花粉が飛散するシーズンになると、猛烈に襲ってくる鼻水、くしゃみ、のどの痛み......。いまや、日本人の3~4割が悩まされる「花粉症」は「国民病」ともいわれる。
政府は2023年4月、「花粉症に関する関係閣僚会議」を開き、本格的な対策に乗り出したが、日本経済にも悪影響を及ぼしていることが、東京商工リサーチが6月14日に発表した初の「企業の花粉症影響アンケート調査」で明らかになった。
従業員の作業効率が落ちるなど、約3割の企業が業務に悪影響が出ている、と回答した。ネット上では、「仕事中の辛さは悪夢の日々」「ウツになりそう」「休むしかない」と悩みを訴える声が寄せられている。
「作業効率低下」とともに「健康保険料増加」などコスト増も企業に痛手
政府が2023年4月に公開した「花粉症に関する関係閣僚会議議事要旨」によると、花粉症の有病率は2019年で42.5%にのぼる。政府は、10年後に花粉発生源のスギを約2割減少させ、飛散防止剤の開発促進や、企業には花粉飛散量が多い日に柔軟な働き方の推進を求める対策を打ち出したが、その企業の現場では――。
東京商工リサーチの調査は、全国の5735社が対象だ。まず、「花粉症が業務に悪影響を与えているか」を聞くと、「大いに与えている」(3.9%)と「少し与えている」(24.0%)を合わせて、「悪影響を与えている」という企業が約3割(28.0%)に達した【図表1】。
規模別では、「大いに与えている」が大企業2.6%、中小企業4.1%、「少し与えている」が大企業20.6%、中小企業24.5%と、中小企業のほうが悪影響を受ける割合が高い。これは、大企業は医療機関への受診費用の補助、在宅勤務の推奨など、コロナ禍で学んだ対策を生かしているからとみられる【再び図表1】。
悪影響を与えていると答えた企業に、具体的にどんな面で影響を受けているかを聞くと(複数回答可)、ダントツ1位は「従業員の作業効率の低下」(91.0%)だった。止まらない鼻水、我慢できない目の痒みなどで集中力が続かず、生産性や作業効率の低下が経営課題となっている【図表2】。
2位に「医療機関受診による遅刻などの増加」(21.1%)が入った。花粉の飛散量が多い日に、従業員の受診が増える悪影響が出ている。3位以下は「将来的な健康保険料の増加の不安」(14.6%)、「空調機器の導入・メンテナンス費用の増加」(8.9%)など、コストの増加に対する不安が目立った【再び図表2】。
「4割が打撃」と「影響ゼロ」の業界、花粉症被害企業が二極化
一方で、影響を「全く与えていない」(26.4%)と「あまり与えていない」(45.4%)を合わせると、約7割(71.9%)の企業で花粉症の悪影響が少なく、企業の被害が二極化している。いったい、どんな業種の企業に悪影響が及んでいるのか。
「悪影響あり」と回答した企業が多い業種の上位は、「宿泊業」(45.0%)、「自動車整備業」(44.0%)、「社会保険・社会福祉・介護事業」(43.4%)、「医療業」(42.3%)など。いずれも4割以上という高い被害率だ。対面型サービス業ほど、花粉症の影響が深刻なことを示している。
ところが、「悪影響なし」の業種を見ると、「金融商品取引業、商品先物取引業」ではまったく被害がない「0%」だった。こちらは、ほとんどスマートフォンやパソコン作業の仕事が中心だ。続いて「広告業」(2.8%)、「飲料・たばこ・飼料製造業」(9.7%)、「家具・装備品製造業」(11.6%)の順だった。
今回の調査結果について、東京商工リサーチではこうコメントしている。
「政府は、花粉症対策として約30年後に花粉発生量の半減を目指す。だが、スギ伐採増は容易でなく、国土保全や地球温暖化対策なども複雑に絡み合い、スギ材の需要拡大にも暗い影を落とす。当面、花粉症への抜本的な対策は難しく、花粉飛散量が多い日は、コロナ禍で浸透した『テレワーク・在宅勤務』でしのぐ企業が増えそうだ」
調査は2023年6月1日~8日、全国の5735社にインターネットを通じてアンケートを行なった。
瞼が腫れ、目は真っ赤...出社した瞬間、上司から「帰ってよい」
今回の調査結果について、ヤフーニュースコメント欄では花粉症で悩む人々から多くの意見が寄せられている。まず、仕事にならないという訴えから。
「子どもの頃から超重症の花粉症です。出社した瞬間、上司から『帰ってよい』と言われるほど。瞼(まぶた)は腫れ上がり、目は真っ赤......」
「花粉症が毎年辛くなってきて、今年はついにお医者さんで薬をもらったのですが...。この薬が効きすぎたのです。いわゆる体が花粉と戦わないようにする系の薬だったらしく、だるい、眠い、やる気が出ない、軽く鬱(うつ)に近い状態になり、同僚から『大丈夫か』と心配されるしまつ。薬を止めたら鬱っぽい症状はなくなりましたが、くしゃみ、鼻水、目の痒みと、また始まり辛い日々です。しかも万年鼻炎です。仕事への影響は計り知れず、です」
「営業で運転しなければ仕事にならないという私は本当に困ります。運転中にくしゃみはかなり危険だし、薬は、ひどいときだと抗アレルギー剤では太刀打ちできず、眠くなるタイプの薬でやっと止まるけど、眠くて、眠くて、危なさすぎる」
「花粉症じゃない人にはわからないだろうが、花粉の時期は本当にくしゃみして、鼻水をかんでいるだけで一日が終わる。なんなら、寝つくときにさえ、くしゃみして、鼻水をかむという残業を強いられる。これはもはや完全な公害だよ」
現在、リタイアしたと思われる人かもこんな体験談が。
「現役時代に同僚の半数が花粉症で、工場内でくしゃみの合唱も。機械の脇にティッシュ箱を置いて、マスクをかけ、出そうな時は機械から1メートル以上離れるように指導していた。幸い、くしゃみが元の事故はなかったけど、季節になると心配であった」
「花粉症は杉やヒノキばかりじゃない。昔、ゴルフ場のコース管理の仕事をしていましたが、芝の花にもすごい花粉が出る。何もしない時は花粉が飛ばないが、コースの芝刈機の後は大変でしたね。昔は花粉メガネなどなかったから、サングラスのデカイものをかけてタオルで覆面して仕事、客商売だからと注意され大変でしたね」
それぞれどんな対策を取っているのか。
「在宅ワークのおかげで助かっている。通勤とランチで花粉を吸入していたから、ここ3年は比較的楽になったよ。職場だけで3日に2箱もティシュを使っていたのが4日に1箱」
「花粉症がひどいときには、急きょ有給を使ったりしています。くしゃみのせいで首が痛かったりして、不眠で業務どころではないことがあるからです。『繁忙期と重なって困る』と言われても、どうしようもないですよね」
などと、出社しない方法しかなさそうだ。
一方、理解がない上司に怒りをぶつける人も。
「花粉症でない人間なんているのか?と思っていたが、少なからず何も症状がない人間もいてうらやましい。2月、3月ごろに上司に『どうしてそんなに鼻をかむのか?』と聞かれて、この季節に鼻をかんでいたらほぼ花粉症に決まっているだろう、何いってんだ、こいつ?と唖然とした。そんな人間と仲良くなれる気がしない」
フルフェイス型花粉症用マスク、宇宙服を着用したい...
ようやく政府が対策に乗り出したことについては、「遅すぎる」という批判が多かった。
「花粉症だけで(企業の)3割も悪影響が出ているのは異常事態だと思い。だから政府も10年後にスギを2割伐採、30年後に花粉発生量半減を目指しているのだろう。ただ、10年、30年は時間がかかり過ぎなので、なんとかして実行速度を上げて欲しい」
「長期的にやらなきゃいけないことなのに、今まで放置してきた代償は大きい。ただ、同じく放置され続けてきた少子化対策と違うのは、手遅れではないということ。我々の世代は手遅れだが、今からでも恒久対策をすれば、未来の世代のためにはなる」
「国民の約半数が、この時期一斉に同じ病気にかかると考えると、けっこう怖い。ウイルス感染症だと一週間程度で治るけど、花粉症は数か月だよ。アレルギー症対策も本気で取り組んでもらわないと、じわじわ患者数が増えていくばかりです」
最後に、こんな「アイデア」を紹介したい。
「日本は世界に名だたるマスク国家なのだから、フルフェイス型の花粉症用マスクを開発すべき。今や誰もマスク人間を気にしないのだから、これはビジネスチャンスだと思う」
「できることなら、期間中、防護服もしくは宇宙服の着用を認めて欲しい。衣替えで、かりゆしウェア(沖縄版アロハシャツ)を着てアピールするみたいに、花粉シーズン初旬に、着てアピールしてくれると助かる。......という妄想をするくらい、辛い」
(福田和郎)