金融庁は2023年6月23日、金融派生商品(デリバティブ)を組み込んだ「仕組み債」を顧客にリスクを十分に説明せずに販売していたとして、千葉銀行と傘下のちばぎん証券(いずれも、千葉市)、2016年から千葉銀行と包括業務提携を結んでいる武蔵野銀行(さいたま市)に、金融商品取引法に基づく業務改善命令を出した。
再発防止策や内部管理態勢の強化、経営陣の責任の明確化などについて、7月24日までの報告を求めている。
仕組み債はハイリスクの金融商品で、高利回りが「売り」だったが、投資経験が乏しい顧客に、リスクを十分に説明することなく販売していたことが問題になっていた。仕組み債をめぐり、金融庁が行政処分をするのは初めて。
千葉銀行と武蔵野銀行、投資家保護に重大な欠陥
千葉銀行とちばぎん証券、武蔵野銀行には、6月9日に証券取引等監視委員会が「仕組み債の販売で法令違反行為があった」として、金融庁に行政処分を行うよう勧告が出ていた。
証券取引等監視委員会によると、仕組み債を保有する3行(社)の個人は8424人のうち、2424人は仕組み債の購入対象となる積極的な値上がり益を重視する顧客ではなかった。
本来、銀行は顧客に対して証券会社の取り扱い商品の概要を説明するだけで、証券会社がさらに投資経験や投資目的などの属性情報を確認して、顧客を勧誘する流れになっている。
ところが、千葉銀行と武蔵野銀行は顧客の状況を確認せず、「定期預金より有利」などと勧誘し、仕組み債を買うよう促した。
対応が不適切だったばかりか、ちばぎん証券も銀行からの顧客情報を受け取ったまま「適合性」の把握を怠り、投資経験が少ない顧客や低リスクの投資方針の顧客に対して十分な説明をせずに販売したという。
金融商品取引法では、金融機関は顧客の知識や経験、投資目的などに合わせて商品の販売や勧誘を行うべきだとする「適合性の原則」が定められており、金融庁はちばぎん証券がこれに違反したとしている。
千葉銀行と武蔵野銀行には、投資家保護の体制に重大な欠陥がある。本来、銀行は証券会社に顧客を紹介すれば、手数料の一部を受け取れる。両行も、ちばぎん証券に顧客を紹介することで手数料収入を得ていた。
しかし、両行とも紹介した顧客の投資方針を十分に確認していなかった。金融庁は、内部管理態勢の強化や再発防止策の策定などを求めた。
ちばぎん証券に日証協が三度も注意喚起、だが「効果」なく...
問題となったのは、「他社株転換債(EB)」と呼ばれる仕組み債だ。
もともと、プロの投資家向けの金融商品で、株価や為替相場があらかじめ決められた水準(ノックイン価格)に抵触すると、償還時に大幅に元本割れしたり、利益を享受できないまま早期償還されたりする可能性がある。
仕組み債を購入した顧客には、損失を出したケースも少なくなかった。千葉銀行とちばぎん証券、武蔵野銀行には顧客から、
「投資経験がないのに勧誘された」
「顔見知りの銀行員から勧められたのに損失が出た」
などの苦情が寄せられていた。
それにもかかわらず、販売体制が改善されなかったことを、金融庁は重くみているようだ。
証券取引等監視委員会によると、苦情の数は2019年からの3年間で87件。ちばぎん証券の稼働口座数に対する苦情相談件数の割合は、日本証券業協会の会員の中で19年から3年連続で最多だったうえ、苦情を顧客からの「一方的な申し出」として処理。日証協は、ちばぎん証券に3回の注意喚起を行ったが、業務改善に適切に生かされることはなかった。
「一罰百戒」は地銀トップバンクゆえ...
千葉銀行とちばぎん証券、武蔵野銀行への行施処分は、「一罰百戒」(ある地銀関係者)との声がある。
そもそも、仕組み債の販売の背景には、日本銀行による超低金利政策がある。
融資(貸出金利ザヤ)で稼げなくなった地方銀行に共通する悩みだ。そのため、地銀は高い手数料を目当てにハイリスクの投資商品の販売を、経営戦略の大きな柱にしてきた。
2023年3月期決算でみると、地銀99行の3分の1を上回る38行の純損益が赤字か減益に沈んだ。投資商品の販売が落ち込めば、業績への打撃は大きい。
しかも、千葉銀行の米本努頭取は6月14日まで、全国の地銀をリードする立場にあった全国地方銀行協会会長だった。
J-CAST 会社ウォッチ編集部の取材に、ある地域銀行の関係者は、
「経営陣が実態を把握していなかったなど、考えられない。あまりにずさんだったようで、(金融庁も)かなり厳しくみているのではないか」
と、米本頭取の責任問題に波及するかもしれないという。
14日に就任した五島久会長(福岡銀行頭取)は、会見の冒頭に「大変残念に思う」と述べ、陳謝した。「顧客本位の徹底が十分であったのか、真摯に受けとめ、今後の活動に生かしていく必要がある」と話した。
なお、千葉銀行と武蔵野銀行は仕組み債の販売を、昨年8月から全面的に禁止している。