日本銀行は2つの道のどっちを選ぶか、岐路に立っている
一方、日本銀行は現在、2つの道のどっちを選ぶか、岐路に立っていると指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「物価目標達成か? 物価目標修正か?:岐路に立つ日本銀行(金融政策決定会合)」(6月16日付)のなかで、日本銀行の先行きにある2つの道の【図表2】を示しながら、こう説明した。
「2%の物価目標を巡り、日本銀行は現在、岐路に立っていると言える。先行きには2つの道がある。来年に賃金上昇率がさらに高まり、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇となって、2%の物価目標の達成が見通せるようになる、というのが『第1の道』である(【図表2】の上の道)」
「この場合、日本銀行は金融政策を明確に転換し、植田総裁が表現する『金融引き締め』、『正常化』、『出口』に向かうことになる」
木内氏は、日本銀行が「第1の道」に向かう確率を15%とみる。続いて、第2の道」(【図表2】の下の道)は――。
「他方、この先物価上昇率が低下していき、それを受けて来年の春闘で賃金上昇率が再び下振れ、2%の物価目標の達成が見通せない状況となれば、日本銀行は2%の物価目標を『中長期』の目標などに柔軟化するだろう。その場合、金融緩和は長期化することが避けられないため、その長期戦に耐えうるように副作用を軽減するとの名目で、枠組みの見直しを進めることになることが予想される」
「金融緩和継続」のもとで、「金融緩和の枠組みの見直し」と表現されるものが行われるのだ。これが「第2の道」で、こちらを歩む確率は85%になるという。
木内氏は、植田総裁自身は2%の物価目標の達成は難しいと考えており、「第2の道」が日本銀行のメインシナリオになるとみる。
しかし、政府や国民の間では、物価上昇率が目標水準を大きく上回っていることや、春闘で賃金上昇率が予想以上に上振れたことから、日本銀行に対する強い批判が起こることは避けられない。
そこで、日本銀行は「2%の物価目標の達成が見通せるかどうか見極めるとの姿勢を当面は維持し、政策の修正はしばらく見送る可能性が高い」というわけだ。
結局、日本銀行は「金融緩和の枠組みの見直し」という名前の政策修正をいつ行うのか。
「その見極めの時期は、経済、物価動向次第では年内の可能性もなお残されているが、来年の春闘で賃金上昇率が顕著な下振れが確認された後の時期が有力になっているように思われる」
ただし、その場合でもすぐ始まるわけではない。
「内外の景気情勢悪化、米国での金融緩和観測の高まり、為替市場での円高の動きなどが生じれば、『金融緩和の枠組みの見直し』は少なくとも来年後半以降になるのではないか」
ずいぶんとゆっくりとした歩みのようだ。(福田和郎)