なぜ「サントリー天然水」と「コカ・コーラ」が並んだ広告が? 先端技術で加速!サントリーの「ボトルtoボトル」水平リサイクルに迫る/サントリーHD・渡辺雄太さんに聞く

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   私たちにとって身近な素材のひとつ、ペットボトル。日々、分別してはいるけれど、回収されたあとはどうなっているのだろう?

   プラスチックの一種であるペットボトルは今、あらためて注目されている。資源の循環や「脱炭素」の観点からも、リサイクルへの関心が高まっているからだ。

   では、企業ではどのような取り組みを進めているのか――。先進的な取り組みをおこなっているのが、サントリーグループだ。ペットボトルの「ボトルtoボトル」水平リサイクルに力を入れているという。

   ペットボトルリサイクルの最前線とは? サントリーホールディングス サステナビリティ経営推進本部 課長の渡辺雄太(わたなべ・ゆうた)さんに話を聞いた。

  • サントリーHD サステナビリティ経営推進本部 課長 渡辺雄太さん
    サントリーHD サステナビリティ経営推進本部 課長 渡辺雄太さん
  • サントリーHD サステナビリティ経営推進本部 課長 渡辺雄太さん

2030年までに、ペットボトルの「100%サステナブル化」を実現したい!

――このところ、ペットボトルのリサイクルへの関心が高まっています。2023年5月、サントリーグループ(サントリーG)のサントリー食品インターナショナルと日本コカ・コーラが共同で展開した、「ボトルtoボトル」水平リサイクルの啓発広告も話題に。サントリーの「天然水」と「コカ・コーラ」が並んだデザインは、インパクトも大きかったです。どういったねらいがあったのですか。

渡辺雄太さん 広島県で開催された「G7広島サミット」(5月19日~21日)にあわせて、広島県のほか、都内を中心に出したのがこの広告でした。広島サミットの報道関係者用の施設でも、「ボトルtoボトル」水平リサイクルの取り組みを紹介するブースを一般社団法人全国清涼飲料連合会と共同で出展し、日本型の資源循環モデルをお伝えしました。
ここでいう「ボトルtoボトル」水平リサイクルとは、使用済みのペットボトルを原料として用いて、再び新しいペットボトルにつくりかえるリサイクルのことです。
現在、清涼飲料業界全体では、2030年までに、「ボトルtoボトル」水平リサイクル比率50%を目指しています。
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ボトルtoボトル啓発広告

――サントリーGでは、サステナビリティ(持続可能性)に向けて、どのような目標を掲げていますか。

渡辺さん サントリーGが掲げる「サステナビリティビジョン」では、重要テーマが7つあります。「水」、「CO2」、「原料」、そして4つ目に「容器・包装」。それから、「健康」、「人権」、「生活文化」と続きます。
とくに力を入れているのが、「水」の保全、「CO2」の削減、「容器・包装」のなかでも、とりわけ「プラスチック」の領域です。
プラスチックについては2019年、「プラスチック基本方針」を定め、ペットボトルの100%サステナブル化を目指しています。具体的には、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルに、リサイクル素材、あるいは植物由来素材のみを使用して、化石由来原料の新規使用をゼロにしていく、という内容です。

――「プラスチック基本方針」を定めた背景は?

渡辺さん プラスチックの一種であるペットボトルは、有用な容器です。軽くて割れないし、再栓でき、利便性が高いからです。一方で、私たち飲料メーカーにとっても、いろんな形に成形しやすく、デザインがしやすい。きちんと分別すれば、リサイクルできる点もメリットです。
このようなプラスチックの便利さは活用しつつも、循環型社会、脱炭素社会の実現に向けて、環境負荷を下げた使い方は欠かせません。その両立を目指し、活動の目標として据えたのが「プラスチック基本方針」でした。

――そこで、カギを握るのが「ボトルtoボトル」水平リサイクルというわけですね。もっとも、サントリーGでは早くから、プラスチックやペットボトルの使用量削減などにも取り組んでいました。

渡辺さん 順を追って説明すると、サントリーGでは、20年以上も前からペットボトルのリデュース(削減)を進めてきました。つまり、ペットボトルの原料をできるだけ減らす、軽量化の取り組みですね。だから、昔の「天然水」と現在の「天然水」では、ペットボトルの薄さがだいぶ変わっていますよ。
ところが難しいのは、軽量化しすぎると耐久性が損なわれたり、お客様が持ちにくくなってしまうことがあります。軽量化と品質保持はどうしてもトレードオフの関係にあって限界もあるため、2012年からは「ボトルtoボトル」水平リサイクルが加速しています。弊社の場合はメカニカルリサイクルという手法です。

――リサイクルするにしても回収が必要ですが、このあたりの状況は?

渡辺さん 実は、日本のペットボトルの回収率は、ペットボトルリサイクル推進協議会による2021年度のデータによると、約94%とかなり高い数字です。また、リサイクル率は約86%。諸外国と比べても突出しています。ちなみに、資源として再利用されなかったものは、燃料として有効活用されています(サーマルリサイクルと呼ばれています)。
「ボトルtoボトル」水平リサイクルとは
「ボトルtoボトル」水平リサイクルとは
渡辺さん ところが、回収されたペットボトルは、再生原料にしたのち、たとえば食品トレイや、衣料品の繊維など、別の用途にリサイクルされて使われることが多いのです(こちらは、カスケードリサイクルと呼ばれています)。
もちろん有意義な活用ですが、カスケードリサイクルされたものを再びリサイクルすることが、現在の技術では簡単ではありません。ということは、この場合、1回限りのリサイクルで終わってしまうところが課題といえます。

――もう一度ペットボトルには戻れないということですね。

渡辺さん ええ。しかし、「ボトルtoボトル」水平リサイクルであれば、何度でも繰り返してボトルからボトルに返して使うことができる、理想のリサイクルです。また、化石由来原料からペットボトルをつくる場合と比較して、約60%のCO2削減になります。

――「脱炭素」の観点でも有効なのですね。

「F to Pダイレクトリサイクル技術」は、CO2排出量のさらなる削減にも貢献

――さらに、サントリーGでは、リサイクル技術の革新にも挑戦されていて、「F to Pダイレクトリサイクル技術」というものも導入されています。ぜひ詳しく教えてください。

渡辺さん 通常のメカニカルリサイクルでは、回収したペットボトルを粉砕、洗浄、乾燥させた「フレーク(Flake)」という状態にします。その後、フレークを高温で溶融して、結晶化させて「ペレット」という形状の再生樹脂にします。それをさらにもう一度溶融して「プリフォーム(Preform)」という、ペットボトルの原型ができます。これを膨らませると、おなじみの「ペットボトル」になります。
F to Pダイレクトリサイクル技術
F to Pダイレクトリサイクル技術
渡辺さん これに対して、サントリーグループが協力会社さんとともにつくり上げた「F to Pダイレクトリサイクル技術」では、熱溶融を必要とするフレーク→ペレット→プリフォームの一部工程をスキップして、「フレーク」から直接、「プリフォーム」をつくる(Flake→Preform)技術です。熱溶融の工程の一部を省くことで、エネルギー効率も高まります。
さきほど、「ボトルtoボトル」水平リサイクルの場合、化石由来原料からペットボトルをつくる場合と比較して、約60%のCO2を削減できるとお伝えしましたが、F to P技術では、さらに10%のCO2削減効果があります。
この技術は2018年に開発・導入。現在、一部のペットボトルはこの技術でリサイクルしていますが、将来的にはこれまで以上に対応できるよう、生産体制などを整えていければと考えています。

――今後、ペットボトルの水平リサイクルの好循環をまわすために必要なことは、なんでしょうか。

渡辺さん ポイントは、分別、回収でしょうか。とはいえ、日本ではかねてからペットボトルの回収率は高く、みなさんもご家庭でもすでに分別されていると思います。でも、やってはいるけれど、その後どのように使われているかわからない、と感じていませんか。そこがわかると、もっとモチベーション高く取り組めるのではないかと思います。

――言われてみれば、そうですね。

渡辺さん ペットボトルの分別行動のいいところは、消費者のみなさんが取り組みやすいことだと思います。たとえば、CO2の削減は大事ですが、では個人で取り組めることは何かといえば、なかなかイメージがわきづらいかもしれませんね。
ただし、ペットボトルの分別行動の先には、環境負荷を低減する取り組みにつながり、意義があるということをお伝えしていくことは、ペットボトルを利用する私たちの責任だと考えています。また、こうした分別行動をきっかけに、サステナビリティ(持続可能性)への関心の入り口になるといいなと思っています。

――消費者のみなさんとは、どのようなコミュニケーションをされていますか。

渡辺さん 分別、回収されたペットボトルは、資源が循環される取り組みにつながっていることをウェブサイト、テレビCMなどの広告を通じて情報発信しています。また、昨年(2022年)から、新たなロゴマーク『ボトルは資源!サステナブルボトルへ』を、国内ペットボトルの全製品のラベルに入れています。
そのほか、「ボトルtoボトル」水平リサイクルの協定を締結した自治体の小学校への出張授業に、ショッピングモールのイベントスペースなどではペットボトルリサイクルの啓発プログラムに取り組んでいます。
ロゴマークの『ボトルは資源!サステナブルボトルへ』
ロゴマークの『ボトルは資源!サステナブルボトルへ』

――最後に、今後の展望はいかがでしょうか。

渡辺さん サントリーGでは、2030年までにペットボトルの「100%サステナブル化」を目指しています。これに関して、昨年の国内清涼飲料事業の実績では、「ボトルtoボトル」水平リサイクルや、植物由来素材の活用等で46%に到達しました。今年は50%超えを目指しています。いずれにしても、100%に近づけられるよう、活動を続けていきたいと思います。今回はあまり触れられませんでしたが、さらに将来を見据え、植物由来素材を100%活用するペットボトルの早期実用化も目指し、研究開発も進めています。

――ありがとうございました。

【プロフィール】
渡辺 雄太(わたなべ・ゆうた)

サントリーホールディングス株式会社
サステナビリティ経営推進本部 課長

2003年新卒でサントリー株式会社(現・サントリーホールディングス株式会社)に入社。酒類事業、グループ経営企画などを経て、現在サステナビリティ経営推進本部で、「容器・包装」のサステナビリティ戦略の立案・推進を担当する。

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