徐々に活用が広まる!新たな不動産投資スタイル「不動産クラウドファンディング」...専門家がメリット&デメリット解説!(中山登志朗)

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   ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、日米の政策金利差を背景とする円安の進行により、消費者物価がじりじりと上昇し続けています。

   海外のインフレ率と比較すると、上昇ペースは緩やかですが(需要と供給の差=GDPギャップが大きいことが主な要因と考えられます)、建設資材の多くを輸入に頼る新築住宅の価格も例外ではなく、2023年3月には首都圏新築マンションの平均価格が1億円を突破するという異例の状態です。

   そのうえ、新築住宅価格の上昇に伴って、中古住宅の価格も上昇しています。ですから、ユーザーがなかなか条件に合う物件を見つけられない、という状況も発生しています。

   日米の金利差が今後さらに拡大し、円安も進行することが見込まれるため、住宅価格の上昇もまだまだ続いていく可能性が高いと言えます。前回のコラムでお伝えしたように、住宅ローン金利、特に変動金利は安定推移していますから、今後も住宅需要を支えるうえで重要度を増すことになるでしょう。

2000年以降、アメリカで始まった不動産クラウドファンディング...特徴は?

   現状のように、住宅価格が明確に上昇し始めると、不動産業界で活発になるのが不動産投資関連ビジネスです。

   物件価格が上昇するということは、資産性がそれだけ増すことを意味します。そのため、価格高騰によって実需物件を購入できなくても、不動産に投資することによって価格上昇の「恩恵」は受けることができるわけですから、関心が向くのも当然のことと言えます。

   今回は、近年特に注目され始めている不動産クラウドファンディングについて解説します。

   アメリカでは2000年代の初めに新しい不動産投資スキームとして始まったのですが、日本に導入され始めたのは2011年頃で、国内では比較的、新しい不動産投資手法と言えます。

   クラウドファンディング自体は、現在ではインターネットを介して不特定多数の人から資金を募る、というのが最も基本的な方法です。それが、コロナ禍によって自宅で過ごす時間が増えたことも手伝って、「ネットで」「少額から」「手軽に」というキーワードが浸透し、急速に認知が拡がりました。

不動産クラウドファンディングと、REIT(不動産投資信託)との違いは?

   不動産クラウドファンディングは、投資型クラウドファンディングの仕組みを使ったものです。つまり、調達した資金で不動産を購入・運用し、その賃料や売却益を投資額に応じて分配します。

   REIT(不動産投資信託)のように小口に細分化されている点では同じですが、最大の違いは、REITが複数の不動産を集めて証券化し、その証券を購入=投資という形式なのに対し、不動産クラファンは特定の物件に投資するかしないかという判断になるということです。

   つまり、REITは組成されている不動産がどれなのか認識できても、個々の不動産の詳細な運用益や運転資金などを把握することはなく、それらは基本的に全て運用側に任されています。

   一方で、不動産クラウドファンディングは物件単位で資金を募るのが一般的ですから、投資につきもののリスクを分散したいということであれば、複数の不動産クラウドファンディングに投資するといった対応が必要になります。

   また、特定の不動産を対象とするという点では、現物の不動産投資と同じ。しかし、たとえばワンルームマンション1戸単位、賃貸アパート1棟単位といった、数千万円から億単位の資金を用意する必要もありません。

不動産クラウドファンディングのメリットとデメリットは?

   さまざまな要因から不動産価格が上昇する局面、また、コロナ禍で移動を伴う経済活動にまだまだ慎重にならざるを得ない状況下で、不動産クラウドファンディングは投資家にも、あるいは不動産投資にそれほど関心のない一般の消費者にも知られるようになってきています。

   特にクラウドファンディング自体に馴染みがあって、さまざまなものづくりや経済活動を購入や寄付で応援することを楽しむ若年層が増えたことで、抵抗感が薄れていることもまた、不動産クラウドファンディング拡大の一因です。

   では、不動産クラウドファンディングには、デメリットやリスクはないのでしょうか。

   投資商品ですからもちろん投資金額が回収できないといったリスク(元本割れ)は想定内ですが、それ以外のリスクについて考えます。

   まず、不動産クラウドファンディングは投資期間が事前に運用側によって決められており、その期間が満了しないと原則として売却・清算できません。つまり、自分が売りたいと思った時に売れないというリスク(流動性リスク)があります。

   ただし、不動産クラウドファンディングは小口化されており、一般的に一口1万円、5万円といった不動産投資としては極めて少額なロットから投資可能であることを考慮すれば、流動性リスクは相対的に低いと見ることができます(もちろん、まとめて大口投資するのであれば、話は別です)。

   また、不動産クラウドファンディングに投資する目的で、金融機関から融資を受けるといったことも現時点では極めてハードルが高いです。自身が保有する資産を担保として融資を受け、それを不動産クラウドファンディングに投資することはできますから、結果的には同じことですが。しかし、レバレッジを効かせた投資を実施したいと考えるならば、不動産の現物に投資したほうがスキームとしてはシンプルです。

   さらに、不動産クラウドファンディングにおける投資先は特定のファンドであったり、規模の小さい組織が主体であったりすることも少なくありません。したがって、解散・倒産した際に、投資資金を回収できなくなるというリスクは常にあります。

有望そうな不動産クラウドファンディングを「応援」

   もっとも、このようなリスクは不動産投資だけでなく、さまざまな投資商品にあるものなので、一様にデメリット&リスクとして避けるのではなく、リスクヘッジしながら少額投資で自己資金を少しずつ増やす手法と認識すればよいでしょう。

   住宅やホテル、オフィスビルの開発に参画することによって、社会インフラ、社会資本の整備にも貢献するという体験・自覚が持てますから、一般的なクラウドファンディングと全く同じ感覚で、有望そうな不動産クラウドファンディングを「応援する」ことを検討してみてもいいでしょう。

   ただし、くれぐれも「投資は自己責任」が大原則であることもお忘れなきよう。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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