プラスチックごみの汚染を規制する国際条約を結ぼうという協議が進んでいる。このほどパリで開かれた政府間交渉委員会(INC)で、2023年秋までに国際条約の最初の草案が示されることになった。
ただ、目標の設定や規制の範囲など隔たりは大きく、協議は難航が予想される。
プラ製品の「再使用」など進めば、2040年までにプラごみ流出量80%以上減る試算
石油から作られるプラスチックは、自然に分解されないため、ごみとして燃やせば地球温暖化の一因となり、廃棄すれば自然環境にダメージを与える。
特に、海洋に放出されたごみは、小さく砕かれた「マイクロプラスチック」となり、これが海洋生態系へ影響をおよぼすと懸念されている。2050年には、海中に蓄積したプラごみが魚の重量を超えるとの試算もある。
経済協力開発機構(OECD)によると、世界のプラごみの排出量は2019年に3億5300万トンと20年前の約2倍になった一方、リサイクルされているのはわずか9%にとどまる。
国連環境計画(UNEP)が今回のINC会合までにまとめた報告書によると、管理が不適切なプラごみは、世界全体で2015年に6000万~9900万トンに上ったという。16年には1100万トンが海に、3100万トンが陸の環境中に流出し、4900万トンが野焼きされた。
こうした不適切管理のプラごみの量は、このままでは2040年に2.5倍に膨らむとしている。
一方、UNEPはプラ製品の「再使用」などの対策を進めれば、40年までにプラスチックの新規生産が半減し、環境へのプラごみ流出量は80%以上減ると指摘している。
そうした対策に必要な投資額は年約650億ドル(約9兆円)になるが、プラごみ削減で人の健康や環境への悪影響を抑えられ、21~40年に3兆3000億ドル(約460兆円)のコストを回避できるとの試算も示している。
削減目標の設定、生産量の規制を主張する欧州 各国の自主的な削減計画に任せるかたちを求める日本、中国、アメリカ
プラごみ問題については2022年3月の国連環境総会で、2024年中に、原料採掘から生産・消費・廃棄までのライフサイクル全体を対象に、法的拘束力のある条約を作ることを決議した。そして、INCを設置し、計5回の会合で2024年末までに条約案を整え、2025年以降に採択することになっている。
今回のINC会合は22年11~12月に続く2回目。環境へのダメージを抑えるため、ごみの管理を優先すべきだという考えもあれば、原料の生産や使用の段階的な禁止まで踏み込むべきだと考える国もあり、意見が割れている。
欧州などは世界共通の削減目標などの基準を盛り込み、プラスチックの生産量も規制するべきだと主張する。一方で、日本は「生産、消費の段階に求められる取り組みを各加盟国の実情に合わせて実施すべきだ」(西村明宏環境相)との立場で、地球温暖化対策の「パリ協定」のような、各国の自主的な削減計画に任せるかたちを求めている。中国や米国も同様の立場だ。
今後、途上国への支援などの検討も必要に
今後、世界共通の目標を掲げるか、原料や製品の生産削減まで規制に含めるかが焦点になり、削減方法や途上国への支援など具体的な検討が必要だ。
現代社会は、軽くて加工しやすいプラスチックの便利さに浸りきっている。ようやく、その害に対して人類が立ち上がった段階だが、問題解決には、再利用やリサイクルが必要なのはもちろん、使用量を減らすことが不可欠だ。
地球温暖化対策と同じように、プラごみ対策の必要性を人々が認識し、使い捨て製品の規制など、生活の在り方を見直すことが出発点になる。(ジャーナリスト 白井俊郎)