大蔵省の「奴隷」だった経済学者が、財務省に反旗を掲げるワケ

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日本政府の本当の「借金」はいくらか?

   財務省はパンフレットなどで、「普通国債の残高は1029兆円と、国民1人あたり823万円もの借金を抱えている」と危機感をあおっているが、本当なのか?

   本書は、財務省が公表する2020年度末の「連結貸借対照表」を示し、負債の1661兆円から保有資産の1121兆円を差し引くと、差額は540兆円となり、これが本当の日本政府が抱える借金だ、と説明している。

   2020年度の名目GDPは527兆円だから、借金のGDP比は102%で、先進国ではごく普通の水準だという。

   さらに、「通貨発行益」という巨大財源を加えると、日本政府が本当に抱えている最終的な純債務はわずか8兆円にすぎないというから驚く。日銀に国債を買ってもらった分は、政府は利益を得たのと同じことになり、それを森永さんは「通貨発行益」と呼んでいる。

   戦費をまかなうために太平洋戦争中に、この手法が行われ、その後、悪性のインフレが発生した。そのため、財政法では、特別の理由がある場合を除いて、日銀が直接国債を引き受けることは禁止されており、日銀は主に銀行が保有している国債を買っている。だから、経済的な効果は直接引き受けとほとんど変わらない。

   いま日銀が保有している国債は、500兆円程度。どこまで大丈夫かを明らかにしたのが、「アベノミクス」だというから、この指摘にも驚いた。

   黒田東彦総裁のもと、日銀は2%の物価上昇率を達成するまで、年間80兆円を目途に、国債を購入して、資金供給を増やした。ところが、税収全体を大きく上回る国債発行をしても、高インフレも、為替の暴落も、国債の暴落も起きなかった。

   この事実は、世界の経済学者に大きな衝撃を与え、「MMT(現代貨幣理論)」と呼ばれる経済学も、アベノミクスの実験結果を踏まえて生み出されたという。

   MMTに関しては、多くの批判がある。「財政拡張の余地が生まれると、それが無駄遣いの温床になる」という主張だが、「通貨発行益はすべて減税に回すべき」と森永さんは反論する。

   本来ならば財政出動に振り向けられるべき通貨発行益は、すべて借金の返済に回された。「日本政府が本当に抱えている最終的な純債務はわずか8兆円」という上述の記述を裏付けるグラフを掲載している。

「消費税を引き下げて、その分を国債発行でまかなう。そして、発行した国債は日銀に全額引き受けてもらう。消費税は地方分も含めて年間28兆円だ。毎年、それくらいの日銀の保有国債を増やしても、なんら悪影響が出ないことは、アベノミクスの社会実験によって立証されているのだ」

   では、アベノミクスはなぜ失敗したのか。二度にわたる消費税引き上げが、経済の悪循環をもたらしてしまったからだ、と考えている。

   安倍政権は、消費税率引き上げを2回延期したのに、3回目の延期をなぜしなかったのか。そこには財務省との暗闘があったのではないか、と推測している。そして、安倍元総理は、自民党のなかで唯一といってよい「反財務省」の政治家だった、と評価している。

   税金と社会保障負担が国民所得全体に占める割合、国民負担率は2010年の37.2%から2022年には47.5%とほぼ5割に達している。働いても半分が税金と社会保険料にもっていかれる計算だ。これは多くの人が実感していることだろう。

   日本経済が成長できなくなった最大の理由は、「急激な増税と社会保険料アップで手取り収入が減ってしまったからだ」と指摘する。

   そしていま、岸田首相が財務省の政策に寄り添って、防衛財源を名目に防衛増税を打ち出し、少子化対策という社会保障を名目に消費増税を行うとしているという。

   森永さんは就任当時、「新しい資本主義」を打ち出した岸田首相に期待したが、変節したと批判する。そして、経済通だという過信が、「日本経済にとんでもない惨禍をもたらす可能性が高い」と危惧している。

   新聞の経済記者に「財政均衡」論者が多いのが長年、不思議だった。すっかり財務省に洗脳されていたのである。そうした記事を読み、影響は少なからず、我が身にも及んでいたことに気がついた。(渡辺淳悦)

「ザイム真理教」
森永卓郎著
三五館シンシャ
1540円(税込)

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