就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?
財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、フードロス削減のためのマッチングサービスを運営し、2023年6月30日に東証グロース市場に上場予定のクラダシです。
クラダシは2014年に会社設立、翌2015年にソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」のサービスを開始しました。その後、社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」やウェブメディア「くらだしマガジン」をリリース。2022年には公益性の高い企業を認証する「B Corp」を取得しています。
廃棄予定商品を仕入れ、会員に安価で販売
それではまず、クラダシの近年の業績の推移を見てみましょう。
クラダシの売上高はここ数期、急速に伸びています。2018年6月期の売上高は約3億円でしたが、これを3年で4倍超に増やし、2022年6月期は20億円を超えています。
一方、利益は大きく伸びず、2021年6月期の営業利益は5400万円あまりで、営業利益率は4.3%。2022年6月期には7400万円の営業赤字に転落しています。
なお、2023年6月期の第3四半期末時点での累計売上高は22億2462万円と前期末をすでに上回っていますが、販売費及び一般管理費が嵩み、1億3404万円の営業赤字、1億2668万円の四半期純損失となっています。
クラダシは「Kuradashi」運営事業の単一セグメントで、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を主要サービスとして展開しています。
「Kuradashi」とは、さまざまな理由で廃棄予定となっている商品をパートナー企業から「協賛価格」で買い取り、会員に対して「最大97%OFF」の安価で提供するサービスです。さらに、売上金の1~5%を社会貢献団体に寄付することで、社会貢献活動の活性化を図っています。
このような仕組みにより、フードロスなど廃棄物の発生の大幅削減につながるほか、会員はお得な買い物を楽しみながら「エシカル(倫理的な)消費」を実現できるというわけで、持続可能な社会の実現につながる「エコでソーシャルなビジネスモデル」として注目されています。
商品の廃棄理由は「3分の1ルール」の抵触など
「Kuradashi」の会員は、ウェブサイトやアプリを通じて商品を購入することができます。サイトでは「半額以下のおトクな商品あつめました」「賞味期限間近の商品あつめました」などのキャンペーンを展開しています。
取引形態は「在庫型」と「マーケットプレイス型」があり、在庫型は通常の自社仕入れ・発送ですが、マーケットプレイス型は会員から受注した分だけパートナー企業へ発注・仕入れし、パートナー企業から会員へ直接発送します。
なお、商品の廃棄理由は、季節商品、終売商品、賞味期限切迫商品、滞留商品などのほか、「3分の1ルール」に抵触した商品も含まれます。
「3分の1ルール」とは、製造日から賞味期限までを3等分し、納品・販売期限を設ける商習慣のこと。たとえば賞味期限が3か月の食品の場合、メーカーや卸は製造後1か月以内に、その食品を小売店まで納品しなければならず、これを超える食品は賞味期限が残っていても廃棄対象になる可能性があります。
クラダシは自社の販売活動を、通常のルート販売である「1次流通」、中古販売の「2次流通」に対比して「1.5次流通」と名付けています。
社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」では、人手不足に悩む地域・農家と、地方創生やフードロス問題に興味がある学生をマッチングし、未収穫の一次産品の収穫などの農業体験によりフードロスの削減を目指す活動です。これまで、北海道から沖縄まで累計14か所で開催されています。
平均年齢34.6歳、平均年収654万円
クラダシの2018年6月期末の従業員数は、なんと1人。翌2019年6月期末も1人で、2020年6月期末になってようやく4人となっています。
業務委託などを活用していた可能性もありますが、近年まで代表取締役社長の関藤竜也氏がほとんど1人でサービスを運用していたようです。
その後は、2021年6月期末には21人、2022年6月期末には39人。2023年4月末現在で40人と順調に増加。従業員の平均年齢は34.6歳、平均勤続年数は1.6年、平均年間給与は654.1万円です。
関藤氏は1995年4月に住金物産(現日鉄物産)に入社し、大阪で阪神淡路大震災に被災。2002年にヒューマンエージェントの取締役副社長に就任し、2014年7月にクラダシの前身となる会社を設立しています。
クラダシの採用サイトを見ると、管理部門のほか、「ビジネス/営業/バイヤー」「新規事業開発/Bizdev/経営戦略」「事業戦略」「物流・経済担当」といった職種での募集が行われています。
「新規事業開発/Bizdev/経営戦略」の場合、将来的にEC推進ポジションなどのリーダーやマネージャーを予定し、想定年収を500~800万円としています。
「フードロス市場」が予想どおり成長するか
クラダシは、ミッションに「ソーシャルグッドカンパニーでありつづける」、ヴィジョンに「日本で最もフードロスを削減する会社」を掲げています。パートナー企業の累計数は1319社、会員数は46万人を突破している(2023年3月末現在)とのことです。
クラダシの資料によると、日本のフードロスの過半数は(家庭系ではない)事業系が原因であり、サプライチェーンの上流でも廃棄が起きる構造が問題視されています。
事業上のリスクとしては、たとえば大手スーパーが「3分の1ルール」をやめるなど、パートナー企業の廃棄ルールの見直しにより、商品供給が不安定になるのではないかという懸念があります。
この点について、有価証券報告書の「事業等のリスク」には、「取扱商品の特性上、特定の商品の安定供給を受けることは困難」としながらも、商品の確保にあたっては複数のパートナー企業を確保する等、不測の事態には備えているとして、「供給不足の可能性」のリスクは、顕在可能性が《低》、影響度も《低》となっています。
一方、顕在可能性が《中》、影響度が《高》のリスクとしては、「フードロス市場」が予想通りに拡大しなかった場合や、「競合他社」が新たに現れた場合などとしています。また、保管コストや配送コストの上昇についても、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼす可能性があるとしています。(こたつ経営研究所)