「育休中に、私が積み上げてきた功績を後任に横取りされた。上司に抗議したい!」という女性の投稿が炎上気味だ。
産休に入る前、自分が主導してきたプロジェクトが社内コンペで優勝し、栄誉はすべて後任の手に。女性は社内コンペがあったことさえ知らされなかった。
「めちゃくちゃ悔しい」という女性の投稿に、「そんなに大事なプロジェクトなら、休みを取らなければよかった」という批判と、「職場が冷たすぎる。これでは女性が子育てしながらキャリアを積むのは無理」という共感が錯綜する。専門家に聞いた。
「2年も育休をとったら、会社にとって不要だということが露呈する」に心配
<「産休前に手がけた企画の功績を、後任に横取りされた」上司に抗議したいという女性の投稿が炎上!「だったら育休取るな」「職場が冷たすぎる」大論争...専門家に聞いた(1)>の続きです。
――やはり、産休育休で職場を離れることに対する不安が強いのですね。
川上敬太郎さん「育休期間を最大2年に延長する問題に対する働く女性のアンケート調査では、数だけをみると、賛成が反対の4倍以上です。しかし、フリーコメントには反対と答えた人のほうが数多く寄せられました。それだけ、ぜひ言いたい気持ちが強かったのでしょう。たとえば、こんな意見です。
『2年も延長したら、会社にとって不要だということが露呈する』『子育ては母親がするものだという風潮が強まってしまう』『短時間勤務などでも、仕事を続けながら育児をするというバランスが取れるのが一番良い』といった、自分が職場から忘れ去られてしまうのではないかという恐れです。また、『そんなに休むのだったら退職するべき』といった厳しい声もありました。
長期的に育休取得することを望む人は多いものの、いざ取得するにあたっては不安もあり、その不安はスキルやポジションなど、キャリアに対するマイナスの影響が大きな理由になっていることがうかがえます」
――キャリアに対するマイナスという点では、女性に対する批判で多かったのが「そんなにプロジェクトが大事だったら妊娠の時期を考えるべきだった」とか、「育休ではなく、産休だけにするべきだった」という意見です。
なかには「米国では功績を取られることは当たり前。そのため日帰りで出産し、産休をとらない女性もいる」という意見さえありました。
川上敬太郎さん「投稿内容を見る限り、投稿者さんは産休育休の取得によって、ご自身が携わってきたプロジェクトから離れることになったのが不満というよりは、プロジェクトに携わっていた時の功績が認められないことに不満を感じているのだと思います。
プロジェクトに携わっていたのはあくまで産育休を取得する前のことであり、その功績の有無は、産育休を取得したか否かとは無関係です。それなのに、投稿者さんが産休育休を取得したことや、取得するなら産休だけにすべきだったなどと取得の仕方まで指摘する回答は、ポイントがズレているように感じます」
「プロジェクトを最後に仕上げた後任には感謝を」
――たしかにそのとおりですね。しかし、「あなたは途中でプロジェクトを投げ出した」、「むしろ、最後に仕上げた後任に感謝すべきだ」という意見も多かったです。
川上敬太郎さん「投稿者さんは、決してプロジェクトを投げ出したわけではないと思います。ただ、一番かどうかは別にしても、あらゆる仕事は最後の仕上げが難しいものだと思いますし、後任の方がプロジェクトをしっかりと引き継いでくれたこと自体は間違いありません。
投稿者さんが産休育休を取得した後、そのプロジェクトを衰退させたり、終わらせてしまったりすることなく、後任の方は業務を引き継いで社内コンペに応募し、グランプリ受賞にまでつなげてくれました。後任の方には、後任の方なりの苦労があった可能性を考えると、感謝すべきという指摘はもっともなのではないかという印象を受けます」
「抗議するというケンカ腰ではなく、上司にはハッキリ言おう」
――また、女性の「上司に抗議したい」というカキコミには、違和感を覚える人がかなりいました。「復帰後のキャリアに傷がつくから、やめたほうが...」といったアドバイスや、「あなたは軌道に乗った段階で後任に引き継いだというが、上司からみれば肝心なところでいなくなったという評価。だから、コンペ入賞の連絡もこなかったのでは」という批判があります。
川上敬太郎さん「『抗議』という言葉を使うと、投稿者さんは被害者で、上司や後任の方たちが加害者である、という一方的な図式が前提になっているように感じます。そのような決めつけに対して、回答者たちは批判を向けているのではないでしょうか。
上司や後任の方たちにもそれぞれの事情があるかもしれないことを踏まえると、いきなり抗議するというようなケンカ腰ではなく、まずは背景や事情を確認するというスタンスで臨まれたほうがよいように思います。そのうえで、もし先方に悪気はなく、配慮が足りなかっただけなのであれば、投稿者さんとしてはどのように感じたかを率直に伝えてもよいかもしれません」
――ほう。大半の回答者が「波風立てずに、黙っていたほうがいい」とか「後任の人に『よかったね』とメールを送るにとどめておくとよい」との意見ですが。
川上敬太郎さん「同じようなことは、今後、新たに産休育休を取得する人にも起こる可能性があります。投稿者さんが感じたことを素直に伝えることで、今後の対応策として活かすことができます」
「会社は、社員ひとり一人の感情にしっかり寄り添うべき」
――なるほど。この女性と同じように、産休育休を取得して大事なプロジェクトを離れた人から、共感の体験談がいくつか寄せられましたからね。
ところで、「組織論」の立場から、「仕事はチーム全体でするもの。野球でも先発、中継ぎ、抑えがおり、あなたは先発。ただ、勝ち投手にならなかっただけ」とか「会社のプロジェクトで表彰されるのは現在の代表者1人だけ」といった諭す意見がいくつかありました。
川上敬太郎さん「どんな仕事にも必ず前工程や後工程がありますし、チームで協力し合って仕事を進めるのが組織です。回答者さんたちの指摘は、いずれも仕事するうえで大切な観点だと感じます。
ただ、投稿者さんとしては、プロジェクトに対するご自身の貢献が認められないことへの不満があります。それは感情の問題です。『組織論』を考えるのであれば、投稿者さんを含め、組織を構成する一人ひとりの感情にどう寄り添うかもまた、大切な観点なのだと思います」
このあとも、川上さんのアドバイスが白熱します――。<「産休前に手がけた企画の功績を、後任に横取りされた」上司に抗議したいという女性の投稿が炎上!「だったら育休取るな」「職場が冷たすぎる」大論争...専門家に聞いた(3)>にまだまだ続きます。
(福田和郎)