「育休中に、私が積み上げてきた功績を後任に横取りされた。上司に抗議したい!」という女性の投稿が炎上気味だ。
産休に入る前、自分が主導してきたプロジェクトが社内コンペで優勝し、栄誉はすべて後任の手に。女性は社内コンペがあったことさえ知らされなかった。
「めちゃくちゃ悔しい」という女性の投稿に、「そんなに大事なプロジェクトなら、休みを取らなければよかった」という批判と、「職場が冷たすぎる。これでは女性が子育てしながらキャリアを積むのは無理」という共感が錯綜する。専門家に聞いた。
「育休中の私が取り組んだ功績を無視され、めちゃくちゃ悔しいです」
話題になっているのは女性向けサイト「発言小町」(2023年6月2日付)に載った「産休に入る前までに積み上げてきた功績を横取りされた」というタイトルの投稿だ。
投稿者は「只今育休中」の女性だ。「愚痴になりますが、吐き出させてください」と、こう綴っている。所属しているのは、規模の大きな会社らしい。
「私が主幹となり企画、構築、運営して取り組んできたプロジェクトが4年がかりでようやく軌道に乗ったところで、きっちり後任に引き継ぎをして産休に入らせていただきました。
最近、職場のSNSで知りましたが、上記の取り組みが社内コンペにエントリーされグランプリを受賞したようです(略)。後任の個人名で表彰されており賞金ももらえるでしょう」
SNSの情報しか見てないですが、現在育休中のメンバー(私)が取り組んだということには一言も触れられておらず、あたかも後任が取り組んだような書きっぷりでした。
正直、めっちゃくちゃ悔しいです。少しでも私が関わっていたことに触れてくれるくらいの配慮はないものか。せめて、SNSで知らされるのではなく、個人的にひと言共有するくらいはあってもよいのではと思います」
そして、こう怒りをぶつけるのだった。
「こういうのを『漁夫の利』というのでしょうか。育休復帰後の職場の関係が悪くなるのが嫌で、泣き寝入りになりそうですが......。上司に抗議したいです」
「本当に大事なプロジェクトなら、妊娠のタイミングも考えるべき」という意見
この投稿に対しては、「産休育休をとってプロジェクトを投げ出しのが自分だから仕方がない」、「それを引き継いで完成させた後任にあたるなんて、大人げない」という批判が相次いだ。
「しょうがないよ。信長がついた餅(もち)を秀吉がこねて、食った家康が神格化される。あなたは餅をついて、こねて、食わなかった。産休だけ取って復帰していれば、その名誉はあなたのものだったのでしょう。
コチラ(米国)では比較的ありますよ。横取りなんて当たり前ですから、産休すらろくに取らずに復帰するキャリアウーマン。まあ、日本人と違って体が大きいから、産褥が比較的軽いのでできることですけど。出産なんて日帰りだもん(驚愕)」
「もし、本当に大事なプロジェクトなら、妊娠のタイミングも考えるべきでしたね。誰かが後を引き継いでくれないとプロジェクトは完成させられなかったのですから、自分はその場にいられなかった=仕方ないと諦めるしかありません。しかも、それが誰かの画策ではなくて、自分の出産育休で起こったのですから、自分の詰めが甘かったと受け入れるしかないと思います」
「そんなに仕事大好きで、手柄を独り占めしたいのなら、産休なんて取らなければいいじゃないですか。今の時代、子なし共働き夫婦なんて全く珍しくないですし。普通なら『引き継いでくれて、大成功させてくれてありがとう』でしょ? 後任は感謝こそされど、文句を言われる筋合いなんて1ミリもありません。産休育休社員の穴埋めをして必死に働いても、こんなふうに思われるかもしれないなんて、ゾッとしました」
「引き継ぎしたのだから、後は後任の仕事。社内コンペに出して、育休中の人が評価されたら、働いている人全員がモヤモヤします」
「そんなにカリカリして仕事復帰すると、うざい存在になりかねないです。正直、引き継ぎされた立場からしたら、復帰されたら面倒だな......。うまくあなたを持ち上げて、気分よくしてもらわないと、何されるかわからないって感じがしてしまった」
「4年もかけて取り組んで、あなたがいる間は評価されなかった。あなたが産休育休で不在になって初めて評価されたのなら、後任&チームが取り組んだ結果でしょう。むしろ『自分が担当していた間は評価されなかったのに、後任に代わったら受賞した』という点に危機感というか、私だったら『自分やばいかもしれない(仕事できない?)』という方向に考えて焦ってしまいそう」
上司からみればあなたは、「肝心なところでいなくなった人」?
女性が使った「漁夫の利」という言葉にも、疑問が寄せられた。「漁夫の利」は対立する2者が争っている間に第3者が利益を手に入れてしまうこと。この場合は「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」が近いのではないか、というわけだ。
また、「女性の自負と、上司の評価は全く違うのではないか」という指摘も寄せられた。
「あなたは『軌道に乗ったところで引き継いだ』と思っていても、上司は『肝心なところでいなくなった』と思ったのかもしれません。その後任さんの功績として出品するにあたり、プロジェクトのメンバーが誰ひとり上司に意見していないから、そのまま後任のみの名前での受賞となったのでしょう。
そして、その件を誰もあなたに伝えていないから、プロジェクトメンバーの総意として、満場一致で後任の功績で文句なし!なんですよ」
「上司にしてみれば、『大事な仕上げを残して、いなくなった人』という評価なのでしょう。『画竜点睛を欠く』といいます。立派な竜の胴体を描いても、やはり作品全体に大きな影響を及ぼすのは、いかに目を描くかにかかっています。その目を描くことなく去った人。
刀剣なんかもそうですよね。鉄を鍛えるのに多くの力仕事は弟子たちがする。しかし、刀の銘に弟子の名前が刻まれることはない。でも名刀を作るのに大きな功績はある。名刀の制作に携わったという栄誉だけで満足するしかないでしょう」
「野球でいえば、あなたは勝ち星に恵まれなかった先発投手」
また、野球でいう「先発・中継ぎ・抑え」といったチームや組織論から投稿者を優しく諭す意見も目立った。
「私は野球が好きなのですが、現代野球は先発完投型が少なくなっており、投手は、中継ぎ・抑えなど役割分担になっています。その結果、すんなり先発投手に勝ち負けが付かない試合も少なくなく、それまで力投していた投手が報われず、たった数球投げただけで勝ち投手になったりする、ということも。それと似ていませんか。今回は、ツキがなかっただけだと思います」
「ん...難しいですね。社長で考えると、以前から販売していて、社長が交代した後に急に売上が上がった商品があった場合は、現社長が評価されると思います。逆に会社で不手際や多大なミスがあり、社長が交代してから判明した場合は、現社長の責任となります。
とにかく、今関わっている人が表彰されたり、逆に責任を負わされたりするのは仕方がないと思いますよ」
「ずっと支えてくれた上司が、育休中の私にお花を贈ってくれた」
一方で、女性に共感、同情する声も多く寄せられた。特に、女性と同様に産休育休でプロジェクトを離れた人からは「体験談」が相次いだ。
「私の場合は、私の育休中にチームの成果が表彰されて、表彰パーティーに呼ばれましたし、賞金もほかの方たちと同様にいただきました。育休で迷惑かけて申し訳ないという気持ちはありましたが、表彰のことを連絡してもらえなかったら、あなたと同じような気持ちになったと思います。
誰からも連絡すらないのは、職場の方が冷たいと思います。ただし、私なら復帰後の立場を考えて抗議はやめときます」
「同様の経験ありますが(引き継いで1か月足らずの人が受賞)、ずっとサポートしてくれていた上司が私個人にお花を送ってくれましたよ。少し寂しく思っていたので嬉しかったです。
まあ、そういう『モノ』として届かないかもしれないけど、見ている人は見ているものです。あと、そこで得た経験はあなただけのもので、誰にも奪うことはできないのです。引き継いで成功に導くのもひとつの経験ですが、ゼロイチで何か生み出す経験にはかないませんよ~」
「回答がみなさん辛辣なのにびっくりしました。私はあなたのお気持ちがわかります。賞の都合上、対象者は1人しか書けなかったとしても、せめて後任の方や上司から『あなたのおかげで実を結ぶことができました』と連絡するくらいはできたでしょうに。
私も連名で社内の賞に応募する際、ほぼ全ての申請書を作成し、成果自体も私の努力がなければ達成し得ない内容でしたが、授賞式ではつわりで入院しており、他のメンバーが授賞式に出席し、受賞インタビューも受けており、モヤモヤしました。あなたもモヤモヤしますよね。私が頑張ってきたのに...って。育休から復帰後、またお仕事頑張りましょう」
「育休をとるほうが悪いのなら、もう仕事と育児の両立はできない」
産休育休によって、女性がキャリアコースから外れる「マミートラック」とは、こういうことを言うのか、と疑問を投げつける意見が多かった。
「わかる、わかる。悔しいですよね。そういうのが嫌だから、みんな妊娠出産の時期をコントロールしているのですよね」
「産休育休をとるほうが悪いという意見が、私にはよく分かりません。取らないのが正解なの? 誰にでも子どもをもつ権利はあるし、産休育休とる権利だってあるでしょう。この世界は、仕事と子どもの両立って、やっぱりできないのかって、みなさんの回答を見て思いましたよ。
どんな言葉があなたの励ましになるかなと考えました。あなたの近くで一緒に頑張ってきた仲間は分かっていると思います。それに、コンペで賞を取るためにやってきたわけではないですよね。自分の企画が高く評価されたことは間違いない。そこまでの大きな仕事をし、誰に迷惑かけることなく引き継ぎをして産休育休に入ったあなたは、間違いなく立派ですよ。お子さんからしたら、誇れるお母さんじゃないですか。気持ちを切り替えて、お子さんとの幸せな時間を過ごしてください」
「キャリアが途切れるってこういうことなのでしょうね。産休育休に入った人って、会社では辞めた人と同じような扱いなのじゃないですか? 辞めた人の功績なら引き継いだ人が賞を受賞してもお礼なんて言わないでしょう? あれと同じだと思います。
産休育休明けて復帰できるかどうかも怪しいし、帰ってきたとしても今まで通りの働きは期待できない。社員の頭数に入れてもらえていないのが現実だと思います」
「2年も仕事を離れると、ポジションがなくなる」という不安の声
J‐CAST 会社ウォッチ編集部では、産休育休前に手がけたプロジェクトが社内コンペで表彰されたのに、何の連絡もなかったことに怒りをぶつける女性の投稿をめぐる論争について、働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに意見を求めた。
――この投稿とさまざまな回答を読んで、率直にどのような感想を持ちましたか?
川上敬太郎さん「投稿者さんとしては、思いを込めて携わってきたプロジェクトが社内コンペでグランプリを受賞したにもかかわらず、ご自身の貢献がなかったもののようにされていることへの悔しさといった感情を吐き出した投稿なのだと思います。
一方、回答者たちからは産休育休を取得したことへの是非に言及するコメントが多く、投稿者さんと回答者さんたちとの間で、問題にしているポイントがズレてしまっているように感じました」
――論争の背景には、産休育休によって女性のキャリアが中断する問題、いわゆる「マミートラック」があると思いますが、川上さんが研究顧問をされている働く女性のホンネを探る調査機関「しゅふJOB総研」で、この問題を調べたことはありますか?
川上敬太郎さん「政府が育休期間を最大2年まで延長することを検討していた2017年頃、仕事と家庭の両立を希望する主婦層に賛否を聞いたことがあります。
◇育児休業期間延長についてどう思う?
その際、賛成が過半数で反対は13%しかいませんでしたが、反対と回答した人に理由を尋ねたところ、『時代の変化が早く、スキルが追いつかなくなる』との答えが最も多く61%。次いで『2年も仕事を離れると、ポジションがなくなる』が45%でした」
このあとも、川上さんのアドバイスが白熱します――。<「産休前に手がけた企画の功績を、後任に横取りされた」上司に抗議したいという女性の投稿が炎上!「だったら育休取るな」「職場が冷たすぎる」大論争...専門家に聞いた(2)>に続きます。
(福田和郎)