ガス大手、岩谷産業の株価が2023年6月8日の東京株式市場で上場来高値を更新し、その後も値崩れせずに高値圏で推移している。
日本株全体として海外投資家からの買いが入っていることも背景にあるが、脱炭素時代に向けた水素エネルギーの担い手としての期待感が大きいようだ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券と米系のジェフリーズ証券、目標株価を引き上げ
岩谷産業の株価は6月8日に一時、前日終値比232円(3.0%)高の7890円まで上昇し、上場来高値を更新した。
政府が6月6日、脱炭素時代のエネルギーとして有力視される水素の基本戦略を改定。向こう15年間で官民合わせて15兆円を投資して供給網を構築することが大きな柱で、これに伴い、2030年ごろまでに水素の価格を現状の3分の1程度まで下げて普及を図る、としている。
水素は現在、液化天然ガス(LNG)の4倍程度と価格が高いことが普及のネックになっている。このため、政府の改定基本戦略では、水を電気分解して水素を作り出す「水電解装置」を2030年までに15ギガ(ギガは10億)ワット程度導入することを目標に掲げた。供給量を増やして価格を下げる作戦だ。
岩谷産業は現状、国内の水素販売シェアトップ。水素といえば岩谷産業との連想が働く株式市場にあって、今回の政府の動きが株価上昇の推進力となった。
政府の基本戦略改定を受けて、三菱UFJモルガン・スタンレー証券と米系のジェフリーズ証券が相次いで目標株価を引き上げたことも追い風になった。
業績は堅調 24年3月期の業績予想...最終利益4.6%増の335億円見込む
もともと、岩谷産業の業績は堅調だ。2023年3月期連結決算は売上高が前期比31.3%増の9062億円、営業利益が0.1%減の400億円、最終利益が6.9%増の320億円。
主力のLPガスの販売が増えたことなどで収益が改善した一方、産業ガス分野の製造コストが嵩んで利益を圧迫。水素事業は液化水素や関連設備の販売が伸びた。
2024年3月期の業績予想は売上高が0.1%増の9070億円、営業利益が12.4%増の450億円、最終利益が4.6%増の335億円を見込む。
LPガスの販売数量は順調に伸び、ヘリウムなどが伸びる産業ガスも利益を確保することで最終利益は9期連続で過去最高を更新する計画だ。
足元の業績が底堅いところへ、ポテンシャルのある水素事業に官民が投資する期待感から投資家の引き合いが強く、上場来高値をさらに更新する可能性もありそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)