「歴史的だ」電撃的な提携に激震! 対立してきた日本郵政とヤマトHDの手打ちに、物流業界がとてつもなく驚いたワケ

   物流の「2024年問題」を前に、激しく対立してきた物流2社も手を結ばざるを得なくなった。日本郵政とヤマトホールディングス(HD)のことだ。

   両社は2023年6月19日、ヤマト運輸のメール便や小型荷物などの配達を日本郵便に全量委託すると発表。電撃的な提携は業界に衝撃を与えた。

  • 日本郵政とヤマトHDが手を結ぶ(写真はイメージ)
    日本郵政とヤマトHDが手を結ぶ(写真はイメージ)
  • 日本郵政とヤマトHDが手を結ぶ(写真はイメージ)

「信書」にかかわる問題から...メール便の扱いで、対立してきた日本郵政とヤマトHD

   発表によると、ヤマト運輸が「クロネコDM便」の名称で展開するメール便について2024年1月末をめどに、そして、自宅ポストで荷物が受け取れる「ネコポス」も25年3月末をめどに終了する。

   これらに代わって、日本郵便の配送網を活用した「クロネコゆうメール」を新たなにスタートし、ヤマト運輸が日本郵便に委託料を払うかたちでサービスが展開される。メール便領域は、こうしたスキームで継続される。

   だが、今回の協業に、驚きの声をあげたのは物流業界だ。関係者の一人は「ある意味、歴史的だ」と解説する。

   背景には、日本郵政とヤマトHDが長年、メール便の扱いをめぐり対立を続けてきた歴史がある。

   そのキーワードとなるのが「信書」だ。

   郵便法は信書を「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」としており、はがきや手紙がこれに該当する。

   事は「信書の秘密」という憲法にかかわる問題だ。

   憲法は第21条2で「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と定める。このため、信書を配達するには厳しい規制があり、事実上、日本郵便による独占状態が続いている。

   これに長年、異を唱えてきたのがヤマトだ。

   「信書の定義があいまいで、公平な競争環境が阻害されている」と批判。1997年には信書以外の小型荷物の需要を狙った「クロネコメール便」を打ち出し、企業向けを中心に一気にシェアを拡大した。

   しかし、問題が生じる。

   メール便などヤマトが配送する荷物の中に、手紙など信書に当たる文書が入っているとして国側とたびたび、対立してきた経緯がある。ヤマトは「発送者が罪に問われる恐れがある」として2015年に従来のメール便の廃止に追い込まれた。

   その後継となったのが、カタログやチラシ、パンフレットの配達など、法人向けを主体にすることで信書の誤混入を防止した「クロネコDM便」だ。

   もちろん、ヤマトはクロネコメール便廃止後も規制緩和の旗を降ろしたわけではなく、ホームページで信書の問題点を訴え、国に改善を働きかけ続けてきた。

   それがここにきて一転、日本郵便への全量委託のかたちで、因縁のメール便事業を終了することにかじを切った。それだけに、物流業界には「まさか、ヤマトが」と衝撃が走ったわけだ。

ヤマト、経営の重荷の小型荷物に見切り...中核の宅急便事業に経営資源集中へ 物流の「2024年問題」への危機感が決定打に

   もっとも、他方で、ある業界関係者は「ヤマトがメール便からの撤退に追い込まれるのは、時間の問題だった」と指摘する。物流大手にとって、メール便などの小型荷物の配送は経営の重荷になっていたからだ。

   ヤマト運輸のメール便の取扱量は年間約8億個、小型荷物は約4億個に達する。インターネットを介した通販や個人間売買の拡大で需要は旺盛なものの、配送料が安いため採算は低迷していたという。

   そして、決定打になったのが「2024年問題」だ。

   2027年4月以降、トラック運転手の時間外労働の上限規制は年960時間に強化される。ただでさえ人手不足の物流業界の逼迫感が、さらに深まるのは確実。物流大手が物流網の維持に向けて早急な対策を迫られる中、日本郵政とヤマトも大きな決断を迫られた。

   ヤマトは協業を機に採算性の低い小型荷物から手を引く。そして、経営資源を中核の宅急便事業に集中する方針だ。

   かたや、日本郵便はヤマト経由のメール便も配送することで、トラック1台当たりの積載率をあげて、収益の改善をはかる狙いがある。

   最終的に、両者の思惑がうまくかみ合ったかっこうだ。

   おりしも、「2024年問題」は物流業界に、1社単独では対応できないという強い危機感を植え付けた。

   日本郵政は佐川急便との間でも、トラックの共同運送などに着手している。物流業界の恩讐を超えた協業は、今後も拡大する可能性がある。(ジャーナリスト 済田経夫)

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