「AI(人工知能)に仕事を奪われる?」などの論議が沸騰するなか、働く女性の4割以上が対話型AI「ChatGPT」(チャットGPT)などの生成AIの進歩を「仕事が効率化され、仕事がしやすくなる」と前向きにとらえていることがわかった。
働く主婦の実情や本音を探る調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2023年6月8日に発表した「AIについての意識調査」で明らかになった。
ただし、7年前に行なわれた同様の調査より、ネガティブにとらえる傾向もみられる。いったい、どういうことか。
ポジティブとネガティブの間で揺れる「AI」職場環境
「しゅふJOB総研」の調査は、仕事と家庭の両立を希望する女性834人が対象だ。
まず、「ChatGPT」などの対話型生成AI(人工知能)を使ったことがあるかを聞くと、「仕事で使用したことがある」(2.4%)、「プライベートで使用したことがある」(12.7%)、「仕事でもプライベートでも使用したことがある」(2.0%)と、使ったことがある人は17.1%だった。一方、「使用したことはない」(78.3%)は約8割に達した【図表1】。
年代別にみると、使用経験がある人は「30代以下」(22.9%)が最も多く、「60代以上」が12.5%と、若い人ほど積極的に生成AIを使いこなしていることがわかる【再び図表1】。
次に、生成AIが仕事環境に与える影響を聞いた調査では、非常に興味深い結果が出た。実は、同社では6年前の2017年にも同じ「AIの登場が仕事環境に与える影響」に関する調査を行なっているのだ。ただし当時は、「ChatGPT」など生成AIはまだ登場していなかったから、一般的なAIとして質問している。
その2023年と2017年の回答を比較した結果が【図表2】だ。
これを見ると、2023年には「仕事が効率化され、仕事がしやすくなる」(43.8%)と答えた人が、2017年(51.3%)より減っていることが目につく。また、「新しい仕事が生まれて、就職先が増える」と答えた人も2023年には8.9%で、2017年(19.7%)の半分以下だ。これらはいずれも、生成AIの登場をネガティブにとらえている見方だ。
一方で、「AIに仕事を奪われて、就職先が減る」「仕事のやり方が変わり、仕事がやりづらくなる」といった質問には、肯定する割合が2023年には2017年より減っており、生成AIの登場をポジティブにとらえている【再び図表2】。
このちぐはぐな結果をどうみたらよいのだろうか。カギは「わからない」という質問の回答にありそうだ。2023年(19.1%)は、2017年(9.5%)の2倍以上に達している。「ChatGPT」の評価について、推進派と規制派の間でさまざまな論議が話題になっており、「判断に困る」といったところかもしれない。
人間がより切磋琢磨することで、AIも優秀になる
フリーコメントを見てもそれが表れている。まず、積極的な推進派からは――。
「使う側のアイデアも問われるし、指示出しの仕方で回答の精度も明確に違う。頼りきると言うよりは優れたアシスタントや同僚として、相手(AI)への配慮と誠実な気持ちを忘れずに付き合っていく必要があると思う」(40代:派遣社員)
「新しい技術に対して、怯えずに、それを利用して、どのように社会が上向くかを考えたいので、触れたいし、触れることで、個々の自己啓発にもなるならば、いいことしかない」(40代:パート)
「翻訳者なので興味津々。技術のない自称翻訳者はどんどん淘汰され、職を失う一方で、間違いが許容されない分野などでは人間がやる事はまだ必要かと思います。ただ、ポストエディット(機械翻訳で生成された訳文を人間の翻訳者が修正する作業)は増えていくでしょう」(60代:正社員)
「店舗への口コミに対する返信は、AIでいいと思うと提案したが、上司には受け入れられなかった。柔軟性のある考え方が必要だと思う」(30代:パート)
「現状のAIは人間が与えたデータを学習しているので、人間がより切磋琢磨することでAIも優秀になるだろうな、と思っている」(50代:自営業)
本当に「ターミネーター」のような時代がくるのではないか?
一方、懐疑的な人からはこんな意見が――。
「過渡期なので問題が起こった際の対応(方針)を固めて欲しい。使いながらお互い成長は理想だが、ビジネスシーンでは、それでは済まないことも想定され、使用に躊躇してしまう」(50代:派遣社員)
「便利かもしれないが、弊害も生まれてくると思う。AIの発達によって人の思考回路が衰退し、やがてAIが自ら意思を持つようになり、人を支配する可能性も考えられる」(40代:派遣社員)
「空っぽのAIは、必要な情報を与えて教育しないと働いてくれません。その情報を用意する作業をしていたため、各職場でそこの仕事に適したAIを用意するとなると、膨大な作業と費用が発生しますが、それ誰がするのかな?と思ってしまいます」(50代:パート)
「仕事をもらえる人と、もらえない人の二極化が進んでしまうと思う。大きな貧富の差がうまれて、より一層厳しい世の中になっていくと感じている」(40代:パート)
「AIにとって代わられない職種に就くことが大事かなと思う」(50代:フリー)
「出てきたデータを鵜呑みにする人が増えそうで、ファクトチェックは誰がどのようにするのか課題が多い」(40代:パート)
「技術が日々進歩するのは素晴らしいことですが、いつか行き過ぎると、本当に『ターミネーター』のような時代がきてしまうのではないかと思う時があります」(40代:今は働いていない)
過度な期待、過度な恐怖を捨て、まず実際にAIと接しよう
今回の調査について、しゅふJOB総研研究顧問の川上敬太郎さんはこうコメントしている。
「『ChatGPT』の登場で注目が集まるAI。就労志向の女性に『AIという言葉をご存じでしたか』と尋ねると、実に98.6%が知っていると回答しました。2017年の調査より、2ポイント上昇しています。
さらに、『AIの発達は、あなたの仕事環境にどのような影響を与えると思いますか』と尋ねると、最も多かったのは『仕事が効率化され、仕事がしやすくなる』で48.3%。次いで『AIに仕事を奪われて、就職先が減る』が34.1%でした。
ただ2017年と比較すると『仕事が効率化され、仕事がしやすくなる』も『AIに仕事を奪われて、就職先が減る』も減少した一方、「わからない」と回答した人の比率は増えており、AIについての認知が進む一方で、かえってその影響が読みづらくなっている様子がうかがえます。
生成AIの登場で、AIが雇用に与える影響は新しい段階を迎えたように思いますが、過度に期待するのでもなく、過度に怖れるのでもなく、AIと人間との最適な共存を考える上では、まず多くの人が実際にAIと接する機会を増やすことがポイントになるように思います」
調査は2023年5月17日~24日、求人サイト「しゅふJOB」の登録者など就労意識のある女性834人にインターネットでアンケートを行なった。(福田和郎)