ネット上の誹謗中傷 ジャーナリストの場合、男性よりも女性が多い傾向 話題の出来事の議論から「攻撃」に(鷲尾香一)

人気店や企業から非公開の招待状をもらおう!レポハピ会員登録

   ネット上での誹謗中傷の状況についての連載の2回目は、国際大学の研究プロジェクト「InnovationNippon」の発表から「ジャーナリストへの誹謗中傷の実態」を取り上げる。

「特定のニュース記事・コンテンツに対してコメント」するジャーナリスト58.0%

   <ネット上の誹謗中傷 女性よりも男性、年齢が低い人ほど多い傾向 被害受けやすい属性、行動、投稿内容とは?(鷲尾香一)>の続きです。

   調査は、文献調査と過去1年以内にSNSや動画サービスで、実名と、所属組織や記者であることを明らかにしたアカウントを持っているジャーナリストを対象とした。

   アンケート調査によって行われ、新聞協会所属企業に所属67人、新聞協会所属企業にコンテンツを提供しているフリーランス39人、新聞協会所属以外の企業に所属38人、新聞協会所属企業にコンテンツを提供していないフリーランス56人の合計200人の回答による。

   なお、この調査では一般の人と同様に、誹謗中傷を以下の9つに定義した。

(1)脅迫・恐喝に当たるような悪口
(2)侮辱的・攻撃的な言葉を含む悪口
(3)容姿や人格を否定する悪口
(4)親族、友人、所属する組織に対する攻撃的な言動・悪口
(5)性別・人種・宗教・障碍などに関する差別的な悪口
(6)不幸が降りかかることを願う、呪うような表現
(7)社会的グループから排除するような表現
(8)嘘の情報を使った悪口
(9)性的な表現や画像の要求、画像の送信(セクハラ)

   まず、サービスの利用傾向では、Twitter、Instagram、Facebook、TikTok、YouTubeの中で、Facebookが78.0%で最多となっており、次いでTwitterの73.0%、3番目がInstagramの68.0%となっている。(グラフ1)

   投稿内容としては、「日常生活に関する投稿」が49.6%と圧倒的に多い。また、「特定のニュース記事・コンテンツに対してコメント」など、コンテンツに関する投稿を行っている対象者は58.0%と、2人に1人以上であった。

   ジャーナリストとしてサービスでの情報公開設定については、「居住地域をプロフィール欄に記載」が35.5%で最も多く、次いで、「顔写真をプロフィール画像に設定」が32.5%だが、いずれにも該当しない「この中にはない」が49.0%となっている。(グラフ2)

   サービスを通じての交流状況では、52.0%と半数以上がサービス上で交流をしていない。交流を行っている場合でも、同じ勤務先ではない友人や恋人、知人(37.5%)との交流を行っていることが多く、見ず知らずの人(24.0%)と積極的に交流している人は少ない。

   誹謗中傷の状況では、1つ以上経験している人は21.5%となっている。1回目に取り上げた一般の人では24.7%だったので、ジャーナリストが誹謗中傷を受ける割合が高いことがわかる。

   特徴的なのは、一般の人では女性よりも男性に対する誹謗中傷の割合が高かったのに対して、ジャーナリストの場合には、男性が20.9%の経験率に対して、女性が23.1%と男性よりも高くなっていることだ。

誹謗中傷の経験が多かったサービスはTikTok 配信者の顔が見えるから?

   誹謗中傷の内容を男女別でみると、最も多いのは男性に対する「侮辱・攻撃」の9.5%だが、次いで多いのは女性に対する「侮辱・攻撃」と「容姿・人格の否定」の7.7%となっている。

   一方、一般の人では男性の倍以上に多かった「セクハラ」は、女性ジャーナリストではいなかった。(グラフ3)

   ジャーナリストのタイプ別に見ると、フリーランスのジャーナリストの方が、新聞協会所属企業に所属しているジャーナリストよりも誹謗中傷を受ける経験が多い。なかでも、新聞協会所属企業にコンテンツを提供しているフリーランスのジャーナリストは33.3%と高くなっている。

   これを男女別にみると、新聞協会所属企業にコンテンツを提供している女性のフリーランスのジャーナリストは41.7%、新聞協会所属企業にコンテンツを提供していない女性のフリーランスのジャーナリストは37.5%と高く、いずれも男性を大きく上まわっている。(グラフ4)

   誹謗中傷された投稿内容としては、「他のジャーナリストとの日常会話」が66.7%で最も多く、次いで、「トレンドになっているコンテンツに関して、議論を開始するような投稿」が61.9%、「他のジャーナリストに業務の質問やアドバイスを求める」58.3%、「他のジャーナリストとの交流」57.1%と続くことから、話題の出来事について議論を開始することや、ジャーナリスト同士で交流に対して、誹謗中傷が多いことがわかる。

   最後に、誹謗中傷経験について、サービス別にみると、TikTokの誹謗中傷経験率が34.5%と突出して高い。

   調査分析では、TikTokの誹謗中傷経験率高い理由として、映像を配信するSNSのためコンテンツ配信者の顔が見えることや、特定のコンテンツに対して簡単にコメントでメッセージを送れてしまうこと、匿名利用者も多いことなどをあげている。(グラフ5)

   誹謗中傷を受けたジャーナリストの中には、は「攻撃的・悪口的な投稿をされたサービスでの活動を減らした」との回答が11.6%あり、投稿内容への疑問は残るものの、誹謗中傷によってジャーナリストが投稿活動の縮小や、表現を萎縮されるという反動が出ていることがわかる。

   誹謗中傷の防止は非常に難しい。だが、ネット上での誹謗中傷がなくなるように、教育を含めた対策を継続していかなければならない。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
姉妹サイト