この春、管理職に昇進したけれど、チームの業績が伸びずに悩んでいる人はいないだろうか。
中間管理職に向けて、組織を円滑に回すためのマネジメント理論を紹介したのが、本書「急成長する組織の作り方が2時間でわかる! 識学マネジメント見るだけノート」(宝島社)である。
「急成長する組織の作り方が2時間でわかる! 識学マネジメント見るだけノート」(株式会社識学・監修)宝島社
株式会社識学が監修した。識学は、組織内の誤解や錯覚がどの過程で生まれ、どうすれば解決できるのかを追究し、体系化した独自の理論「識学」をベースに、マネジメントコンサルティング事業を手掛けている。代表取締役は、「数値化の鬼 『仕事ができる人』に共通する、たった1つの思考法」の著者、安藤広大さん。
冒頭で、若手リーダーにはリスクが多い、と指摘する。
優秀なプレーヤーほど、手取り足取り、部下を指導しがちだ。あるいは、プレーヤー意識が抜けず、自身の背中を見せることで仕事を教え、部下を育てようとする。どちらも正しい役割を果たしているとは言えないという。
空気は読まない。理論でマネジメントする
第1章では、「どんなリーダーであるべきか」を説いている。まだプレーヤー時代の気持ちやメンタリティが残っている若手リーダーは、まず心構えの面から切り替えていく必要があるというのだ。
まず、強調しているのは、「空気を読む必要はない。一定の理論でマネジメントを」ということだ。部下の感情を読み取ろうとするリーダーは、実は部下の成長を妨げる悪い見本だ、と厳しく指摘している。
周りからの反発や自分の思い込みを乗り越えて、理論やルールによるチーム運営を勧めている。感情を表に出していいのは、企画やプロジェクトの終着点で結果が出たとき。それまでは表情は表に出さないことが大切だ。
「モチベーション自体を頑張る理由にさせない」という記述にも驚いた。モチベーションが上がる要因は人それぞれ。会社や上司が用意する必要はない、と説明している。
また、自分の言動が、パワハラではないかと極度に恐れる必要はないという。パワハラに過敏になるあまり、部下へはっきりと指示を出せない、ミスを注意できないといったリーダーがいるとしたら、それは会社にとって大きな損失になる。
さみしいからといって、部下と友人関係になるのは失格。リーダーは「厳しい塾の先生となるべし」と説いている。
第2章は、「部下への実践的マネジメント術」。部下に優しい上司と思われたくて、「この資料をまとめておいてくれるかな?」など、「お願い」という形で指示を出す人がいるが、これは上司と部下の位置を間違えた振る舞いだ。
お願いでは、「する・しない」の決定権が部下にあることになり、責任の所在もあいまいになる。上司が使うべき口調は、言い切り口調だ。「明日の午後1時までに資料をまとめてください」など、はっきりと言い切る形で指示を出すのが肝要だ。
「飲みニケーション」は、もう終わった文化
「飲みニケーション」は、コロナ禍でなくなった習慣という指摘にもうなずいた。そもそも飲みニケーションによって部下をマネジメントすることに問題があるという。上司と部下の距離が近いと、部下から情報を収集しやすいというメリットはあるが、デメリットも多いのだ。
まず、上司と部下の関係の根幹が崩れる。また、部下は「自分が上司に必要とされている」と勘違いする。さらに、よく飲みに行く人が優遇されるので、他のメンバーが意欲を失い、組織内での競争原理が働きにくくなる。
チーム内での部下同士の健全な競争状態を作るのが、組織として望ましいことだ。そのためには評価の基準を明確にするなど、ルールを設ける必要がある。
そこで勧めている方法が、部下たちの業績を可視化すること。「1位を目指せ!」と煽らずとも、あくまで数字で現実を部下に突き付けるだけでいいという。
公平な評価のため、「プロセス(過程)を重視するのもやめよう」という提案も新鮮だ。「プロセス重視が通用するのは小学生相手だけ」と厳しい。
一方で、根底に客観的事実があれば、仕事のプロセスを評価しても問題ない。たとえば、「電話で10件のアポイントを取った。チーム内で最多だ」という状況があれば、評価しても大丈夫だという。どういうことか。事実に基づいて評価するので、他の部下も「自分には何が足りないのか」を認識することができるからだ。
プロセス重視の評価は、部下の「頑張っているアピール」を生み出す、という記述にも納得した。その典型が、残業アピールだ。上司は仕事のプロセスへの介入をやめて、結果だけを見るようにすればいい。そうすると、上司は別の仕事に手を回せるようになり、チーム全体の働き方も効率化される。
プロセスへの介入を減らすためのよい方法が、実はリモートワークという指摘も新鮮だ。コロナ禍の終息後も、リモートワークを続けている企業は、そうしたメリットに気が付いたのかもしれない。
数値化は、職場に数々の恩恵をもたらす
第3章は、「数値で見る部下管理のすすめ」だ。数値化は、職場に数々の恩恵をもたらす。コミュニケーションコストが減るのもその1つだ。
データのない不毛な会議、認識の違いによる仕事上のエラーなど、職場にはコミュニケーションに付帯する多くのムダが存在する。数値化により、そうしたムダなことに割かれていたコストを大幅に減らすことができる。
ビジネスの場で、数値化するということは、すなわちPDCAを回すことを意味する。ご存じ、Pは計画、Dは行動、Cは評価、Aは改善で、古典的なフレームワークの1つだ。
新人や、なかなか結果が出ない部下には、リーダーが最初のうちだけ、プロセスを管理する必要があるという。部下の行動量が減らないよう、当面の指標を設けてやるのだ。
いわば目標のための目標で、KPI(Key Performance Indicator)という。KPIによってDの中身を設定してやることで、素早くDに移れる環境が整う。
第4章「上司や会社との付き合い方」では、「上司からきちんと評価される管理職を目指せ」「一時的に自分の評価が下がることを恐れない」「経営者のつもりで考えるのは間違っている」などの項目がある。
通読すると、自分がいかに管理職として間違っていたかを痛感する人も多いだろう。評者もまた然り。若いリーダーに読んでもらいたい1冊だ。(渡辺淳悦)
「急成長する組織の作り方が2時間でわかる! 識学マネジメント見るだけノート」
株式会社識学・監修
宝島社
2180円(税込)