め、プライドが肥大化し、関係会社のリーダーと衝突する。やがて、マネージャー昇格の年次になっても実現せず、ショックを受ける。そこで学んだ教訓とは――。

〇「顧客の歴史に敬意を払え」-クライアントを多角的に理解する

   現場とのリレーションを深めるためには何よりも相手へのリスペクトが肝心だ。クライアントの会社や業界がどのような歴史的経緯で発展し、今の事業を行うにいたったかをクライアント以上に理解し、その歴史と価値に敬意を払おう、と強調する。

   マクロレベル、ミクロレベルでの業界把握の方法、企業の組織一般の知識について説明している。 そして、いよいよマネージャーになる。

   だが、歯車が狂い始める。提案がクライアントにまったく刺さらない。プロジェクトの予算はオーバー、クライアントの信頼を失い、上司に叱責された著者は、自ら異動を願い出る。

〇「真剣にやってその程度なら降格しろ」-マネージャーの絶対条件

   プロジェクトを勝利に導けることが、マネージャーの唯一にして絶対的な条件だ、と説いている。それには、案件の管理、顧客獲得・事業成長、人材育成が欠かせないという。

   新しい職場で著者は、自己改造プログラムに取り組んだという。英語学習とソリューション・アーキテクトの資格取得だ。そして、「勝てる場所で勝負する」という言葉を頼りに、得意分野で活躍する。

   若手ビジネスパーソンの間では、「ぬるい職場を辞めて、スキルを伸ばせる会社に転職したい」という動きがあるようだ。それを促すような人材会社のテレビCMも流れている。コンサルティング会社は、新卒でも第二新卒でも人気の的になっている。

   スピードと体力、気力が求められる厳しい仕事の実態を、本書はあますところなく描いている。今年上半期でイチ押しのビジネス本だと思った。

   コンサルティング業界志望の人は必読。そうでない人にとっても「仕事とは何か?」を問いかけてくる内容に大きな刺激を受けるだろう。一読を勧めたい。(渡辺淳悦)

「コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル」
メン獄著
文藝春秋
1980円(税込)

姉妹サイト