商用車市場、再編の衝撃!日野と三菱ふそう統合でどう変わる? 「いすゞ・UDトラックス連合」と2陣営が競う構図に...台頭する中国を抑え、国際競争力は高められるか?

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   トヨタ自動車子会社で商用車専業の日野自動車が、独ダイムラートラック傘下の三菱ふそうトラック・バスと経営統合することになった。トヨタとダイムラートラックを含む4社が基本合意したが、国内外のライバルとの関係は複雑で、商用車の国際競争は激しさを増しそうだ。

  • ダイムラートラック、三菱ふそう、日野、トヨタの共同記者会見(左から、日野自動車 代表取締役社長 CEO 小木曽 聡氏/トヨタ自動車 社長 CEO 佐藤 恒治氏/ダイムラートラック CEO マーティン・ダウム氏/三菱ふそう 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏/トヨタ自動車のプレスリリースより)
    ダイムラートラック、三菱ふそう、日野、トヨタの共同記者会見(左から、日野自動車 代表取締役社長 CEO 小木曽 聡氏/トヨタ自動車 社長 CEO 佐藤 恒治氏/ダイムラートラック CEO マーティン・ダウム氏/三菱ふそう 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏/トヨタ自動車のプレスリリースより)
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日野と首位争ういすゞは、トヨタと資本提携...複雑な構図に

   まず、国内を見渡すと、商用車の大手メーカーは日野、三菱ふそうの他に、いすゞ自動車とUDトラックスがある。

   いすゞと日野は、国内で首位争いを演じている。日野はトヨタの子会社だが、トヨタはいすゞとも資本提携している。この関係はちょっと複雑だ。

   米GM(ゼネラル・モーターズ)がいすゞ株を手放した2006年、トヨタはいすゞに出資した。だが、18年にいったん資本提携を解消。その後、トヨタは21年、いすゞと互いに約5%の株式を持ち合うことで合意し、資本業務提携を復活させている。

   この構図はトヨタがダイハツ工業を完全子会社として持ちながら、軽自動車でダイハツの最大のライバルであるスズキとも資本提携している関係に似ている。商用車においても、トヨタとしては子会社のライバルを自らのグループに引き寄せ、互いに競わせることで、相乗効果を狙う戦略なのだろう。

   いすゞは商用車でスウェーデンのボルボと提携しているほか、国内3位のUDトラックスを2019年に完全子会社にしている。UDトラックスは、かつての日産ディーゼルだ。

   今回、日野と三菱ふそうが経営統合することで、日本の商用車メーカーは、大きく「日野・三菱ふそう」と「いすゞ・UDトラックス連合」の2グループに集約されることになる。

乱立状態の世界の商用車市場で、生き残りをかけて

   今回の日野と三菱ふそうの経営統合は、両社が国内だけでなく、世界の商用車市場で生き残るためなのは言うまでもない。

   2020年のトラックの世界シェアは、中国の東風汽車が1.59%で首位。ダイムラートラックが1.3%で2位、インドのタタ自動車が1.26%で3位、中国の中国重型汽車が1.01%で4位となり、日本勢はいすゞが0.95%で5位、日野が0.91%で6位となっている。

   世界のトラック業界は乗用車と異なり、上位メーカーでも市場シェアが驚くほど低く、各国メーカーの乱立状態にある。そのなかで、ご多分に漏れず、長年首位だったドイツのダイムラートラックを抜き、首位となった東風汽車に代表されるように中国メーカーの台頭が目立つ。

   海外メーカーではボルボ、独フォルクスワーゲングループのトレイトン、マン、スカニアなどが有名だ。いずれも欧州では数多く見かけるが、世界シェアは決して高くない。

   その国際競争の中で、日本の商業車メーカーが生き残るには、トヨタといえども日野単独で戦うのは難しく、ダイムラートラック傘下の三菱ふそうと組むのが最善と判断したのだろう。

長距離トラック、バスなど商用車は電動化が難しく...環境対応の投資の面でも強力タッグ

   小型トラックや路線バスは電動化できたとしても、長距離トラックや観光バスなどは電動化が難しく、燃料電池車か脱炭素燃料などの技術革新が迫られる。 これら環境対応の投資という面からも、企業規模がものをいうのは間違いない。

   トヨタの佐藤恒治社長は2023年5月30日の記者会見で「トヨタとダイムラートラック、三菱ふそう、日野も含めた4社で、水素モビリティーの普及を商用車から加速させていきたい。まずは三菱ふそうと日野の統合で、世界で戦える事業基盤を整えていきたい」と語った。

   トラックやバスなどの商業車は趣味性の高い乗用車と異なり、デザインや性能の違いをユーザーにアピールすることが難しい。その意味では「白物家電」に近いともいえる。

   つまり、家電メーカーのようにライバルと商品の違いを出しにくい市場で、日野が三菱ふそうと組んだ以上、残されたいすゞ・UDトラックス連合はどうするのか。これまでトヨタやボルボと提携しながらも、独立性を維持してきたいすゞの行方が注目される。

日野と三菱ふそう、両ブランドは残る方向か 相乗効果は発揮できるか?

   かつては日野も、いすゞも、乗用車を生産・販売していた。とりわけ日野は戦後、仏ルノーと提携し、リヤエンジンの後輪駆動車を得意とした。独自開発の「コンテッサ」ではイタリアのデザイナーを起用し、流麗なスタイルのセダンとクーペが人気だった。

   しかし、トヨタや日産などライバルとの競争に勝てず、1966年にトヨタと資本提携するとともに乗用車から撤退し、商業車専業メーカーとなった。

   いすゞも同様に、「ベレット」「117クーペ」「ジェミニ」「ピアッツァ」などの乗用車を生産していたが、1993年に撤退し、商業車専業となった。

   日野、いすゞとも、かつての乗用車には根強いファンが健在で、今も「日野コンテッサクラブ」「いすゞ117クーペオーナーズクラブ」などが存在する。

   今回の日野と三菱ふそうの経営統合は、何をもたらすか。

   さすがにトラックやバスにオーナーズクラブは存在しないと思われるが、トラックやバスを愛すクルマ好きも多い。このためか今回の経営統合でも、日野と三菱ふそうの両ブランドは残るという。

   乗用車メーカーの経営統合に比べれば地味な存在だが、2陣営が競う構図となった日本の商用車メーカーの国際競争に注目したい。(ジャーナリスト 岩城諒)

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