物価上昇が止まらない。
2023年6月23日に総務省が発表した5月の消費者物価指数(2020年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除いた総合(コア)指数が104.8で、前年同月比で3.2%上昇した。
これで、21か月連続の上昇だ。なかでも、食料品の値上げが記録的水準に達している。物価上昇はいつまで続くのか。日本経済はどうなるのか。エコノミストの分析で読み解くと――。
タマゴ36%、鮭24%増...食料の高騰は42年ぶりの水準
総務省が公開した「消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)5月分」(6月23日付)や、報道をまとめると、総合指数3.2%増は、市場予測の3.1%増を上回り、日本銀行の物価目標である「2%」を上回る高止まり状況が続く。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数(コアコア指数)は4.3%上昇し、プラス幅が前月から0.2ポイント拡大した。第2次石油危機の影響で物価が高騰した1981年6月の4.5%以来、41年11か月ぶりの高い上昇率となった。
品目別では、生鮮食品を除く食料が9.2%プラス。これは、1975年10月以来の47年7か月ぶりの上昇幅となった。原材料価格や物流コストの上昇で、タマゴ35.6%、鮭23.7%、ハンバーガー17.1%、炭酸飲料17.1%、チョコレート14.4%、ヨーグルトが11.3%、アイスクリーム10.1%増といった案配だ。
通信費では携帯電話機20.6%、日用品では洗濯用洗剤19.9%増が目立つ。また、宿泊料が9.2%上昇した。新型コロナが収まり、インバウンド需要が増えてホテル・旅館代が上昇したためだ。
こうした状況をエコノミストはどう見ているのだろうか。
日本経済新聞(6月23日付)「消費者物価、5月3.2%上昇 食品や宿泊が伸び高止まり」という記事につくThink欄の「ひとくち解説コーナー」では、慶應義塾大学総合政策学部の白井さゆり教授(マクロ経済学)が、
「インフレ率は光熱水道料金が下落したため低下しましたが、食料品の価格転嫁は続いています。食料品価格がインフレの7割以上の原因で、これに外食の1割近い割合を加えると8割程度が食料品関連です。消費者の実質所得に打撃を及ぼす形となっており、実際、食料関連の実質消費は減少が続いています。家計の節約志向は明白で、現在のインフレが日銀も指摘するようにコストプッシュ(原材料費などのコスト増で物価が上昇すること)であるのは間違いないでしょう」
と説明。そのうえで日米のインフレの違いを比較し、
「米国のインフレの原因がコストプッシュからデマンドプル(需要の増加で物価が上昇すること)に移行している現状と構造的に違いがあります。日銀にとって難しいのは、大幅な円安が輸入価格の上昇圧力につながっている点で、その分インフレ率の低下は緩慢になっているようです」
と、なかなか物価が下がりにくいと指摘した。
企業の価格転嫁意欲は非常に強い、6月に再び上昇?
「消費者物価指数の伸びは、6月に再び拡大する可能性が高い」と指摘するのは、第一生命経済研究所シニアエグゼクティブエコノミストの新家義貴氏だ。
新家氏は「消費者物価指数(全国・23年5月)~再エネ賦課金引き下げでコアは鈍化も、コアコアはさらに上昇率拡大」(6月23日付)のなかで、消費者物価指数のグラフ【図表1】を示しながら、6月に再び拡大する理由について、こう説明する。
「6月1日より、電力大手7社において電気料金(規制料金)の大幅値上げが実施されており、この影響でCPIコアはプラス0.2~0.3%押し上げられる見込みだ」
「その先についても、企業の価格転嫁意欲は非常に強い。過去の円安などによるコスト上昇の未転嫁分が残っていることに加え、電気代やガス代の上昇、人件費負担の増加等が値上げの理由として挙げられるようになるなど、値上げの動きが止む気配はまだない。 値上げに対する批判の声がかつてと比べて小さくなっている分、価格引き上げを行いやすくなっていることに加え、足元で再び円安が進んでいることも値上げを後押しすることになるとみられる」
そして、こう結んでいる。
「仮に、政府による電気代、ガス代補助金が予定通り9月に半減、10月に終了となれば、2023年末段階でもCPIコアがプラス2%台後半で推移し、前年の裏が出る24年2月には再びプラス3%台乗せといった展開もあり得る状況である。物価上昇が落ち着くにはまだ時間がかかりそうだ」
春闘の賃上げ効果が、サービス価格上昇にも反映されてくる?
「今後は春闘の賃上げ効果が、徐々に物価上昇に反映されてくるだろう」と指摘するのは、大和総研シニアエコノミストの久後翔太郎氏と、エコノミスト中村華奈子氏だ。
2人のリポート「2023年5月全国消費者物価 エネルギー価格の低下でコアCPIへ減速も、物価の上昇基調は依然強い」(6月23日付)のなかで、消費者物価指数への「一般サービス」の寄与度の示すブラフを紹介した【図表2】。
これを見ると、2022年後半から「旅行関連費」「通信娯楽関連費」「外食費」「教育関連費」などの「一般サービス」の寄与度が上昇に転じ、2023年にかけて大きくピークに達していることがわかる。
こうした「一般サービス」価格は人件費が占める割合が高いため、価格の上昇は賃金の上昇率と連動性が高い。2人はこう指摘する。
「2023年春闘では、賃上げ率が大幅に高まる見込みだ。日本労働組合総連合会(連合)が集計した定期昇給相当込みの賃上げ率は加重平均で3.66%(6月1日時点)と、30年ぶりの高水準となった。
記録的な物価高や労働需給のひっ迫などを背景に、中小企業でも2%を超えるベースアップ率での妥結が相次いだ。こうした賃金上昇率の高まりを受けて、賃金上昇率と連動性の高いサービス物価の上昇基調が強まるとみている」
そして、こう結んでいる。
「企業の価格設定行動が足元で積極化しており、賃上げによる投入コストの増加分を販売価格に転嫁する動きが一段と加速する可能性がある」
(福田和郎)